「映像で残したいニッポンの家」
おうちMovie
by 
生活普段議 
www.cabbage-net.com/seikatsu/
第36号   山本 想太郎さん  「設計の重点は『解ききる』こと」
今回はプロスペクターの山本想太郎さんです。
かつてはゲームのソフト会社でアルバイトをしていたほどゲームがお好き。日本のゲーム史は山本さんに聞けば全部わかります(?)。
プロスペクターの一員として設計活動をする山本さん、信念は「解ききる」こと。果たして、その意味は…。
 
山本 想太郎(やまもと そうたろう)

東京都出身
1985年 私立芝高校卒業
1989年 早稲田大学理工学部建築学科卒業 /
     第24回セントラル硝子国際建築設計競技最優秀賞
1990年 毎日学生住宅デザイン大賞 大賞
1991年 早稲田大学理工学研究科(建築専攻)修士課程 修了
    (株) 坂倉建築研究所 勤務
1997年 新建築住宅設計競技 1997 2席
2004年 一級建築士事務所 山本想太郎設計アトリエ 主宰
2006年 東洋大学非常勤講師

建築家ネットワーク プロスペクターのホームページ
http://park16.wakwak.com/~prospector/
今回のモノ
 
ゲーム機XBOX360の驚異的グラフィック●
山本:
今回のモノは「XBOX360」にしましょうか。
小林:
ゲームがお好きなんですか?
山本:
好きですよ。学生時代にゲームのソフトハウスでバイトしてたから。
小林:
じゃあプログラムとかも?



山本:
まぁ当時はね。今は全然出来ませんけど。いわゆるコンシューマー用のゲーム機として一般に知られていたのがファミコンくらいしかなかった頃でしたね(他にも一応、セガのものとかはありましたが・・・)。
XBOX360の映像って見たことありますか?
小林:
いえ、ないですね。
山本:
これを見たことがないってことは、最先端のゲーム映像を知らないって事ですよ。
小林:
すごいんですか?
山本:
そりゃあ、現時点で世界最先端ですからね。見ます?
(ゲーム映像を見せてもらう)
これはレースゲームなんですよ。特長は、一言で言うと「映像クオリティの高さ」ですね。
小林:
すごくリアルですね。
山本:
これはコースが新宿の街です。新宿を知っていれば分かると思いますけど、街の建物とかは看板に至るまで本物と全く一緒です。
小林:
本当だ!まるで新宿がモナコになったみたいな世界ですね。
山本:
そうなんです。これが世界中の都市でできます。光のハレーションとかもよくできてるでしょう?ギャラリーも一人一人がAI(人工知能)を持って動いてるんですよ。
これは、映像がすごくリアルだからレースがすごくやりやすい。XBOX360の前世代のゲームと違って、このくらいリアルになると、普通の車を運転してる感覚で操作ができるんですよ。物との距離を映像から感じるんです。例えば、アスファルトのテクスチャの感じとか木の葉っぱの感じとかで距離感が分かるんですよね。それが分かると身体性に訴えてくるところがあるんです。
ゲームの映像は「リアルにすればいいってもんじゃない」っていう意見は常にありますけど、それはあながちそうではない。リアルであることによって、はじめて体に訴えてくることがあり得るんです。
小林:
確かに昔のゲームは、このポイントでブレーキボタンを押すんだ、っていう感じで、記号的にやってましたね。
山本:
そうですよね。しかも覚えていないとできない。映像からは正しく判断できなかったんですけど、ここまでリアルになってくると、疑似体験ですからね。
もう1つバスケットボールのゲームを見てみましょうか。
小林:
ほとんどテレビ番組を観ているみたいですね〜。
山本:
映像のクオリティでいうと、テレビ番組よりもDVDの映画よりも精細ですよね。解像度が全然違いますから。そう考えると、それが自分で動かせることの意味はものすごく大きい。
小林:
すごい。これはスタジアムも忠実に再現されてるんですか?
山本:
忠実ですね。それぞれのホームスタジアムを再現しているみたいですよ。
これも、フローリングの板の大きさが正確かどうかは、非常に大きい要素なんですよ。それによってボールの大きさ、人の大きさ、距離感っていうのが全部分かるから。
小林:
近距離のモノは近距離で見えて、奥のモノはアウトフォーカスするんですね。カメラワークがテレビみたいですね。
山本:
そこら辺もよく研究していますよね。
ゲーム機には映像と音楽の最先端がある●
小林:
昔は家庭用ゲーム機は家庭用で、ゲームセンターにあるゲームはクオリティが高いっていうのが常識だったのに、今は違いますね。
山本:
今は逆ですね。ちなみにそれはコンシューマー(家庭用のこと)とアーケード(ゲームセンター用のこと)っていうんです。僕がバイトでゲームのプログラマーをやっていた頃は、コンシューマーゲームはファミコンあたりが最高性能だったんですよ。今から思えばほとんどおもちゃみたいなものでしたね。最先端の映像っていうのがどこにあったかっていうと、業務用基盤。その後、アーケードゲームで「動く筐体」が出てきたんです。
小林:
「動く筐体」?
山本:
レースゲームでハンドル切ると、イスごと動くようなゲームです。その次に、スト2(ストリートファイター2)とかの対戦ゲームブームがあって、そこまではアーケードゲームに最先端が投入されていたんです。その後はマーケットがどんどん小さくなって、今は明らかに家庭用に最先端が投入されていますね。
小林:
今、ゲームセンターではみんな何をやってるんですか?プリクラですか?

山本:
プリクラもありますよ。UFOキャッチャーとかカードゲームみたいなものとか、太鼓たたいたりとかですね。結局パーティゲームっぽいのが多いですよ。最先端の映像は家庭に敵わなくなったから、ゲームセンターの価値は「そこに行かなきゃできないこと」に変わってきましたよね。特殊なインターフェイスだとか、体に訴えかけてくる体験だとか。
映像がきれいっていうのは限界があるんですよ。XBOX360の次の世代だと、もう本物と見分けつかないんだろうな、って想像できませんか?
小林:
そうですね。XBOX360でも、遠目で見るとリアル映像かなって思いますもんね。
山本:
これが本物と見分けが付かなくなった時点で映像技術の発展は終わりですよ。それ以上はない。っていうことはもうすぐなんですよ。
小林:
今はネットワーク対戦も出来て、次はなんですかね?
山本:
それを各社模索してますけどね。今世界3大メーカーはソニー、マイクロソフト、ニンテンドーでしょう?その中でソニーとマイクロソフトに関しては、映像と音声の充実ですよ。テレビとかDVDの映像を越える解像度でゲームを作ってる。ニンテンドーは完全にその路線からは離脱してる。
小林:
そうなんですか?別路線で?
山本:
ニンテンドーDSって今すごく売れてるじゃないですか。ソニーのPSPは、ものすごく映像が綺麗なんですよ。DSは、映像はそこそこで、タッチペンでゲームができるというのをメインで売っています。それによって、マーケットがものすごく広がって、お年寄りにもゲームが出来るようになったんですよ。
小林:
何を隠そう、自分もゲーム機のコントローラーを操作するのが苦手なんですよね。
山本:
そういう人は実は多かったんですよね。DSは日本のゲーム機史上最大の売れ行きでしょう。
小林:
手に入らないですもんね。
山本:
ニンテンドーの次世代の家庭用の据え置きゲーム機(Wii)は、それの延長線上にあるんですよ。今度のニンテンドーのコントローラーは、空間センサーなんですね。コントローラーを持って、それ自体を動かすんです。剣をふるなら、その格好をする。
小林:
それはすごい。
山本:
だからソニーやマイクロソフトのコースからは逸脱している。映像にものすごい技術を投入していないから、値段も安く、そういうものを広く普及させようという発想ですよね。それは一歩先を見てはいるんだけど、一方では、家庭で一人で遊ぶかどうかというと…、どうですかね。
小林:
ちょっとアーケードゲームっぽいですよね。
山本:
そうですよね。人の前だったら、むしろ平気でも、自分一人で練習してる姿ってちょっと悲しいでしょ(笑)。そういうゲーム機がみんなに受け入れられるかどうか、っていうのは非常に実験的ですよね。
ゲームの最大のメリットは、インタラクティビティ。例えばアートとしての映像的な最先端、音楽的な最先端がどこにあるかと言ったら、僕はゲームだと思うんです。特に音楽というジャンルがすごいと思うんですけど、セガの「ナイツ」(1996年)っていうゲームがそのターニングポイントになりました。そのゲームでは、自分が主人公をコントロールして、空を飛び回るようなゲームなんですね。そこで自分がどういう行動をとるかによって、BGMが変わるんですよ。そのステージで使われてる曲は1曲しかないのですが、アレンジが変わるんですよ。いつの間にがおどろおどろしい音楽になっていたり、すごく元気なハッピーな音楽になっていたり、自分の操作に従って変わっていく。その音楽って、ある意味最も未来的な音楽の享受の仕方なんじゃないかなって感じたんですけど、あそこまでの完成度で、インタラクティビティを音楽っていうものに導入したのは、後にも先にも「ナイツ」しかないと思う。
映像も、最近は本物と見分けがつかないくらい、どんどんリアルになっていく。そのことの意味が問われるようになると思うんですよね。
例えば、CGがリアルになったから映画がおもしろくなったか、っていうと、なかなかそうは言い切れない。ただゲームの場合はそれがある。リアルになったことによって、自分の身体性に連動するようになったんですよ。記号に連動して体を動かさなきゃいけなかったのが、リアル世界で既に自分の中に取り込まれてる記号を利用することができるようになったんですよ。
小林:
その差はインタラクティブ性からきてるんですね?
山本:
インタラクティブ性があれば、そのリアルが意味を持てるんですよね。そうじゃないのって、技術のひけらかしか、こけおどしでしかない。
小林:
映画なんてまさにそうですよね。
山本:
それに比べると、ゲームでリアルになるっていうのは非常に意味がある。ゲームが元から持っていたおもしろさを、リアルさが後押しできるんですよ。そういう意味で、最先端であることに非常に意味があるジャンルですね。
僕はパソコンのゲームの時代からゲームをやっていますので、日本のゲームの歴史を全部知っていますよ。
板橋のリノベーションは、一室に建具が30枚!●
小林:
板橋のリノベーションをウェブで拝見しましたけど、おもしろいですよね。部屋の中に建具(引き戸)が30枚もあるんですよね?

photo:(C)淺川敏

板橋のリノベーション
photo:(C)淺川敏
山本:
そうです。
30枚っていう数字を出すまではかなり悩みましたね。建具を移動させることで、部屋を広く使ったり、逆に閉じてしまったりする、そういう仕組みを考えたんですが、大事なのは、どうやったらこれのフレキシビリティが一番出るか、ということでした。
30枚っていう枚数は、ひと部屋の全周を閉じきることができない枚数なんです。もし全周を閉じられる枚数で建具を設けるって事は、レールは2本あるので、全部開けようとしても壁面の半分しか開かないって事なんですよ。それに、全部閉じられたら住む人の思考が停止すると思うんですよ。全部が閉じられるなら、そのままの壁のようにしておいて、毎日出入りする戸を開け閉めする、というように普通に使うでしょうね。でも、全部が閉じられないとなると、じゃあ建具をどこに置こうかって考え始めるんです。
小林:
なるほど。建具がある部分とない部分をどうしようか、っていう頭が働くわけですね。
山本:
そう。これは普通の引戸だから、レールから外して部屋のどの面にも移動させることができるんですよ。だから建具が1枚もない壁面をつくることもできるんです。
小林:
建具の幅もまちまちなんですよね。これは何か理由が?
山本:
いや、幅が揃っていることに理由がないでしょ?
小林:
確かに。
山本:
建具と建具の間は、密閉できなくて、必ず隙間があくようになっています。小口のところにちっちゃい戸当たりがついてて、1センチ必ず隙間が開くんですよ。これがあることによって、この建具には手掛けがいらない。基本的にこんなワンルームマンションは、密閉する必要はないはずですから。
もしライフスタイルとして昼夜が不規則な生活をするような人ならば、昼間寝るときは建具を窓側に集中させれば真っ暗にもできます。
小林:
環境を操作できるわけですね?
山本:
そうです。夜型の生活をする時と、昼型の生活をする時でガラっと変えられる。
山本さんの「解ききる」設計●
山本:
ここ(国分寺の家)は、外を閉じるっていう考え方から始まっています。1階は事務所、上は自宅です。




国分寺の家
photo:(C)淺川敏
小林:
外観はすごい強固なイメージですよね。
山本:
前の道がけっこううるさくて、騒音面では劣悪なんですよ。でも、中に入ると全然音がしないでしょ?これは鉄筋コンクリート造だからなんですよ。道路側に開口部が1個でもあったら、ものすごい音がしますよ。
小林:
完全な遮音壁ですね。
山本:
遮音目的以外はないと言ってもいいですね。
小林:
中は明るくて自由な感じでいいですね。やっぱりこの光井戸がきいてますね。
山本:
これに全てをかけた建築ですからね。
ここから見ると、光井戸から空しか見えないっていうのがいいでしょ?
小林:
いいですね。光井戸が3層突き抜けてますけど、1階も大分明るかったですよね。
山本:
これは4面をガラスにしてるから、万華鏡効果的に反射するんですよね。だから、直射日光が入らなくても、下の階がかなり明るい。
下から見るとガラスに反射して太陽が2つとか3つとか見えますからね(笑)1年を通じて一番快適なのは2階なんですよ。光の入り方が調度いい。
小林:
ここ(3階)は?
山本:
陽が入りすぎて、夏は暑い。
小林:
下の階は冬は寒いんですか?
山本:
2階は上下階があるからそんなに冷え込まないですよ。1階は三方に家が建ってますから、冬は終日陽が当たらない。逆に夏は冷房がいらない。1階は常に影だから、コンクリートが冷ふく射してくれるんですよ。
小林:
光井戸という明快な要素が1つ入ってできてると思うんですけど、御自分で発想のパターンは認識されていますか?
山本:
もちろんあります。よく明快な建築だとは言われるんですけど、発想のプロセスは明快ではないんですよ。それは誤解されやすいというか、読まれ難いなとは思ってるんですよ。このプランニングもものすごくいろんなこと考えてるんです。僕の作り方の明らかなパターンは「解ききる」ですね。「解ききる」っていうことにかなり執念があるから、結果を見ると、かなりシンプルに見えるんですよね。
小林:
それは絡み合う要素が完全に解決されているからでしょうね。
山本:
そう。だから逆に解くプロセスが見えなくなっちゃう。それは建築表現であったり、他のアート表現でも、「解ききる」ということは必ずしもいいことではないんですよ。すごく苦労してるとか、いろんなこと考えてるって見せることによって評価されることもあると思うんですよ。だから、「解ききった」シンプルな最終形を見せることのリスクは必ずあるんですよね。雑誌でよくとり上げられる様な建築家は、そのバランスがうまい。もうちょっと「解ききらない」状態で見せている。それは解けてないから、機能的には劣る点もあると思うけど、その劣る要素があることによって、アピールできているんですよね。
この建物の中を見て、デザインしてますっていう印象は極めて希薄だと思うんですよ。例えば、壁は木そのままですが、単に白く塗ったら、それだけで今風の建物にできてしまうと思いませんか?
小林:
なるほど。そういうことですね。
山本:
理詰めで考えていくと、壁を白く塗る意味って、今風のミニマルな空間になるっていうこと以外、住むためのメリットは何もないはずなんです。だから塗らない。あんまり理詰め理詰めでそういうのを解いていくと、デザインとしてのアピールは弱くなるんですよね。それは個人性だから直そうとは思わないんですけど。住んでみて快適かっていうのは、今のメディアの建築に対する主な評価軸ではないですからね。
プロスペクターはやりやすいネットワーク●
山本:
プロスペクターの3人でやった南洋堂のルーフラウンジは、「形態」をつくるプロジェクトだと割り切って、それに終始しました。



南洋堂 ルーフラウンジ
小林:
これはおもしろいですね。
山本:
床が真っ赤で、上が鏡面になっています。鏡面っていうのがここでの最大の成功要因だったかなって思いますけどね。街頭から見上げると真っ赤に見える、この場所に上がってみると、交差点が映っている。下界が逆さまに映ります。
小林:
ここの機能は足湯ですか?
山本:
そうです。お湯を入れていないときはただのベンチです。
小林:
プロスペクターっていうのは、ネットワークっていう名前が付いてますけど、事務所ではないんですね?
山本:
事務所は3人それぞれが持っていますからね。プロスペクターというチームは存在するんだけど、オフィスが存在するわけではないです。
小林:
山本さんと、あとお二人(南泰裕さん、今村創平さん)を繋ぐネットワーキングを称してプロスペクターと呼んでいるわけですね。
山本:
そうですね。
小林:
かなり場所も離れてますけど、あるプロジェクトを誰と一緒にやるとか、あるいはみんなでやる、っていうのを最初に決めるんですか?
山本:
「プロスペクター」あてに来た依頼はだいたい3人でやりますね。相手があることだから。しかし実際には誰かがメインにやることになるんですけどね。
小林:
あとの2人はサポートに回るんですか?
山本:
そのプロジェクトに関してはね。プロスペクターは極めてゆるいネットワークなので、参加しないで自分の仕事をしている人がいることもあります。
小林:
山本さんの特徴は「解ききる」ということでしたが、他のお二人はどういう感じですか?
山本:
他の人はどういう感じなんだろう。3人でやるときも僕のスタンスは変わらないですよ。だから、僕が重要視する要素も入っていれば他の要素も入っている建築なんでしょう。
プロスペクターはばらばらの3人ですけど、やりやすい3人がそろってるんです。複数人が一緒にやる場合は、建築に対する方向性とか知識レベルとか、技能レベルとかがバランスとれてないとできないと思います。いわゆる設計事務所っていうのは組織としての階層構造が出来ています。最終決定をするのが誰で、その下にいるのが誰で、誰がどういう役割でっていうのがハッキリしてる。プロスペクターはそれがはっきりしてないから、その状態でモノを決定して作っていくためには、相当気が合ってないとできない。そんな3人が一緒に建築をつくっている、というのは貴重なことだと思っています。
ゲームの最新事情を知らない筆者にとっては、XBOX360の映像は衝撃的でした。山本さんは、ゲームを単に好きというだけではなく、その奥に音楽や人間の身体感覚についての考察をみてとっているようです。
もうすぐ任天堂の「Wii」が発売されます。
聞き手:小林、竹下(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影
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