生活普段議 
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第14号   若林 秀和さん  「人のつながりを楽しめないと」
今回のモノは、実体のあるものではなく「ブログ」です。
若林さんは、このブログをほぼ毎日更新していて、単なる日記としてだけでなくコミュニケーションツールとして活用しているそうです。
「タイタイスタジオ」という事務所名の由来、住宅設計の面白さ、など、興味深い話を聞くことができました。
若林 秀和(わかばやし ひでかず)

1967年 福岡県生まれ
1987-1991年 早稲田大学理工学部
1991-1993年 早稲田大学大学院修士課程
1993-1995年 大成建設株式会社設計本部
1999年9月〜 若林晶子とtai_tai STUDIO開始

ブログ「タイ_タイテキ」のURL http://blog.livedoor.jp/wakaba67/

作品掲載雑誌等:住宅建築、男のかくれ家、等
ブログです!●
小林:
インターネットでは、ブログ(上記URL)を書いていらっしゃいますけど、毎日更新しているんですか。
若林:
ほぼ毎日してますね。ある施主さんは、ネットでウチを発見して来てくれたんです。こういうこともあるんだなって思いました。 ネットは結構コンタクトがあって、たまーに電話がかかってきたりします。
小林:
毎日の更新は、手間がかかると思いますけど。
若林:
いや、最近は携帯でやることを覚えまして。写真も携帯で撮って、添付してポンって。これなら毎日いける、と思いました。3行くらいですから。今のところ続いています。
最近、お客さんにもブログを書いているご夫婦がいて、ウチも設計工程とかを書きましょう、ということを新しくやり出しました。で、最後にリンクしてまとめてみたら面白いんじゃないかと思いました。
小林:
ご夫婦で、それぞれブログを?
若林:
そうです。ウチのにコメントを入れてくれたりします。
これがメールだと、本当にプライベートになってしまいます。ブログは誰でも見られるから、多少冷静に書くようになります。客観的に書くとか、オチを考えて書くとか。そういうのがメールとは違って、面白いと思うんですよ。
小林:
対外的な目をちょっと気にしながら書くわけですね。
若林:
そうです。第三者の存在を念頭に置いたコミュニケーションになります。面白いですよ。
小林:
なるほど。そういう面では、新しい。普通、建築家にとっては、ネット=作品発表の場、とかいう扱いになりがちですが、それとは違いますね。
若林:
最初はホームページをつくろうと思って、作品を並べるのもいいかなって思いましたが、それだと少し静かすぎると思ったんです。
ブログは、たまたま存在を知りました。詳しいことはわかりませんでしたけど、毎日の自分の努力如何で変わる、それが面白いと思いました。
世の中では、僕らの仕事をよく知らない方が多いです。だから、全然建築とは関係ないことも入れながら書きます。「ワッフルがおいしかった」とか。それと「現場打設の日のこと」を並列に並べてしまう、実はそれが僕らの精神状態に近いはずで、そういうのが面白いかなって。
小林:
若林さんの頭の中がここにあるわけですね。
若林:
そうですね。第三者の目を気にしつつね。
小林:
若林さん(tai_tai studio)のホームページは工事中で、ブログの方が充実している。今までのパターンとは逆だなって思いました。
若林:
きっちり完成したものにはしたくなかったんです。常にチクチク動いている状態にしたいと思いました。建築も、実はそうですよね。完成形なんてないと思ってます。実際、竣工した後にお客さんの所に遊びに行ったりすると、どんどん変わっている。
写真を撮って終わり、でもいいですけど、変わるものだし、それが面白がったりする。デザインする人間が全部決めちゃわなくても、面白いものってできるし、それを上手く並べられるようにするのも僕らの仕事かな、って。ブログもその一環で、まあ、営業なのかもしれませんけど…。
小林:
営業ではありますが、コミュニケーション手段でもあります。
若林:
コミュニケーションツールとしては、ひとつ増えたなって思います。知らない人がコメントを入れてくれたりもします。
鄭:
実際の打合せは、1〜2週間に一回とかでしょうし…。ブログがあると、しょっちゅう打ち合わせしている感じですね。
若林:
ええ。それに、メールだと個人的で断片的です。ブログなら、写真もありますし、そこにはある意志が働くはずです。それを感じ合えると、コミュニケーションとしては、上質になるんじゃないかなと思います。
小林:
それにしても、息切れせずに毎日更新するのは凄いですね。
鄭:
文章が短いから、でしょうかね。
若林:
そうですね。携帯だと、画面も小さいし、入力するのも遅いし、これくらいが適量でしょうね。
小林:
どこで文字を打つことが多いですか。
若林:
車で移動中に助手席から、とか多いですかね。現場で何枚か写真を撮っておいて、後でアップする、とか。
小林:
ちょっとした時間を有効に使っているわけですね。
若林:
はい。電車の中とかも。
鄭:
これだけ話し言葉みたいのが前面に出てきているページだと、見る側も最初から読めているみたいですね。
若林:
わりと構えないで…、構えられても、こっちも虚勢張るわけにもいかないですし。
小林:
このネットをみると、若林さんがそういう人ではないことがわかるんでしょうね。
これは続けていかれますか。
若林:
一応やれる限りは。
他愛もないことを100コ載せれば、1コくらいいいのがあるんじゃないかと。写真も100枚あれば1枚いいのが…。
鄭:
その1コが、とても重要だったりしますね。
インナースキンンシステム●
小林:
後ろの窓にかかっているスクリーンみたいなのは、何ですか。



インナースキンシステムの試作
若林:
これですか。
以前、OZONEの膜構造のコンペがあって、それに出したら通ったんですよ。「膜でインテリアをつくろう」っていう案で…。その試作品ですね。
小林:
ファスナーがついていますね。
若林:
膜をとったりつけたりできるようにです。
先輩と一緒に住宅をやったとき、インテリアをこれでつくりました。
小林:
この住宅は、TVで見たことがあります。確か、膜の壁の後ろが収納になっていて、配線なんかも全部後ろを通っているんですよね。
若林:
そうです。TVにも、雑誌とかにも出ました。実は、この住宅のインテリアには、僕はかなり絡んでいるんです。
壁も天井も、仕上げは膜です。
小林:
プランと同じくらいに、この仕組みが重要な住宅でしたね。
若林:
そうですね。納まりを全部考えましたよ。既存のディテール集(標準詳細図面集)をめくっても、なかったですし。
鄭:
「前例」なんて、ないですしね。
小林:
天井も膜でできているというのが、すごい。
若林:
はじめはやる方も半信半疑でした。でも、なんとかできました。
小林:
収納方法も面白いですよね。
若林:
いろんなアイディアはありましたが、縫製のこととかわからなかったので、テキスタイルをやっている人に頼んで、作ってもらったりしました。
小林:
不思議な位置にもファスナーがありますね。
若林:
手を入れる必要があって、つけてあります。点検口ですね。
鄭:
こういう内装の発想自体が、面白いです。
若林:
わけがわかりませんでしたけど。
鄭:
既成のものをつくり変えるのは大変だけど、こういうものだと、つくる側も先入観がないから「やってみようか」という方向に持っていき易いかもしれませんね。
若林:
毎日ウチでミシンで縫って…、奥さんは100mくらい縫ったと思いますよ、それで先輩の事務所で試し張りをして、メーカーから試作品が届いて、また張って…。それを毎週やっていました。
鄭:
これは、その後なにか展開は?
若林:
量産化の話もありましたが、まだ途中段階です。
天井を膜で張るのは、商品化されていて、別のプロジェクトで使いました。
なにしろ、下地が要らなくて、四周のみで。一日で張れます。
小林:
クロスや塗装とは、色の感じも違うように見えますね。
若林:
違いがありますね。普通、材料というのは圧縮力を受けていますが、この膜には張力(引張り力)がかかっています。だから発色もいいみたいです。現物を見ると、黄色とかはすごくキレイです。
鄭:
今までの材料とは、全然違うテクスチャでしょうね。
若林:
膜の材自体も国産ではなく、確かフランス製です。国産にはない色の使い方でしたね。
引っ張り面の発色の具合というのは、新しかったです。
小林:
紺色もいい色ですね。
鄭:
他の建材にはない感じですね。
小林:
これが…、2001年ですか。
若林:
ええ。これは、沢山の雑誌に載りました。住宅建築(2004年5月号)とか、男の隠れ家とか。
小林:
壁をこういう風にしようって言ったのは、その先輩ですか。
若林:
S.I.の事はその先輩から聞いたりしていたのでアタマにはあったと思いますが、はじめは…、うちの奥さん(大学に在籍中)の研究室で、台南(台湾)の博物館の改修の話があって、展示室の一つを頻繁に展示変更できるようにしよう、という企画がありました。それで、「膜で内装をしたらどうだろう。変更の時も工事費がかからないし」っていう企画書をつくっちゃいました。で、それを元に「何か使えないかねー」と言っていました。それで、OZONEのコンペがあったんで、それを改造して出しました。締め切り前日にやり出して、翌朝に出しました。そうしたら、こんなところまで来てしまいました(笑)。

インナースキンハウス
photo:若林晶子
小林:
台南はどうなりました?
若林:
いろんな事情でなくなってしまいました。つくれたらよかったんですけどね…。残念でしたよ。でも、こっちができましたんで…。
小林:
ということは、まず与条件から発したわけですね。
若林:
そうです。そういう理由がなかったら、こういうものを考えるのは難しかったかなと思います。
小林:
それにしても、展示室に対して「膜」という回答がおもしろいですね。
鄭:
建築はカタいものばかり扱うから、布地とかになると、とたんに…。
若林:
わからなくなりますね。実は、うちの奥さんは、工業デザインの博士論文で「草木布(そうもくふ)」の研究してるんです。
小林:
素材に関して、奥さんは鋭いのですか。
若林:
普通建築には使わないものとか、その辺の感覚は的確です。そういうのは適正だと思います。今まで僕は、コンバージョンやリノベーションが多かったんですけど、それはあるものの中に挿入する仕事で、いわゆるフレームワークではありません。そうすると、学校で教わった建築設計のプロセスではなかなか対応できない、何も表現ができないかもしれないわけです。でも、その意識を変えただけで、やること、やれることがいっぱい出てくるんです。
小林:
えーと、「インナースキンシステム」っていう名前なんですか。
若林:
そういう名前にしようって、先輩と。
外国では、天井に使ったりすることはあるそうです。だから「膜で」といっても、そんなにびっくりされないみたいです。
小林:
それにしても、壁まで布というか膜でやったのは、ずいぶん思い切ったわけですね。
鄭:
いっそ床までやるとか…。
若林:
(笑)。
tai_tai studioと「テキ」●
小林:
ブログの題名が「タイタイテキ」ですけど、「テキ」ってなんですか。妙に気になったんですけど。
若林:
直接には…、お客さんの奥さんが「ナントカ的ー」とか言う人で、面白いなと思って…。
小林:
それを真似して?
鄭:
長く接していると、お客さんの言い回しとか、うつることもよくありますよね。
若林:
ありますね。
小林:
tai_tai studioの由来はなんですか。
若林:
それは、よく聞かれますね。
ウチの奥さんの研究室に中国人の先生がいたんです。奥さんは面倒見がいいらしくて、その人が「中国では、面倒見がいい人を『タイタイ』っていうんですよ」って。元々『奥さん』ていう意味で、『有閑マダム』とかいう意味もあるらしいです。で、「こんど事務所を開くんですよ」「奥さんは『タイタイ』って呼ばれていたよね」とか話していたら「タイタイって、『家を守る人』っていう意味もあるんですよ」ってその先生が。じゃ、音もいいしそれいただきますってことで。
小林:
ということは、面倒見がよくて家を守ってくれる建築家、っていうことですね。
若林:
ええ。まあ、それは奥さんなんですけど…。
鄭:
漢字でも書けるんですか。
若林:
はい。「太太」と書くみたいです。でも、漢字じゃ読めないか、ってことで。
鄭:
二人で「この名前、由来はなんだろうね」って話していたんです。
若林:
一度覚えてくれると忘れないみたいですけど、言い間違いは多いですね。えーっと、一番面白かったのは、家具のオーダーをするために電話でカタログをお願いしたんです。「事務所名は?」って聞かれたので「タイタイスタジオです」と言ったら「はい、パイパイスタジオですね!」って。むこうも爆笑してましたよ。「す…、すみません…!!」って。
二人:
(爆笑)
若林:
覚えてもらえればいいですけどね。
小林:
でも、リズム感がいい名前ですよね。
鄭:
この場所に来られてからは何年経ちますか。
若林:
2年半くらいですね。
鄭:
環境が良さそうですね。東京から離れてくると、あるところで急に家賃が安くなりますね。
若林:
船橋くらいに境があるんじゃないかと思いますが。(笑)
僕は元々西の方(大阪)の出身で、大学で東京に来ました。でも、「東京で仕事をしなきゃ」という意識はなかったんです。かといって、大阪でもない。奥さんの実家が千葉だったので、結婚してここに来たんです。
鄭:
千葉と東京で、どんな点が違いますか。
若林:
そうですね、設計事務所という職業を認知されない割合が多いことでしょうか。家を建てるなら工務店に行くだろう、っていう方が比較的多いかな。もちろん全員がそうではありませんので、僕らも仕事ができるんですけど。でも、他の事務所の数が東京より多くないので、一度認識されると今度はある程度の方向性が出てくるかな、とか。
小林:
競合が東京ほど多くないということでしょうか。
若林:
僕が東京で事務所をやらないというのも、その理由がありました。東京は「敵」が一杯(笑)。中途半端に都心から離れても、すぐに吸収されそうで…。
小林:
ということは、千葉での仕事が多いですか。
若林:
いえ、最初は都内の仕事ばっかりで。最近は、千葉の仕事も増えてきましたけど。
リノベーションやコンバージョンの仕事も多い若林さん●
小林:
リノベーションなんかでは、苦労もありますでしょう。
若林:
はがしてみてビックリ、もよくありますよ。だから、当初はコストのブレも。最近はなくなりましたが。
小林:
最近はリノベーションという言葉も広く知られるようになりましたが…。
若林:
ええ。お客さんも、雑誌とかで下調べはしていらしたみたいですね。それでネットで検索して、という感じ。どういうキーワードで検索したのかはわかりませんが、たまたま僕のところに連絡が来たりするわけです。
小林:
いわゆる…、「しゃれたリフォームしたい」というような要望も?
若林:
そうですね。イームズの椅子なんかをもっていらして、「これをここに置きたい」とか。
小林:
お客さんの目が肥えているみたいですね。
若林:
はい。結構勉強していらっしゃいます。普通の雑誌にも、今はそういう記事が載っていますからね。
鄭:
設備機器は、こちらもついていけないようなところがあります。「壁からボーって吸うのがいい」とか言われても、「はあー、そ、そうですか…」て感じで。
小林:
お客さんから無理難題を言われたことはありますか。
若林:
えーと…、いろいろご自分で揃えたいと言われることもあるんですけど、規格が合わないのを買ってしまったりしたことですかね。お客さんが都市ガス仕様の機器を買ってしまって、「いやー、ここLPGなんだけどな…」と。
趣味に関しては、基本的にお客さんが「これ使いたい」という場合は、それが無理でなければ使ってあげるべきかなと思っています。住宅ですし。
鄭:
家具への思い入れは、建築とは違いますよね。無下に却下もね…。
若林:
そうですね。
鄭:
そういうのがもしあったら、探りを入れたり…。「これは、持っていきますか?」と聞いて、持っていくと言われたら、「絶対持っていかないといけないですか…?」「何かいわれがあるんですか」とか聞き直したりして…。「どうということはないんだけど」とか言われると「じゃあ、これは外して考えましょう」とかね。
若林:
でも、持っていきたいっていうものは、意外とどうということがあるんですよね。
ローコストの需要も多いようです●
小林:
最初からこのテーブルが気になっているんですけど。

若林さん自作のテーブル
若林:
あ、これは自分でつくりました。長さ1,800の板を残材がでないように切って、それをくるっと丸めてキャスターを付けたんです。きちんと計算してね。千葉のホームセンターでは材料を切ってくれますので。
小林:
それをアングルでとめて…。
若林:
で、オスモで色を着けて。試供品のですけど(笑)。
小林:
アングルの穴あけも自分でですか?
若林:
ええ。
小林:
じゃあ、工具は充実しているんですね。
若林:
はい。ホームセンターで買えば、そんなに高くないです。もちろんプロ用のはすごく高いですけど、その次のランクぐらいのは、結構お手軽です。まだ使い慣れないのもありますけど、だんだん上手くなっていく予定です(笑)。
鄭:
僕もそういうのは好きなんで、やりますね。図面だけを書いていると、「だいたいこれくらいかな」っていう感覚がわからないですけど、自分つくると細かいところがわかります。
若林:
じゃあ、現場にきてくださいよ(笑)。
鄭:
いろいろアイディア出せると思いますよ(笑)。自分でつくることをやると、現場で「そこまでやる必要ないのに」と感じることも、結構出てきます。「これが普通なんですよ」と言われるけど、その辺をしっかりと…。
若林:
僕らがコントロールできれば、説明すれば、そんなに手数を増やさなくても済むはずなんです。
ウチに来る方はローコスト希望の方が多いですけど、見積もり調整しても、それでも値段が落ちきらないことがほとんどで、あとはその辺に手を入れるしかない。「そこはこういうことでも使えるけど、こういう多少のリスクがある、たとえば気密が少し落ちますけど、どうですか。その代わり、2万円下がります」って感じで。そういう話を延々とし続ける。住宅はそんな感じだと思います。1万円を100箇所削って100万円落とす、みたいな。
鄭:
ただ「ここを削りたい」じゃなくて、「こうやったら削れる」って言わないと、手数の分まで示してあげないと…。
若林:
ウチでも、エクセルとか使って施工業者と同じフォーマットで数量とかまで拾ってるんで、「ここ数量が違いますね」とか言うと、それは効きます。最後はお客さんに「ローコストは忍耐を強いるんですよ」と話をします。
小林:
そこまでやるのも…、手間がかかりますね。
若林:
かかります。でも、みんな坪100万円の仕事だったらいいんですけど、そんなわけはありません。
ですからいろいろと手段を…、分離発注したりね。
鄭:
分離しすぎても、管理手間が増えますね…。
若林:
かかりますね。だから、全部分離はぼくらにはまだ無理ですね。
小林:
どうやったらできるかというとき、ほかの方法をいくつ持てるか、そこは勝負ですよね。
若林:
勝負です。たいてい「どうするねん」という話になりますからね。そこを毎回切りひらいていかなくてはならないです。
鄭:
ローコストを追うと、分離発注に行き着きますね。
若林:
そうですね。
鄭:
でも、いいかどうかは施主によりますね?
若林:
ええ。確かにコストメリットは出ますけど、リスクもばーっと見えます。それがいやな人はきついでしょうね。もちろん、分離しなくても、いやなことは出てくるものなんですけど…。
鄭:
見えなくてもいいような小さい波は、覆い隠してくれますよね。
若林:
そうです。
鄭:
分離にすると、見積書ががぜん現実味を帯びてきますね。
小林:
何がどういう仕組みでできているかを理解してくれる人は、分離を受け入れやすいと思いますが。
若林:
そうですね。いわゆる「お施主サマ」タイプの方にはローコストはシンドイと思います。足りない分は「体」で払ってよ、という世界ですから。巻き込まれて平気な人、といえばいいのかな。
鄭:
そうやってつくるのが好き、とか。
若林:
住宅って、そんなにカチッとモダニズムじゃないと思うんです、僕は。
小林:
もっと泥臭いと。
若林:
そうですね。好みの問題でもあるんでしょうけど。学生の頃から、モダンデザインにいきたいと思っていたわけではなかったので。カツーンとして何もない、そういうのがそんなにいいとは思わなかったんですね。
小林:
若林さんのスタイルですね。
建築家としての姿勢は●
若林:
単に建築をつくるだけだと面白くないんで、そこで何かプラスできたりすると、僕らは仕事した気にもなるし(笑)。僕の勘違いかもしれませんが。
鄭:
そういうところにしか、面白さは生まれないでしょうね。
若林:
純粋にやりたいことをやるなら、彫刻とかの方が面白くてストレートだと思います。でも、建物を建てたい人もいっぱいいて、つくる人もいっぱいいて、それをつないでいって結果としてできあがる、それがちょっとでも人と違ったり楽しげだったりすれば、まあいいかなって思うんですよね。そういうことは当初から思っています。
とはいえ、大変なんですよね(笑)。なんで人のお金の工面をここまでやるんだとか思いますけど、その結果、その辺をコントロールしながらつくれたら、それは楽しいと思うからやっちゃってるんでしょうね。
小林:
若林さんは、設計のむこうに施主の顔が見えている感じがしますね。だからやっちゃうんだと…。
若林:
たぶん、僕が勝手に思っているだけかもしれませんが、住宅と建築は違うと思います。住宅をやっている建築家は違う呼び方があってもいいと思います。そういうスペシャリストでしょう。
小林:
住宅は箱を単につくるだけではないということでしょうか。
若林:
どんなお客さんにも対応できるというのは僕は嘘じゃないかと思います。建築家はいっぱいいます。それは、全部に対応できないからいっぱいいると思うんです。実は、そのへんはまだよくわからないんですけど…。それがわかったら、来た人に対して別の人を紹介してもいいんじゃないかと思います。その人が何十年も住む住宅ですから。気に入った家に住むことが大事です。
小林:
そこで無理してギクシャクした設計ができちゃうよりはいい…。
若林:
と、僕は思います。
鄭:
無理すると、どちらも不幸になりますし。
小林:
本気で住宅をつくることを考えている人にとっては、はっきり言ってもらった方がありがたいでしょうね。
鄭:
そういうのは、必要なんでしょうね。
かつて誰かが、「住宅設計はマラソンみたいなものだ」って。ゴールまで一緒に走りきれるかどうか、って…。
小林:
ハコというより暮らしを設計するものですからね。
若林:
ええ。まったく。
小林:
これからも住宅メインでやっていかれますか。
若林:
そうですね。それと店舗とかも。いずれにしても「顔が見える」規模ですね。
やっぱり、人と人とがどうやってつながって、どんな関係が築けるか、そういうことを楽しめなくなったら、建築なんてやらない方がいいかなと。僕はそう思っています。
若林さんの事務所は、都心と違ってゆったりした雰囲気の中に建っていました。
インターネット(ブログ)というメディアを活用しながら、自分の位置を確立しようとする活動は、まだまだ続いていきそうです。今後も若林さんのブログに注目です。
聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影
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