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第6号   内海  彩さん  「『物語』には“力”を感じる」
今回は、建築設計事務所KUSの内海さんを訪ねました。内海さんは、山本理顕設計工場で共に仕事をしたかつての同僚でもあり、お互いに手の内を知りつくしている、手ごわい相手でもあります。

内海  彩(うつみ あや)
1970年 群馬県生まれ
1994年 東京大学工学部建築学科卒業
1994年 山本理顕設計工場
2002年 小杉栄次郎+内海彩/KUS 設立
最初は四角くて薄い鏡のようなものから
小林: フレネルレンズですか?
内海: これは「FFミラー」という商品なんですが…。 この「FFミラー」を作っている会社から30周年の記念品のデザインを頼まれて、デザインしたものです。鏡面の蒸着の技術がだいぶ上がって、クリアな像が写るようになったということで、最近はいろいろなところで使われています。
これはKUSデザインというより内海デザインですね。これは、近いうちに第2弾をやる予定です。
小林: いろいろなことをされている様ですね?
内海: いろいろの一環で…、これは最終選考まで残った、武蔵野市立大野田小学校パブリックアートプロジェクトのコンペなんですけど。
小学校を新しく作り変える記念に、ピロティーになっている部分の床に子供たちが参加してアートを…という内容のコンペでした。それに参加したときの案です。
タングラムっていうゲームがあって、こういう四角いプレートをカットしたパズルのようなものを組み合わせて、いろんな形を作る遊びなんですけど。これで子供たちに物語性を持ったシルエットを作ってもらって、それをバーっと床に貼ろうという提案です。これは、角度によっていろんなものに見えたりするので、子供が最初に思った物語以外の物語が、そこからまた見えてくるという提案なんです。
小林: 最終選考まで、行ったんですか?
内海: 最後の4つくらいまで残って、子供と市民も投票して決めたんですけど、これには子供の票があんまり入らなかったんです(笑)。
子供の票は一人2票になっていて、子供票が大事だったんですよ。
小林: 子供は微妙ですよね…、プレゼンが鮮やかだったらそれだけで喜んじゃったりしますし。
鄭: 投票の仕方でも全然変わっちゃいますからね。
みんなが入れてるものはどんどん増えていきますし…。
小林: 途中経過が見えていたりするとね、多いほうに入れちゃったり。
内海: クラスでみんなでまとめて入れたりしそうですしね。これにしちゃえ〜、みたいに。
子供に選ばせるっていうのは、なかなかどうなんだろう?難しい部分があるように思いました。
小林: 正直、自信はあったでしょう?
内海: 結構気に入ってはいたんですけどね…。
それで、審査員にプレゼンする際に、こういうのでやりますっていう説明をするのに、「実際に審査員に遊んでみてもらうと、楽しさが分かりやすいんじゃないか」ということで、こんなものまで作ったんです。
CDケースに入ったカラフルなタングラム
小林: お!
内海: チョット可愛いでしょ?
小林: へー。で、配ったんですか?
内海: それが…配らなかったんです!なんか…そういう感じでもないな〜ていう雰囲気で。
でも、これを作った時に自分でもちょっと嬉しくなっちゃって、「かわいくなーい?」とか思って、おまけ好き心がくすぐられたというか…(内海さんはおまけコレクターでした)
鄭: 昔…福田繁雄さんだったかな…どこかの壁面のアートでタングラムを使ってたんですよ。
それは、ハート型のやつを切って鳩を作ってました。
内海: ハートから、
小林: ハト!
鄭: いろんな形の鳩を作って、壁面に配置して…それは別に物語とかはなかったと思うけど、デザインして貼るというのをやってたんです。
それもなかなか面白いと思いました。
内海: これは、割と子供がアートに参加する道具として考えたんですけど、でも子供も大人もないなっていう感じがあって、実際に…
小林: ほら、ペンギン…こうすると、にこやかな感のペンギンじで。(小林がタングラムにはまっていました)
内海: のように、楽しめるわけで。
小林: 確かに、楽しいですよね。遊んでると、元通りにしまえなくなったりして…。
…本当にしまえなくなっちゃった!(別の意味でもはまっていました)
内海: ふっ!
小林: 「ふっ」ていいましたね!…えっと、カッターあります?
一同: (笑)
内海: やってみると、小一時間は楽しめそうでしょ?これだけ模様を考えるのには、結構時間がかかったんですが。
鄭: 同じものは一つとして無い?
内海: ううん、結構あります。でも40〜50くらいは考えましたよ。
このセットが子供2人に対して3〜4セットくらいある想定で、それぞれ犬の形とか子供を形とかいうのを作ってもらって、という感じでやってもらうつもりでした。
小林: …これちゃんとケースに入ってましたっけ??(まだやってました)
一同: (笑)
内海: 結構…再長時間かも。
小林: え、ウソ…
内海: 私的にはとても気に入っているんです。投票の前に学校の前で子供に配ればよかったのかな?


「カレーム」
photo:KUS
小林: そうですよ。
内海: コンペでいいところまで行ったので…予算のこととかもあって、あまり現実離れした提案もできないということで、いろいろ素材の検討とかもしたんですよ。その中でガラスでこういう事はできませんか?という相談をガラス屋さんにした時に、作ってもらったのがこれです。こんな風にすると、綺麗でしょ。
田舎の…ケーキ屋さんの話
内海: これは、前橋のケーキ屋さんで、「カレーム」というお店です。
ガーデニングのショップとその倉庫だったものなんですが、そこを借りるという話から改修の話になって行ったんです。
ガーッと掘って、新しくコンクリートの壁を建てて…一部この壁にも構造をもたせたりしてます。
小林: 元の倉庫が残っているんですね?屋根の部分とか…
内海: うん、かなり残していますね…骨としてはほとんど残ってます。
鄭: 壁を建てただけ、という感じですか?
内海: そうですね、あとはひどくなってた外壁とかは取り替えて、屋根なんかはそのまま使っています。これを見せたら、山本理顕さんには「乱暴だよなー」って言われました。まあ、ある意味誉め言葉かな〜、と思うことにしました。
小林: 自分ではどうでした?
内海: でも、ちょっとそんな風に言われるくらいのことをしないと…、特に改修とか改築とかの場合には面白くならないんじゃないか、という気がします。
小林: 前橋っていうのは田舎なんですか?
内海: ここは、前橋というか、合併して前橋市になったのだけど、この建物ができた時は勢多郡でした。で、田舎ですね。周りにはあまり大きな建物もなくて、国道沿いにスーパーとか焼肉屋が建っているような…。「カレーム」はスーパーの広い敷地内に建っています。
小林: こういうものが出来るってのは…、モダンすぎると浮いちゃうってことはあると思いますが。
内海: ケーキ屋さんのオーナーが、喫茶店の部分で演奏会とか展覧会をしたりして人を呼びたいっていう要望もあって、最初はモダンすぎても人が集まってくれる場所になっていけば、段々馴染んでくるんじゃないかなと思っています。逆に田舎だからといって、それに変に迎合した物を作ってもしょうがないですし。
気まずい三人?
内海: 全然関係のない話なんだけど、三谷幸喜さんの「気まずい二人」ていうの知っています?
だいぶ昔の対談集なんですけど、三谷さんは初対面の人がすごく苦手で、それを無理矢理克服しようとして、月刊角川で自分が緊張しそうな人を呼んで、すごくしどろもどろな対談をした、っていう一年間の記録をまとめた物なんですよ。その盛り上がらない感じがねー(笑)。
一同: (笑)
内海: それを今日のためにちょっと読んできました。
小林: どんな人が出ているんですか?
内海: 一番最初は、八木亜希子さん…フジのアナウンサーの…「みんなの家」よりも前の段階で対談している様で、本の中で「その後映画でご一緒させていただいた」という記述があります。それから、十朱幸代さんとか…、西田ひかるさんとか。
鄭: たしかに、噛み合わなそうな…
内海: 誰とも基本的に噛み合っていないんですけど、でも「やー、今日はすごく盛り上がりました!」とか言って終わると、それまでの対談の歴史から、たしかに盛り上がっていたのかも知れないって思うわけです。
後書きを読むと、単行本では連載の時よりも人数が減っているらしくて、それは対談相手の方からストップがかかったからだとか、さらに、幻のインタビューというのもあって、連載時にも掲載できないような対談があったらしく、それは相手が途中で帰っちゃったんだとか。
意外と…ライブリーディング??
小林: 内海さんは意外とミーハーですよね?
内海: 意外と…、ミーハーですかね?
小林: 函館に居た時も、辻仁成がどうとか…。
内海: それはそんなに好きでも無かったんですけど、函館にいるからにはそこっぽいものを読もうということで…。
小林: それが、ミーハーなんじゃないですか(笑)。
内海: このまえ知人ともそんなことを話したんだけど、これをライブリーディングって名前にしようって。
鄭: ライブリーディング?
内海: そう、ご当地で本を読むと、ちょっとまた違う臨場感があるでしょう?それって結構いいよね〜、ということで、例えばライブリーディングを含めた旅行の企画とかはどうだろうとか言って盛り上がっていました。例えば北海道のどこそこで、その場所が舞台になってる本を読むとか…。そうすると、その場所に立ったときに、風景の見え方が違うんじゃないかと…。
鄭: 同じ旅行で、二人で同じ本を読んでいるんだけれど、場所によってまったく違うところを読んでいたりして。そういうウンチクを語り合うのはいいかも知れないですね。
内海: 着眼点の違いとかね。
物語
鄭: ライブリーディングの話から思ったんですけど…、その場所に住んでいると、そこに昔からあるものとか、あたりまえに存在するものなんて、興味も湧かないじゃないですか?でも、建築家は割とそれを無理矢理掘り起こそうとする事が多いですよね。
内海: それはある気がしますね。結構そういうことを考えてることが多いです。
鄭: 周辺環境だけでは弱くて、はるか昔に死に絶えたような、地霊みたいなものを掘り出して何とかしてやろうとする傾向がある。掘り出してみたら、そこに住んでいる人でさえ誰も知らなかったというような。それは、ライブリーディングなんかも通じることがあるなと。
小林: 建築の場合は、そういうものが見つかった方が理由付けし易い、ということがありますよね。同時に自分を納得させるためにも、あった方が不安を取り除ける。
内海: みんなで共有できる物語を、ということかな…。
自分の特徴として「物語」好きっていうのもあるかもしれません。このパブリックアートのコンペのキーワードも物語だったし。
小林: 出来上がるプロセスの物語?出来上がったもの自体じゃなくて、それがどうやって出来上がっていったか、ていうような…。
内海: というより、子供がそれぞれ何かの物語を持って、これを考えたんだということが、大事なところだということです。その場所に、パブリックアートに参加した700人くらいの子供のそれぞれの物語が詰まっている、というのを想像すると、その場の“力”をすごく感じられるというか…。
この模様を作る時にも、そういう物語があるし。それを、また違う角度から見ると、違う物語を見つけることも出来るっていうようなあり方がいいと思っています。
建築家にとって住宅は…
内海: 住宅ということを取り上げて言うと、自分に向いているかなとか考えると、率直に言えばそんなに向いてないかも、とも思ったりします。いろんな人がいろんなふうに暮らしてるんだなあ、というふうに思いを馳せることはあっても、「人の家とはこうあるべき!」みたいなことを強く言えるかというと、ぜんぜんそんなことはない。
鄭: どんな建築家も住宅に関してはそれほど強いメッセージ性というのを打ち出してこない場合が多いと思います。そういうメッセージ性の強い住宅って、建築家の自邸だったり、親戚の家だったりして。
内海: 「器」としてカッコいいけど、なんかそこでの生活は辛そうだ、という感じの住宅はいやなんです。まあ、カッコ悪いのもいやなんですが。そうしたときに、どうやって着地するのか難しいなー、と思うことも多いです。
小林: 住宅こそ原点っていう建築家はいっぱいいて、それももっともだと思うんですけど。
鄭: でも、住宅なんかやりたくないって建築家も割と多いと思うんですよ。…ぼくも、そんなにやりたくない(笑)
住宅の設計ってマラソンみたいなものじゃないかと思うんです。走り始めたらゴールするしかない。途中で止めたらそこまで走った分が無駄になってしまうし…でも、ゴールするまではただ辛い(笑)。
内海: そうじゃない人もいるかも知れないけれども、ゴールしないと意味が無いというのは確かですね。途中で止めなきゃいけないような状況では、クライアントとの関係も悪くなっていそうだし。
住宅はいろいろなメディアに載りすぎていて、みんなどっかで見たようなことになっている気がしてしまって。
鄭: みんな、余計なものを見せられすぎている感じはしますね。
小林: クライアントの中でイメージが膨らみすぎていたり…。
内海: それで「あんなふうなの」っていう風にしか考えられなくなっているのかも知れないですね。そういうことに付き合わなくちゃいけないのは辛いことだと思います。
鄭: クライアントからすると、専門的な建築雑誌とかに紹介されているような建築家に住宅の設計を頼むのは、気がひけるらしいですね。「住宅の設計なんかやってもらえるんですか?」みたいに。そこらへんも、メディアとかに刷り込まれているものが影響しているのかも知れません。
内海: 一般的には、住宅ってもっと身近な感じの人がさらさらっとやって終わるものだと思われているのかも知れない。「建築家」っていう人がやることじゃないっていうか…、そう思われてそうな気がしますね。
鄭: 建築家ってものに対する変な先入観があると、建築家の側はまずそれを正す必要がでてきますね。例えば建築のデザインやクオリティの基準が某テレビ番組になっていて、デザインレベルとかがそれより上か下かっていう…そういう位付けがいつのまにか出来上がっていたりする。一般的には疑いなく受け入れられているわけですよね。
内海: その番組に「出ないの?」とか言われますよ。(笑)
小林: 演出とドラマ仕立てが絡むと、なぜか歪んだものになってしまいますね。
鄭: 番組の演出として書かれた物語にしたがってものを作っていくような形になっていて、建築家はキャストでしかない。
そうして出来上がったものを建築だと思われても困ってしまいますよね。建築を生むための「物語」は、そういうものではないはずです。
小林: 出演依頼が来たらどうします?(笑)
内海: えー、出ないでしょうね。あまり見ていないので、わからないですけど。
私たちがそう思っている感覚と、一般の人が「何で出ないの?出たらいい宣伝になるじゃない!」と思う感覚との、間にはかなり距離がありますよ。
鄭: それに建築家の方が歩み寄るというのは難しいですね。逆に社会の方に学んでもらわなければならない。それこそが文化レベルということなんだと思うんですよ。
内海: 歩み寄って、某テレビ番組みたいになっちゃうこと自体が日本の社会の問題なのかも知れませんね。
2時間ほどお話を伺いましたが、その間ずっと柔らかな空気が漂っていました。それはおそらく人柄が醸し出すもので、ものづくりにもそれが現れているような気がしました。しかし、ピリッと鋭いことにさらっと言及する瞬間もあり、内海さんの厳しい一面も垣間見えました。
聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/
クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影
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