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生活普段議 
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第29号   根津 武彦さん  「できるだけ触手を伸ばしていたい」
第27号の沢瀬さんとともにロコアーキテクツを運営されている根津さんを訪ねました。沢瀬さんと同様「モノにはあまり執着しない」という根津さんですが、ひとつの眼鏡をみたときに「これだ!」と思ったそうです。そこからうかがえるデザインの思考とは…。
根津 武彦(ねづ たけひこ)

1965年 山梨県生まれ
1988年 東京理科大学理工学部建築学科卒業
1991年 東京理科大学大学院修士課程修了
1992年 ロンドン大学バートレットスクールディプロマ卒業後、SHIMZ(UK)
1995年 北川原温建築都市研究所
2002年 ロコアーキテクツ共同設立

ロコアーキテクツのURL www.loco-arch.com
今回のモノ
 
眼鏡の変遷は思考の記録?●
根津:
これはなかなかおもしろい眼鏡だから紹介しようかなと。


icBerlin
タイプ名は「ユキ」
小林:
まず顔を見た時にパッと目に付きますよね。
根津:
これステンレスのバネ鋼でできているんですね。0.5ミリのステンレス一枚板をレーザーでカットして、それを折り曲げただけでできてるんですよ。バネ鋼の弾力性を活かしながらパーツを作っているので、ヒンジもネジもつなぎ目もいっさいなくて壊れにくいんです。「ICベルリン」っていうドイツブランドの若いデザイナーが作っていて、全ての眼鏡をこういった考えで作っているんですよ。職人的な仕掛けがすごくおもしろい。眼鏡屋さんからこの話を聞いた時に、これだ!と思って買いました。
小林:
これはわくわくしますね。
根津:
ツルや鼻当てにシリコンのチューブを差しているだけのシンプルさもよくて。
このデザイナーの人達は、大友克洋さんの「アキラ」が好きで、眼鏡のシリーズに登場人物の名前がついていたりするんですよ。オオトモとか、アキラとか。
小林:
このタイプの名前は?
根津:
これはアキラ系じゃないんですけど、ユキっていう女性の名前が付いています。
小林:
日本のアニメーションとかコミックに影響を受けてるんですね。
根津:
そうですね。僕が持っているのはどちらかと言うとスタンダードに近い形なんですが、サングラスは、ツルの部分が太くなって、薄っぺらな板の感じがもっとあるんですよ。眼鏡をマスクみたいに顔にスパッとはめるみたいな方が、未来的なアキラのイメージに近いんですよね。
小林:
本当に一枚の板みたいになってくるんでしょうね。
根津:
そうですね。サングラスは太陽光を目に入れないようにレンズが大きくて、それに合わせてつるの部分もバランス的にどんどん太くなっていく。でもそれだと透明なレンズの眼鏡の場合は、顔とのバランスが悪くなってしまうんですね。
小林:
これを選ばれた理由はあったんですか?
根津:
以前にかけていたのは、これなんですよ。LAアイワークスっていうロサンゼルスのブランドで、ポップで装飾的な傾向が強い、ICベルリンのとは対極の眼鏡だったんです。成城の眼鏡屋さんで、なかなかおもしろいなと思って買ったんです。


LA アイワークス
サングラスパーツも
小林:
確かに装飾的ですね。
根津:
今はもっとポップさが過剰になって、蝶の様なサングラスや、レインボーカラーのフレームがあったりするんです。ポップでキッチュなロサンゼルスの眼鏡といった印象なんですよ。
小林:
眼鏡の変化は、根津さんの思考の変化を示しているんですか?
根津:
そうですね。
小林:
根津さんは、今こっち(ICベルリン)の心理なんですね。合理的で、シンプル。
根津:
どこかで揺らぎのない核がしっかりとあって、それがハッと気づかせてくれるような合理性ですね。そういうものの魅力は最近特に感じますね。
小林:
「説得力」って言えばいいですかね。確かにそれは重要な要素かもしれない。
根津:
でも、icベルリンのような論理的な部分だけじゃなくて、もともと僕の中にはLAアイワークスのような感覚的な部分を大切にしたいという気持ちも強いんですよ。
ロコアーキテクツで2人でのモノ作り●
小林:
根津さんと沢瀬さん(生活普段議第27号)のデザインの根源は、何ですか?
根津:
2人でいつも話をしているのは、僕らの既に持っているアイデアをそのままかたちにするだけでは限界があるということです。それでは自分たちの中で完結してしまうだけで、結果的にマンネリ化してしまうと思うんですよ。つくる前から結果が見えてしまっているという状況。モノをつくっていて楽しいのは、これまでとは違うものがパッと閃いたり、予想していなかった方向に展開していったり、そういった発見があるからだと思うんです。だから最初から何かを決めてスタートするのではなくて、どちらかというと2人で適当にいじりながら、核探しをするんですよね。2人でお互いにキャッチボールをしながら、相手の言葉に反応して作ってみるとか、そういうコミュニケーションの中から生まれてくるものですよね。
建築の場合は、そこに施主が加わって三者になるんだけど、そこでは施主から出てきたものを核にしたいと思ってるんですよ。
小林:
お施主さんとも、会ってみないと分からない、ということですね。
根津:
そうですね。それに加えて、与えられた敷地とか、生活環境とか、他の条件がたくさんからんでいるので…。一つのことに留まって突き詰めるというよりは、常に動きつつおいしいものを探しまわるような感覚ですね。
小林:
それは体力がいりますよね。
根津:
そうですね。体力と時間ですね。
その結果、生産されたものの価値はとても高いものだと思うんですけど、数を生産する能力としては、どうしても低くなってしまいますね。社会ではスピードがとても重要視されていて、施主の時間や僕ら組織の体力は、スピーディに動かないとどんどん消費される一方ですから。そういう意味では、今までの作り方は体力消耗戦でしたね。
小林:
沢瀬さんと根津さんと、モノ作りの根本的な「波長」が合ってたんですね?
根津:
根本的なとこは合っていたと思いますね。沢瀬と僕の性格はもちろん違う。僕はどちらかというと、いろいろなことをつまみ食いしていくのが好きなんですね。たまたまつまみ食いしていたものが多かったのが建築だった、っていう感覚でいるんですけど。好きなものも徐々に変化していくから、ある意味フラフラしていて、それが沢瀬との性格の違いだと思うんですよ。だけど、すべてが全く違っていたら、おそらく二人で一緒にモノなんか作れなくて、不和というかぶつかり合いばかりになっちゃう。設計やデザインの考え方とかあり方、あとは感じ方とか、強く意識しているわけではないけど、それは共通している部分だと思いますね。
甲府の美容院●
根津:
これは甲府の美容院です。JCDデザイン賞、インテリアプランニング賞、グッドデザイン賞を頂きました。僕はもともと山梨県出身で、兄が通っている美容室が2号店を出すということで紹介を受けたんです。1号店は、若い人達をターゲットにしたポップなお店で、県内では人気のある有名店なんですけど、そこのオーナーが、もう少し年齢層の高い人をターゲットにして、ゆとりのある落ち着いたお店を要望されたんです。
既存の建物は、もともと宝石屋さんだったんです。宝石屋さんが移転した後、しばらく放っておかれた不思議な建物を、オーナーが非常に興味深く思っていて、2号店のために買った、という経緯なんです。シンメトリーの強い神殿みたいな建物なんですが、この建物の周りは普通の民家なんですよ。



photo:Nobuaki Nakagawa
小林:
この建物だけが、異質ですよね。
根津:
中に入るとさらに異質で、窓が一切ない代わりに、上にはこの建物の2/3くらいを占める大きなトップライトがあって、初めて見た時からわくわくしていたのをよく覚えています。
壁面に窓がないから方向感覚が全然なくて、でもトップライトから日光がいっぱい入ってくるから、不思議な浮遊感があったんですね。その空間性をまず生かしたかったんです。
それで最初に考えたのは、6mもある天井高を生かして、カーテンが床から天井までドカーンとあるようなものを考えたりとか、バルーンのようなものを浮かして、それが空間を仕切ったりすることができないかなとか。でも、お金の話になったときに、バルーンを吊るしてるお金なんてどこにもないよっていうことが分かったんですね(笑)。
それで、まず既存の建物にくっついていた装飾的なものを取ってしまって、もともと空間が持っている素の力強さを、もういちど引き出してあげることが重要じゃないかと、考え方を変えたんです。
小林:
確かに、大きなトップライトは貴重ですね。
根津:
ええ。それに空間自体にゆとりがあったので、そのゆとりを楽しめる場を作りましょうっていう話からやり直しました。そこで、大きくゾーニングで分けていくよりは、必要な什器がランダムにパラパラと置かれている方がいいんじゃないか、とモノの配置からスタディを始めたんです。それと同時に、ここが美容室を超えた空間にならないかな、と考えたんですね。
小林:
「美容院を超えた空間」?
根津:
どうしても美容室には画一的な雰囲気があって、鏡とかイスとかがズラーっと並んでいる配置が、美容室という場を決めてしまっているように思ったんです。もっとここがカフェとか、クラブとか、あるいは美術館のような雰囲気になるといいんじゃないかと思ったんですね。だから美容室に必要な鏡とか収納とか照明とかを一つにまとめて、抽象的で機能的な「オブジェ」に変換して、それでシャンプー台を囲むと、美容室らしい雰囲気を変えれるんじゃないかと。それでリラックスできる個室のようなシャンプーブースがつくれるんじゃないかなと考えたんです。
小林:
個室のようなオブジェのような…。でも、正円じゃなくて、ちょっといびつなんですね。
根津:
そうです。最初は丸い形から始めたんですけど、シャンプーブースとして必要なスペースを割り出す作業をしたり、今度はそれを空間の中に置いてみて、このブースと廻りの空間のバランスからスタディしたり、いろんなパターンを試してみました。
小林:
途中段階を見比べると、だんだん周りの空間の圧迫感が和らいできていますね。
根津:
この過程で、この1つのブースで一人のスタイリストに対してお客さんが2人回せる、っていう法則が見つかったんです。であれば、ブースを一つの単位で考えるっていうことは、とても合理的な話で、この一つのセットが空間をつくる要素になると考えたわけです。
小林:
人数計算がそこで成り立つわけですね。
根津:
そうですね。かつ、この空間の中の人やモノの一つ一つが、出来るだけ距離をとりながら置かれている状況は、一番ゆったりと過ごせる状況をつくっているのではないかと。向いている方向もバラバラで、視線も交わらないし、空間の自由な雰囲気にもつながっている点が決め手となったんです。
最終的にブースは、シャンプー台を囲みながら、必要なところを膨らませてそこを収納にして、ブースの外周には平らな面を4カ所つくって、そのうち3カ所は鏡に、残り1カ所を入口にしています。で、その入口から中に入ってシャンプー台に寝転ぶと、天井の大きなトップライトがフワーと視界に広がるという仕掛けになっています。
素材は、牛革と木を使っているんですよ。


photo:Nobuaki Nakagawa
小林:
革っていうのは、思い切った使い方ですね。
根津:
牛革には、最大限効率的にとれる形があって、その形の曲線をそのまま生かして貼っていきました。染色される前の段階のものを中国から仕入れてもらって、それを貼ってるんですよ。この建物も最初は漂白されたような白々とした空気感の漂う空間だったので、だんだん色を帯びて馴染んでくるような、そういった演出ができないかなと思って牛革を選んだわけです。だから元は漂白された色のままなんですけど、使ってるうちにグローブのようにだんだん飴色になってくる。そんな「使い込まれていく表情」は、オーナーも気に入ってくれていました。
小林:
では長年で木の部分と色の違いがかなり出てくるんでしょうね。
根津:
すでに写真を撮影したときと随分変わりましたね。
この店には、当初看板がなかったんです。2号店なので、知ってる人しか来られないような「特別感」みたいなものを出したいとオーナーがおっしゃって、「だったら看板出さないでいいんじゃないの」っていう話になったんです。ここのお店の象徴であるこのブースが、入口のガラス越しに見えて、これ自体がサインにならないかなと考えたんです。でも工事中は、近所の人たちが何をつくっているのかさっぱり分からないから、宗教団体が来たんじゃないかとみんな心配になって、ここは何になるんですか?ってよく聞かれました(笑)。
小林:
建物自体にそういう雰囲気がありますよね。
2Fは休憩スペースですか?
根津:
そうですね。トイレなどの上で、当初使われていなかった場所を、階段をつけて上れるようにしました。キッチンカウンターがあるので、カットし終わった人ととか、時間がある人は、ここで好きな飲み物を取って過ごせるようにしてあります。家族で来て、子供が髪の毛を切っている時に上で親が待っていたりとか、親が切っているときには上で子供が遊んでいたりとか。
甲府は地方都市だから、色々な条件が重なって今回のような特殊なことが可能だったのかもしれませんね。おそらく東京で同じことをしようとしても、こんなにゆとりのある計画は許されないでしょうし、出来たとしても数ある特殊な美容室の一つになってしまったような気がします。甲府では、唯一の場所としてしっかりとした存在感が発揮できいて、それが受け入れられているのだと思います。実際1号店のお客さんと比べて、年齢層も客単価も上がって、商売としては予想以上に順調なんですよね。
小林:
かなり試行錯誤されたようですね。
根津:
そうですね。最初に現地を見に行ったのがお正月明けで、仕事として依頼を受けたのが2月、最終的に工事に入ったのが、お盆明けですね。見積りにも時間がかかったので、デザインとしてはだいたい2月から6月くらいかな。
小林:
デザイン期間4ヶ月ですか。店舗にしては長いですね。
根津:
商業施設としては、長かったと思います。建物はオーナーが買い取っていたし、すでに1号店があってそちらの営業が順調だったので、そういう意味では時間的に恵まれてたんだと思いますね。
小林:
でもそれだけ時間をかけただけあって、いい風に転んだんですよね。オーナーも結果を信じていたんでしょうね。
根津:
計画の途中の段階で暗礁に乗りかけることもあったんですよ。今回の計画は今までの美容室にはない新しい試みが多かったので、恐れとか不安とかもあったと思うんですよ。実際、案をゼロに戻してごくシンプルなものにしようか、っていう話にもなったんですけど、最後にオーナーが、それだったら僕らに頼む必要はなかったし、僕らと今まで積み上げてきたものをもっと大切にしたほうがいいっていうことで、理解を示してくれたんです。これだけ思い切ったプランを運営していこうというオーナーの意志の強さとか、理解を示してくれる許容力とか、本当に恵まれていました。
僕らはいつも、自分達が考えたデザインの意図を、そのまま、施主に話すようにしています。特に計画の初期段階では、こちらであらかじめ選定して、絞った案だけを見せるのではなくて、試行錯誤の段階の案も出来るだけ見せるようにしています。
小林:
施主の人を巻き込んでしまうというか、設計に入れてしまうということですね。
根津:
そうですね。「こんなに色々なことが出来るんです、その中でどんな風につくっていきますか」っていうところから話を始めるので、施主も根本的なところから一緒に考える心構えのようなものが芽生えるのだと思います。ロコの2人の中で成立している社会性に、さらに施主が加わって社会性が増していく過程なんだと思います。
小林:
沢瀬さんも「今後はまだ模索中である」と言われていました。これから方向性を定めたりしていく、ということなんでしょうかね。
根津:
今までお話したデザインの過程にも似ているんですけど、自分たちで前もって何かを定めて行動するという意識はあまりなくて、あるとしたら、できるだけ多くのところに触手を伸ばしつつ活動していたい、という意識があることです。
個人的な感覚で話をしますと、仮に自分がどこかに就職して、5年くらい働いたら、30年くらい先の姿が見えてしまいましたと。そうすると、生活することに対してのモチベーションやポジティブさが薄れてしまうことってあると思うんですよ。
小林:
ありますね。
根津:
僕は建築家としても組織としても、同じようなことが言えると思っていて、だから出来るだけ自分から可能性を限定するような型にはまらないようにしています。それがモノを作るときの大きな駆動を邪魔してしまう気がするんですよね。とりあえず今は、可能性を絞ることなく、足をバタバタ動かしつづけながらもがいて、振り返った時に「こういうことだったんだな」って気がつけばいいんじゃないかなと思っています。
従来からある美容院という定型を「崩す」だけではなく、もともとあった建物の魅力を「引き出し」た店舗、そこでは合理性と造形がうまくマッチしています。眼鏡の変遷にみられる思考の要素が、そこには存在しているようです。
聞き手:小林、竹下(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

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