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第9号   鈴野 浩一さん 禿 真哉さん  「発想の転換こそ興味の対象」
今回は、トラフ建築設計事務所の鈴野浩一さんと禿(かむろ)真哉さんを訪ねました。クラスカというホテルの7階にある事務所には、いろいろな素材や試作品があふれていました。「テンプレート・イン・クラスカ」など、同ホテルのリノベーションも一部手がけたお二人にお話を伺いました。

トラフ建築設計事務所のホームページ http://www.torafu.com/

作品掲載雑誌等:「AXIS」「フレーム」など
事務所の入り口の棚には、いろんなモノが並んでいました…●
禿: これは、友人からもらったスケールです。折りたためるんですが、実は節ごとに全部木の種類が違うんです。







二人: あー、ほんとだ。すごいですね。
禿: だから、測るだけじゃなくて、サンプルにも使えるんです。
小林: (伸ばしてみて)あ、意外にしっかりしている。
禿: ディテールもしっかりしてます。ドイツのもので、バチッととまるんで、伸ばした状態でもしっかりしてます。
小林: これ、折りたためるのがいいですね。
禿: ええ、折れます。たたんでみてください。たたんで重なると木の違いがよくわかりますよ。
小林: あ、なるほど。断面にいろんな木の色が見える。カチっというクリック感もいいですね。
鈴野: 本当に、すごいしっかりしているんですよ。
小林: 「Wood stock」…。さすがドイツ製ですね。
禿: 箱はこんなのです。
鄭: すごい。箱の方がすごい感じがする。
禿: 友人というのはドイツ人で、プレゼントでもらいました。
小林: じゃあ、ソファにのせて写真を…。
鈴野: そのソファは、元々このホテルで使っていたものです。捨てそうな勢いだったのをもらって、使ってます。
小林: 捨てるなんてもったいない。
鈴野: もったいないですよ(笑)。
小林: このスケールは、普段も使ってますか。
禿: 使ってます。高さを見るとき。いつも伸ばしっぱなしにして置いてあるんで、パッと持って、こうやって。
鈴野: 「高さ、どのくらいにしようか」って。
小林: 棚は、サンプルだらけですね。
鈴野: いろんなものが出番待ちです。このアクリル、オーストラリアで単に切っただけのものばかりあったんで買ったんですが、こうするとすごく面白いんですよ。
二人: !!(爆笑)
鈴野: これは、みんなに「少女漫画チックになれる」って。
小林: 面白いなー!これはたまたま発見したんですか。
鈴野: そうですね。
鄭: でも、やる方は面白くないよ。なにも見えないから!
小林: こういうのは…、いつも眺めながら「次に何使おうかなー」って思っているんですか。
禿: よく見たりしてますね。素材から思いつくこともあるので。
小林: お二人は…、さては素材フェチですね。
鈴野: そうですね(笑)。常にストックはしています。こういうのも…。
小林: ミネラルウォーター。デザインはロス・ラブグローブ氏ですね。
鈴野: 水の固まりをそのまま表現しています。それでいて、普通に売られているペットボトルなので、それがガラスとか高いものなら独特な形というのもわかりますが、プロダクトで大量に安くつくっているものだという点が面白いなと思いまして。
小林: これは、その辺の店で売っているんですか。
鈴野: ちょっと気の利いた店、紀伊國屋とかデザインショップとかならあります。小さいのが200円、こっちが390円で手に入ります。水の形をそのまま止めたところが面白いです。
こういうのもあります…、面白い遊びは発想の転換になるのでなるべくやっているんですが、これは家になったり…。
はじめは、プレゼン用に買いました。でも、ここの屋上のカウンターを考えているときに、参考にしました。これを逆さまにしたら面白いかな、と。角度によっては、三角形が見えて、平面の薄いデッキに対してずっしり重い感じのカウンターができました。後で屋上もお見せしますね。
小林: 元は子供のおもちゃですね。
鈴野: そうです。
これは…、渋谷パルコの地下の雑貨屋で買いました、確か。
小林: 建築とは直接関係ない物を集めて楽しんで、それが結果的には建築に役立っている感じですね。
鈴野: うーん…、そうですかね。
小林: 単純に楽しいことではなく、面白いことと言えばいいですかね。表現は悪いかもしれませんが「ヘンなもの」が多いですね。ほめ言葉ですよ(笑)。
ああいういろいろな素材は、どうやって見つけてくるんですか。
鈴野: 展示会なんかでブースを見て回って、話を聞いて、ピンとくるものがあると来てもらったりします。ビッグサイトでインテリアフェスティバルとかやってると、行きますね。面白いですよ。
禿: いろんなメーカーの人を呼んで、「こういうのがほしい」と具体的に言うよりも、「こういうイメージでこういう空間をつくりたい」って言うと、探して来てくれる人もいます。「あ、あれがいいんじゃないか」って、イメージから選別して持ってきてくれるんです。
鈴野: そう、持ってきてくれますね。
突き板(註:つきいた。本物の木を薄くスライスしたもの)とかも、オタクの人がいるんですよ。「病気になった木の突き板が手に入って、すごい柄なんですよ。見てくれますか」とか、それはもうマニアックな人が。周りの営業の人から「おまえが病気だろ」って言われてました(笑)。
禿: で、サンプル集を一冊つくってもらいました。普通はもらえないんですけど。
鈴野: MDF(註:中密度繊維板Medium Density Fiberboadの略。木材を繊維状に粉々にしたものを圧縮成型したもの)に突き板を貼ったときに、いろいろと試したんです。
小林: すごい。病気の木なんて、「これでお願い」って言っても、同じ物が手に入らなかったりしますよね。
禿: しばらくはありますって(笑)。あと一年くらいは工場にあるって言ってました。
小林: でも、「在庫限り」と。
禿: ええ、そうです。
小林: お二人は、人が人を呼んでいる感じですね。ある人が誰かに「面白い人がいるよ」って言って、その人がまた誰かに…。
鈴野: そうですね。そういう感じだと思います。
客室のリノベーション…テンプレート・イン・クラスカ●
鈴野: これは「テンプレート・イン・クラスカ」です。このホテルの三部屋をリノベーションしたんですけど、ここは一週間とか一ヶ月とかの期間で借りられていて、すごい人気なんです。だいたい、海外の人か、地方の人でデザインに興味があるとかで、ココを拠点にして仕事をしていますね。
テンプレート・イン・クラスカ
Photo by Daici Ano
小林: これは、雑誌に載ってましたね。WEBでも見て、面白いなと思いました。
鈴野: これはレーザーカットで、サンプルがあそこ(トラフの壁際)にあります。MDFの表面に突き板を貼って、ラインのデータをイラストレーターデータで持ってくと、それを切ってくれるんです。小口(切った断面)が焦げるんですけど、それはそのままにして、指につくのでウレタンで留めました。二人の顔が向き合ってるところは、一輪挿しがあって、花を置くと人が花をくわえてるみたいに見えるんですね。他にもスピーカーがあったり、ゴミ箱が置けたり、ドライヤーから音が出てるみたいだったり、マグカップから湯気が上がっていたり…。
鄭: アイボもいますね。
鈴野: ええ。もともとアイボとアートを置く、ということは言われていました。暮らし方を提案するホテル「クラスカ」なので、ただ、アイボには特化してほしいと。ソニーとのコラボレーションだったんですね。ソニーの人はアイボの家をつくってくれると思っていたらしいです。でも、アイボだけをあまり特別扱いしたくなくて…。だって、泊まる人はアイボだけが目的ではないので。それで、たまたまフットライトになっているくらいの扱いにしたんです。ソニーの人は「えっ」と思ったかもしれませんね。すべてをフラットに扱うことにしたんです。
これはすごく小さい部屋で、全くビジネスホテルのようで、リノベーション前は壁紙が黄ばんでいたような感じでした。クラスカの印象とは違いすぎていて、ここに上がってきた人が「えーっ」てなっちゃうような感じで。そんな部屋を、1ヶ月でなんとかしてほしいって言われたんですね。予算も少なかったですし。
で、その後、ちょっと予算を多くできたんで、じゃあ一点豪華主義で、と壁だけやったんですね。他のところは白く塗るだけで。レーザーカットなんかも、額縁とかの形を切っただけで中のモノが高い物に見えたりするようにして、あとはフラットな関係にしました。安い照明も、シャンデリアの形に切られていたりすると、同じ照明なのに本当にシャンデリアみたいに見えるとか。あとは、四角くポケットがあって、一週間とかいる人が自分のCDとかカメラとかを置くことで、絵みたいになっちゃうとか。それらを、最初の計画ではごちゃごちゃしてたんですが、テンプレートというもので、見てもキレイに、そういう規則があるもので一枚の絵のようにも見せようと思ったんですね。
小林: レーザーカットというと、それだけで高そうなイメージがありますが。
鈴野: カットはポルシェのギアとかをつくっている会社で、普通は木は切らないんですけど、面白がってやってもらえましたね。サンプルがきて「すごい」ってことで、丸穴を四角穴にしたり、レーザーだからこそできる形ってことで、ノコ刃が入らないようなすごく細い線にしたり。もともとは、表面まで焦げちゃうんじゃないかと言われましたが…、
小林: あ、木は切ったことがないから、工場もわからなかったんですね。
鈴野: はい。ギアとか切るくらいだし。でも、小口だけが焦げて表面には焦げが来なかった。その小口が焦げて黒くなるのも、できてみると良かった。MDFですから、切り口に繊維の模様も出ませんでした。回転体のプロジェクトでも使っています。MDFは方向性がないのでいいです。回転体のプロジェクトでも使っています。MDFは方向性がないのでいいです。
小林: 椅子も、しまえるようになってるんですね。
鈴野: はい。椅子だけは三部屋とも違うので、それぞれの形に合わせて切りました。現物がないと、側面図があっても真ん中あたりが膨らんでいたりしますので、それで入らないってことになると大変なので、現物を取り寄せて真横からの写真を撮って、それをイラストレーターでトレースして…、そいう感じでした。
板材はマホガニーで、1階も同じなので、この部屋の滞在する人にとっては、上下階でイメージがつながるんです。
小林: デスクもありますね。これはパタンと…。
鈴野: いえ、しまえないんですね。しまえるように考えた時期もありましたけど、金物とかいろいろが出てきて、それに「第一しまう人はいないだろう」ってことになりまして。戻せるよりガッチリして大きい方がうれしいだろうってことで、固定にしました。
小林: 確かに、しまう人は、まずいないかもしれませんね。
鈴野: フレーム(雑誌)とかに写真が載ったり、海外ではいろいろココの写真が使われていたりするんです。むこうでは「ワンダーウォール」って呼ばれてます。「フレーム見た」って、海外から就職希望のポートフォリオを送って来ちゃったりとかするんですね。
二人: (笑)ええ!?、そうなんですか。
鈴野: どんな事務所かも知らないのに…、反響はありましたね。他にも、アクシスとかに載ったり…。
小林: その、ポートフォリオを送ってきた学生には、どんな返事を?
鈴野: 二人でしかやってないんで、って…。
小林: お断り?
鈴野: そうですね。お断りしました。
店舗の内装設計…回転体●
鈴野: ここは、いろんなホテルのオーナー等が来て、自分のホテルに置くものを買っていく、というお店です。モノがあふれてて、陳列のルールが全くない感じでした。なので、どんなモノが入っても空間が崩れないようにしたいな、と思いました。だって、メーカーの人が商品を勝手に置いていっちゃうような感じなんです。なので、モノを横にただ並べると単調で、それを丸く置くことで“回転体”と呼ばれるものと一緒に回って見えないか、残像に見えないか、と思ったんですね。ここでは、壁は空間をザンって切って抜き取ったみたいになっていて、その裏に鏡面がグニャグニャになったものがあって、そこに映ることで置いてあるモノがより増殖して見える。物をそんなにキレイに並べなくても、ここで溶け込んじゃってるようになればいいな、と思いまして。だから、けっこう乱暴に置かれていてもいいんですね。
支えの円柱があるんですけど、鏡面仕上げで周りのものを映しこんで、見た人が不思議な感じになるみたいです。



Photo by Nobuaki Nakagawa
小林: 柱の存在が消えるわけですね。
鈴野: ええ。この回転体を作ってもらったのは、九州の工場でした。
禿: これ、MDFなんです。材料は安いんですが、回して切るので大きな旋盤がないと無理で、それで九州になったんです。
小林: あ、MDFですか。表面は塗装ですか。
禿: 機械塗装です。キレイに塗られているので、一見なにでできているかわからないです。写真で見ると、陶器かと思う人も多くて。実はMDFなんですね。
鄭: 丸いし、ロクロでつくったのかと。
鈴野: そう見えます。ギザギザした線をくるっと回してできる形です。細い女の人や太った人なんかをトレースしたんで、鼻なんかが出たところは、そのまま出てます。
回転体は7本あって、全部形がちがいます。
ホテルクラスカ●
小林: ホテル名の「クラスカ」は、「どう暮らすか」からきているんですか。
鈴野: どう暮らしていくか、のダジャレみたいなものです(笑)。元々、理科大(東京理科大学)の後輩が、都市デザインシステムにいて、担当してました。「おばけホテル」っていわれていたのをリノベーションしたんです。
小林: 元は「ホテルニュー目黒」でしたね。築30年くらいですか。
鄭: 30年だと、内装はもうダメでしょうね。
鈴野: リノベーションには、インテンショナリーズやトマトがデザインに参加していて、ハックネット(洋書屋)がロビーに入ったりしてます。長期滞在の需要がかなりあって、いつも満室ですね。
このフロアの真ん中にキッチンや共用の洗濯機があって、元リネン室だったところです、それぞれの部屋との関係はまるで長屋みたいで。
小林: 長屋ですか。ギャップが…。
鈴野: 6、7、8階は賃貸部屋ですが、ホテルのロビーを通ってくるので、毎日がホテル滞在者みたいな気分です。
小林: そう、最初にトラフの場所を聞いたとき、ホテルの客室を長期で借りているのかと思いました。
客室ではなくて、もっぱら賃貸用の部屋なんですね。
鈴野: はい。6、7、8階はそうです。全部大きさは違います。
禿: オフィスとしてだけでなくて、住んでいる人もいます。
小林: ああ、さっき廊下を赤ちゃん連れの夫婦が通りましたね。
鈴野: きっと住んでる人です。夫婦で仕事をしているとかかな…。
小林: 混在してるのが、面白いですね。
鈴野: 「客室」は9部屋しかないんですけど、それぞれ面白いことがしてあるんですね。水回りが窓側につくってあったり、東京タワーが見える、とか、とにかく全部違うプランなんです。
小林: 窓側の水回りといえば、東雲(キャナルコート東雲)タイプかな(笑)。ここのカベはブロックむき出しですが、他もそうですか。
鈴野: いえ、バラバラですね。以前ここを借りていた友人が出たタイミングで、入れ替わりで僕らが借りて、カベを白く塗ったくらいです。それぞれの部屋で内装が全部違いますから、他の部屋のドアをはじめて開けるときは面白いです。
禿: 出るときも、現状復帰とかはしなくていいんです。
クラスカの屋上を見せていただきました●
小林: 屋上、気持ちいいですね。
鈴野: ええ。この下見ると面白いですよ。
バス会社の車庫です。夜になるとバスで一杯になって、バスの屋根がびっしり並ぶので、地面が数m上がったような感じがします。どうやって入れたんだろう!っていつも感心してます。
小林: みっちり入っていると、「プロだな!」って?
鈴野: そうです(笑)。
裏はタクシー会社です。
このタクシー会社、面白くて、ビルの中がパーキングになっていて、夜なんか中でライトが動き回ってるんです。



Photo by Nobuaki Nakagawa



禿: で、一番下は運転手が眠る部屋なんです。
小林: あ、ホントだ!布団がある。あそこ、今も一人寝てますね!
タクシーのパーキングの下の階で、人が寝ている。しかもそれが「断面で」見える。何とも言えない光景ですね。
テーブル・オン・ザ・ルーフ●
鈴野: 5×15mのデッキを使ったテーブルです。それと、コルクの固まりの椅子。夜は下に明かりがついて、浮いたような感じになるんです。
コルクは、屋外で使える素材を探していて、軽いのも条件でした。
鄭: 吸水しませんか。
鈴野: しないですね。少しはしますけど、乾かしておけば大丈夫です。もともとワインの栓とかに使われるので、水には強いんですね。
禿: 昔はお風呂のマットとかに使われていたんです。
鈴野: たしか、フランク・ロイド・ライトの落水荘は、床も天井も壁もコルクです。
これは何の塗装もしていません。
禿: 屋上で風に飛ばされない重さのバランスと、柔らかさと、コルクはそれを同時に満たしています。
高さが、椅子とテーブルの中間くらいで、腰を掛けられます。
鈴野: パーティーとかでここに人が集まると、あっちこっちで飲んだり食べたりしてますね。
小林: ここはお酒を飲むには気持ちよさそうですね。
鈴野: さっき話したカウンターはこれです。三角の脚は米松の無垢。樹液が出てきちゃいますけどね。
小林: 屋上には誰でも上がれるんですか。
鈴野: ホテルを利用する人なら。
ここは、景色も良くて、冬の天気のいい日には富士山まで見えて、景色がすごいフラットに見えて気持ち悪いくらい。新宿のビルみたいにものすごく高いんじゃなくて、これくらいの高さだと人まで見えるんです。
鄭: あそこが三茶(三軒茶屋)で、新宿、六本木、渋谷…。
鈴野: 主要な建物が、東京タワーをはじめとして、微妙にズレて全部が見えるんです。
鄭: こっち側は完全に住宅街ですね。銭湯もあるし。
鈴野: 目黒通り一本入ると、とたんにそんな風です。
クラスカの中●
鈴野: 1階のロビーの前では、洋書を並べて、あれは売ってるんですけどね、ホテルにとってはインテリアになっている。
照明は、もともと仏具をつくっているところが手がけたんです。
クラスカは、どう暮らすかを提案していきたいという考えです。アジア発の伝統を発信するみたいな。 3階はシェアオフィスです。広ーいところを何社かで仕切って使っています。
小林: 仕切は家具で?
鈴野: ええ。グラフィック系デザイン事務所。あっちは、アパレル系ですね。
4階は端から端まで使ったスイートルームがありまして、テラスも大きいです。他は、それほどは大きくない、中くらいの部屋です。
小林: 客層はビジネスマンですか。
鈴野: だいたいは外国人ですね。ビジネスマンはあまりいないでしょう。場所も場所ですし、あまり交通の便が良くない。地方から来て、デザインに興味がある人とか。
小林: なるほど。トラフが手がけたのはどこまでですか。
鈴野: 客室三部屋と、それと屋上です。
小林: 受けた印象は…、お二人やバス会社、タクシー会社、周りの環境、いい意味でヘンというか、そういう独特なものが、自然と集まっているように見えましたね。
鈴野: 下の階では、パーティーとかよくやってるんですけどね、ミラーボールとか回って、そのイメージしか知らない人は多いですが、その上では納豆や鍋を食べている。漫画オタクがいたり。そういうのが面白くて、だからここに入ったんですよね。
小林: ここに移ってきたのは、いつです?
鈴野: 2004年5月くらい。二人で始めたのもそれくらいです。前は代々木でやってました。
禿: 個人でやっていた時期は本当に1ヶ月か2ヶ月くらいでした。
小林: クラスカは、これで全部リニューアルは完了したのですか。
鈴野: いえ、しょっちゅうまだやるみたいですよ。
小林: 設計者が中に住んでいるのは、いいような…。
鄭: いいのか悪いのか。何かあるたびに呼ばれたりして。
鈴野: 実際、何かあると来ますね。わりと、しょっちゅう。
あと、ここはもう少しこうしといてもよかったかな、という所が常に見えるから…、見たくないところもあるんですよね。他の人は気になってなくても、自分ではやはり…。
小林: ホテルを使う人からの生の声は聞こえてきますか。いいことも、悪いことも。
鈴野: 「6階、埋まってますよ」とか、ホテルの人が話しかけてくれますね。
あと、生の声というわけではありませんが、2階とかでいいイベントがあると、学芸大学駅の人の流れが変わるくらい大勢が来ますよ。女の人とか、こーんなハイヒール履いて。
小林: ホテルの人が喜んでくれているのは、いいですね。実際にクラスカを拝見して、こういう暮らし方があるのか、と、とても意外でした。
鈴野: チェルシーホテルみたいな、アーティストとかが上に住んでいるようなホテルの日本版を目指したい、というのもあったようです。
小林: あの映画でも、確かに住人がいたり長期滞在者がいたり、面白かったですね。
いろいろ見せていただいて、全体的にお二人は、なんというか…、めざといという印象ですね。いろんなものに対して。
鈴野: 考え方に興味がある、んですかね…。お見せしたペットボトルの水にしても、普通はパッケージでおいしさを伝えようとしますが、この中で水の形そのまま止めようとか、水の一番きれいな時を、とか、そういう発想に興味がありますね。
屋上につくったテーブルも、発想の転換があったんです。はじめは、屋上の縁の方までテーブルにすると(転落防止のために)手すりを上げなければならなくて、かつ、風が強いときは普通の椅子と机だと片づけなきゃいけない、それにお金もあんまりない、そういうことが問題にされていました。そのときに、床に敷くデッキで、テーブルでもあり椅子でもあり床でもあるようなものをつくったらいいんじゃないか、と思ったんですね。
普通にデッキを敷いたらそれで終わりだったものも、上がってきた人が「おおっ」て言ってくれるようなものになったんですね。
「オーストラリア時間」と「日本時間」●
小林: 鈴野さんは、ある時期オーストラリアにいたんですね。
鈴野: はい。前に、オーストラリアのメルボルンから、シーラカンスK&H(註:設計事務所)に来ていた人がいました。その人の影響を受けて、もっと一緒に仕事がしたくて、オーストラリアに行ったんですね。日本のコンペを持って行って、その人もやろうって言ってくれて、どこへも行かずに2ヶ月間やってました。結果はダメだったんですけど、メルボルンには興味をもって、もう少しいようということになりました。また現地のコンペがあって、今度は他の人が忙しいからって一人で担当したんです。忙しいって言っても、pm5時くらいにはみんな帰っちゃうんですけど。僕は12時くらいまでやってまして、コンペの結果は一等で、そのあと基本設計までやって帰ってきました。
小林: その建物は、もう竣工したんですか。
鈴野: 今年の夏、くらいのはずです。
小林: 基本設計までで手放してしまって、心残りはありませんでしたか。
鈴野: まあ、ないわけではなかったですけど。でも、ビザの関係もあって、それにそこから先に踏み込むと、先がかなり長くなりそうでしたので。
小林: pm5時に終わるというのは、すごいですね。日本の設計事務所ではありえないですね。
鈴野: 仕事がどうして5時に終わるんだろう、という興味は、オーストラリアに行く一つの理由でした。
小林: そのカラクリはわかりましたか。
鈴野: 海外の事務所は5時とか6時までで、もちろん昼もとって、お茶の時間もある、と人から聞いたことがあります。なんでだろうと思ったら、不安になるくらい早く終わるので、午前中の使い方が上手かったり、帰ってから次の日の段取りを立てていたりするんですね。そうすると、結局作業時間は作業に集中して、考えるのは他のどこででもやっている。例えば、家でリラックスしているときでも。
こっちへ帰ってきても同じようにしたかったんですが、日本生活に戻ってしまいました(笑)。
二人: ハハハ。残念ですね。
鈴野: メルボルンから日本に来た人が「設計事務所では、日本人は雑誌見てるだけじゃないか」ってビックリしてました。
鄭: 日本の場合、「住み込み丁稚」みたいな感覚が根強いですからね。
小林: 有名建築家の事務所でも、pm10時で終わるところはあるみたいです。でも、持ち帰って仕事をしているみたいですけどね。つまり、終わりというのは、単に事務所を出るという意味だけですね。
そのオーストラリアのサイクルは、働きやすかったですか。
鈴野: 一番集中できましたね!日本では考えられないくらいです。一番いいコンディションでした。仕事を持ち帰ってはいましたが、そういうリズムがあるのが良かったんです。
日本の設計事務所も、そうならないといけないかもしれませんね。
二人: あ、ちょうど、5時になりましたね。このインタビューもこの辺で…(笑)。
静かで柔らかな口調のお二人でしたが、ユニークな発想や面白い素材に対して非常に鋭い触覚のようなものを持っていました。お二人にかかると、何の変哲もないモノがとたんに魅力的にみえてしまうから不思議です。
鈴野 浩一(すずの こういち)

1973年  神奈川県生まれ
1996年  東京理科大学工学部建築学科卒業
1998年  横浜国立大学院工学部建築学専攻修士課程修了
1998〜2001年  シーラカンス K&H
2002〜2003年  メルボルン Kerstin Thompson Architects
2004年〜  トラフ建築設計事務所共同主宰
2005年  東京理科大学非常勤講師
禿 真哉(かむろ しんや)

1974年  島根県生まれ
1997年  明治大学理工学部建築学科卒業
1999年  同大学大学院修士課程修了
2000〜2003年  青木淳建築計画事務所
2004年〜  トラフ建築設計事務所共同主宰
聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/
クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影
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