生活普段議 
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第22号   長坂 常さん  「建築だけじゃなくて、今すべてが面白い」
長坂さんは、大学卒業後に高価な自転車を盗難されて以来モノには執着しなくなったそうです。
そして、初仕事はいきなりの大仕事。にもかかわらず、設計を超えて借り主探しを自分たちで行ってしまう、というようなアクティブな方です。
いま手がけている建築、家具、プロダクト、すべてが面白いという長坂さんです。
最後には「100% design Tokyo の案内」もあります。
長坂 常(ながさか じょう)

1971年 大阪生まれ
1993年 明治大学中途退学
1998年 東京芸術大学美術学部建築学科卒業
     スタジオスキーマ設立(旧名)

スキーマ建築計画のURL www.sschemata.com/
長坂さんは、18号の永山さんからリンクしています!●
長坂:
生活普段議の永山さんの回(第18号)を見て、すごいな!と思って。もともと、彼女はモノ派なんですよね。あのピンクの豚ですが、彼女があれを買ったとき偶然一緒にいたんですよね。モノを見ている視点が、ぼくとは全然違いますね。ぱっと、「あ、かわいい!」とか言って、どんどん店の中に入って行って、「あ、買うんだ!?」っていう感じでしたね。たまに一緒に歩いていると、街の観察の仕方がぜんぜん違うなーと思います。
小林:
着眼点が?
長坂:
ぼくはそれを見て、「ああ、そうなんだ!」と喜んでるんですけど。決して彼女のように、それを欲しいとか思わないんですよ。モノはほんとに無い方が…、無い事を理想としている。明らかにぼくはモノ派じゃないなと思ったのは、大学のときで、芸大のキャンパスで工芸科と同じ棟に入ってたんです。工芸科の人たちって、バイクをものすごくきれいに扱うんです。毎日のように手入れをしていて、ピカピカなバイクが並んでるんですよ。そこに、ぼくのとんでもないバイクを乗りつけなくちゃいけなくて、いたずらされてシートが破れてたり、ブレーキのワイヤーとかを強引に切ってつなげている様な状態で、ひどいんです。ぼくは、バイクはすごい好きなんですけど、バイクそのものよりは体験の方に重要な部分があって、バイクに乗り始めたのも、終電とかに拘束されるのが非常に嫌だったからなんです。拘束されるのが苦手なのかな。モノを持っていると気になってしまうから、持ちたくないっていうのは、結構あるかも。
小林:
身軽でいたい感じですか?
長坂:
火事で焼かれて困るものって言ったら、仕事のデータくらいで、本とかは実用的に困りますけど…、っていうレベルなんですね。だから、モノの話と言われてちょっと困って、結構考えたんです。モノに対してこだわったのって、ずいぶんさかのぼっちゃうんですけど…。
幻のキャノンデール●
長坂:
5年位前に自転車を一台買ったんです。キャノンデールの25万円位するやつで、ぼくはその頃、大学卒業したてで、ふらふらしてたので、ほんとにお金が無いときに買ったんです。それが3週間くらいで盗られちゃったんです。
鄭:
それは…、泣きそうですね。
長坂:
そうなんです。ローンだけ残って。泣きそうです。そういうこともあって、それ以来、モノに対してあんまり執着をもてなくなっちゃってるのかも知れないです。ぼくは、モノをよくどっかに無くしちゃうんで、鞄なんかも、基本的に袋形式で首からぶら下げられるものしかもてないんです。なんでもすぐに、そこに入れるようにして。その自転車は、ほんとに泣けたんですけど。バイクや自転車は、単純に物が好きっていうよりかは、乗ってる感じがすごい好きなんです。そういうのが結構あって、でもようやくショックから立ち直り始めてて、最近はよく自転車をネットで見てます。
小林:
ショックから立ち直るのに、5年かかったんですか!
長坂:
そうですね。その間、変な自転車はいくつか買いましたけど。電動で漕がずに走れるやつとか。そういうことで、楽しみを消化してたんです。でも、盗まれたことが結構ストレスだった。自転車ってよくできていて、ほんとにお金を払えば払うだけ、よくなっていく感じなんです。プロダクトとしては、すごいよくできているなという感じ。最初はこれでいいやと思っても、ちょっと待てよみたいに、段々だんだん、上がっていくんですよね。で、今はまたキャノンデールのを見て、これがいいかな、あれがいいかな、と品定めをしているんです。
小林:
盗られたキャノンデールの型番は?
長坂:
型番が替わっちゃっているんで、今はもうそのものが無くて。ぼくが買ったのはホントに非常にシンプルなやつでした。その年の型番ではF1000だったんですけど、キャノンデールって毎年デザインが変わるんですよ。キャノンデールっていうロゴまで変わるんですよ。
鄭:
ロゴまで!?
長坂:
そう!だから、買ったものを盗られてしまうと、もう無いってことなんです。
鄭:
ちょっとずつ変わってるんだ!
長坂:
そう、毎年違うんですよね。たとえば、キャノンデールのサイトには2000年から載っていますけど、2001年はこういう上下2列のロゴなんですね。ぼくが買ったのは1999年で、サイトにもないんですけど、文字が一番シンプルで真横にぴっと付いているだけだったんです。色が黄緑色で、その後は見かけないんですよ。その黄緑色のは、いまはもうオークションとか探さないと無いかな。同じやつが欲しいなと思ってるんですけど。いろいろ見ていると、それが一番いい。
鄭:
気に入ってる?
長坂:
気に入ってるんですよね。デザインが一番シンプルなんです。キャノンデールの文字もいやらしくないんですね。さっきの2段くらいのロゴならいいんですけど、やたら気障なロゴとか、変なのがあるんですよ。そのときの、その字体のキャノンデールっていう文字が非常によかったんです。それを、探しているんですけど、ぴったしのやつが無くて。
小林:
もし、出てきたら即買いします?
長坂:
即買いしますよ!
鄭:
めぐりめぐって、戻ってきたり。
長坂:
そうそう、ありえますよ!しばらくは、見たくなかったんですよね。でも、街中でも見かけなかったですね同じものは。数自体が少なかったようです。
モノより体験●
長坂:
男だからか…、バイクとか自転車のように跨いで乗るモノは、愛着が違うんですね。車とかは、乗せられてるって感じなんですけど、バイクとかって一体に走ってるような感じがするんで、それがすごく好きで。ものというよりかは、生き物に近い感じがしていて、その感覚とか体験がすごい好きです。でもモノをまた見たら、こうやってまた欲しくなっちゃう、そういうことがまったく無いわけじゃないんですけど。なぜか、こだわるのは感覚とか体験ですね。車とかには一度も興味を持ったことは無いんです。
小林:
そうなんですか!?
長坂:
大学のときずっと車に乗ってましたけど、それは便利だからですね。大学入る前一年くらいは、いきなり実家が群馬の方に行っちゃったので、車で流浪の民のように友達の家を転々としてたこともあって。
一同:
(笑)
長坂:
その頃バブルがはじけて、街中に空き地がいっぱいあったんですよ。そこに車を入れといて、街中で遊んでたりして。そういう時期があったんです。でも、その時も車が可愛いとは、全然思わなかった。
小林:
愛着とは別ものなんですね。
長坂:
そうそう、便利だってだけかな。だから、買えるんだったらワゴンが欲しい。寝れるし、物置にもなる。そういう発想しかなくて、女の子を乗っけて喜ばせるような車なんて、一回も乗ったことないし。モノに対して話をすると、そういう感じにぼくの場合なっちゃうんです。だから車もそんな感じでしょう。着替えとかが全部入っていて。好きなレコード持ち歩いて。
小林:
なるほど!とりあえずこれで動けば、全部がこの中にあるっていう感じ?
長坂:
そうそう、その中から、でかい冷蔵庫みたいなリュックを出して、中に今日必要なものを、全部入れるんです。そんで、友達のところに行って、という風にやってたんですよね。そういう、自由度がぼくには必要で、だから就職もしてなかったりするのかなって…、それはちょっとこじ付けだけど。
大学卒業後に、すぐ独立●
小林:
大学出てすぐに、独立されたんですよね?
長坂:
そうなんです。独立といっても、永山さんみたいにすぐ仕事がとれて、なんていう話は全然無いですけど。ぼくは最初、仕事のきっかけにしようとして家具をつくっていたんですよ。そのうちに、家具がもう少し大きくなったら、それを並べて内装っぽい写真を撮って、「内装の仕事をしている」と言って。そのときに、青木事務所にいた永山さんがよくウチの事務所に遊びに来てくれていてね。それで青木さんと会う機会ができて、青木さんの仕事の家具をうちでいくつかやらしてもらったんですよ。そこから段々、内装の仕事をやるようになったんです。
小林:
サイトを拝見しても、インテリアがだいぶ多いですよね。
長坂:
多いですね。気が付いたら、かれこれ何年もやっているので。そんな訳で、建築の技能を人のところで教わったことは無いんです。学校で、課題をつくってた程度。でも青木さんのところの内装をやったときに、どんな図面をみんなは描くんだろうと見てたりとか。現場監理をしているのを横で見てたりとか、その程度で。初めての建築の仕事は、山梨の方の益子義弘先生が設計した別荘の増築だったんですよ。
小林:
「小六の山荘」?
長坂:
そう、それなんですけど。多分増築だったから、やらしてくれたでしょうけど。お施主さんがよく分かっている方で、「別に建築家が建てる訳じゃないから、大丈夫だ」と。
一同:
(笑)
長坂:
「発想さえあれば、あとはおじいちゃんの話をよく聞いてくれればいいんだよ。だから、やったら?」とか、言われて。「じゃあ、いきます!」って。
その頃は、「建築とは?」なんて、ほんとによく分からないで、キッチンと寝室を増やしたいという与件だったので、既存部分に同じような建物を並べて、その間に庇が出てくるので、その二つの庇の間をキッチンにしよう、っていうものなんです。益子さんの建物だったということもあって、どう手をつけていいのか分からずに、むしろ距離をとりたいなと思ったので、ひとつは益子さんのものがあって、そこにもうひとつ横に並べると、ちょうど庇の出ている間隔で、キッチンがつくれるかなって。益子さんの図面をさんざん見て、「すばらしいなー!」と、だからそれには手を入れなかったんです。
そのあとは広告代理店の仕事を多くやりました。販売センターの仕事なんかもやって、曲がりながらも建築はしてました。そうこうしている時に来た新築の初めての物件が「haramo cuprum」なんです。
haramo cuprum●
長坂:
お施主さんは、この地域の地主の方なんですけど。この方が、ハウスメーカーにマンションの企画をお願いしてたんだけど、でもデザイン的にいいものが上がって来ないというんで、たまたまぼくの同級生を介して紹介してもらって、お会いすることになったんです。最初は、内装のコーディネートとかをやっていたんですけど、予算もないし結構大変だったんです。そうするうちに、ハウスメーカーが自ら色んな失態を重ねていって、信頼を失っちゃって、「じゃあ、やるか?」って言われて、全部やることになってしまったんです。
小林:
ほー
長坂:
それで、これは総工費が5億円なんですけど、新築としては初めての物件がこの建物。
小林:
いきなり、大きいのが来ましたね。
長坂:
そうですねー。大変でしたけど。まったく分からないし。
鄭:
住宅と、これくらいの集合住宅ではぜんぜん話が違いますよね。階数は?
長坂:
9階建てで、2年間かけてつくったんです。お施主さんが奇特だなと思うんですけど、経験が無いのに大丈夫と思って託してくれて。ぼくと同世代なんですよ。名義人はおじいちゃんなんですけど。その孫がぼくと同い年で、企画を自分でやるよって言って。年が同じっていうのもあって、いっしょにやったって感じですね。まあ、非常識なことをゼネコンに言ってたんだと思うんですけど、なんとかできまして。これが、一作目ですね。
小林:
一作目が9階建ての店舗付き集合住宅!2004年3月…、1年ちょっと前ですね。
長坂:
そうですね。新建築にも取り上げていただいたりしてるんです。屋上が3つあって、計画道路があったので、道路側は高くできなくて、奥は商業地域でも高さ制限が違って、そのMAXヴォリュームをとっていったら、こういう形になったっていうだけなんです。29戸の部屋と、7つの店舗が入っています。面白かったのは、3階の屋上をカフェにした経緯ですね。ここは、田舎なんです。青梅線の中神の駅前なんですけど、この地域で3階にカフェなんてありえないという話で、不動産屋はカフェの仲介からは早々に撤退してしまったんです。でも、これだけの屋上を前にしてね、緑化もしなきゃいけないし、芝だけ置いとくのはね。そこに住宅2戸増やしたからって、何になんの?ということがあったので、施主を説得して何とかカフェを入れようよと。そうすると、施主も「上はみんな1ルームなんで、日中人がいなくなって無用心なのも嫌だから、賑わいが絶えずあるような場所をつくってくれるのはいいよ。」という話で、自分たちでネット上で募集をかけたんですよ。
小林:
ヘー
長坂:
いろんな手を使いましたけどね。有名なポータルサイトとか、FM局とかにはたらきかけたりとか。そうこうしているうちに、何人か希望者が現われて、最終的に一人が残ってやってくれることになったんです。これが無いときは、ほんとに古い商店街だったんで、そこにカフェができると言われても誰も予想が付かないんですよ。相場としても、3階にカフェなんて有り得ないと。でも、これができて駅前に広がりができたりとか、1階にコンビニが入ったりとか、診療所が入ったりとかして。その上にあるので、そんなに不自然ではないんですよね。それに、屋上が単純に気持ちのいい場所なんです。だから、夏場は非常に人気で、繁盛してますね。
小林:
屋上全部が芝生なんですか?
長坂:
そうそう、そうです。そういう部分なので、屋上の賃料はいいってことで、賃料ゼロ円の屋上付きって書いて宣伝を出したんです。
小林:
それはキャッチーですね。カフェの選考にもかかわって?
長坂:
そうですね、最終的には、もちろん選んでもらいましたけど、その辺はお施主さんとの信頼関係ができていて、任されてました。内装も、もちろんうちでやって。カフェの人とは、いまだにウェブで協力してたり。「こういうことやったらいいんじゃないの?」とか。彼もブログをやってるんですけど、それを見ているとライブカメラ見ているような感じで、自分が作ったものが安心して見れる。「ああ、こうなっているのか今日は」っていう、楽しみがすごいあるなーと思って。自分でも、つくってただハイって売っているような感じはやっぱりつまらないので、ウェブとかで、ずっと見ていられるというのがすごい面白いですね。昔やった、「sumica」っていう築40年くらいのアパートのリノベーションの仕事があるんですけど。そこに入った子が「sumica202」っていうブログをやっていて、そういう風に、自分が設計した家のブログを住人が立ち上げてくれるのがすごく嬉しくて。
 
今も、「haramo cuprum」の近所に、同じお施主さんの賃貸集合住宅「haramo-2」をやっているんですけど、それもお施主さんにブログを立ち上げてもらって、いろいろコメントをつけてもらったり、ぼくの方でも展開があると紹介したり、だんだん事前にお客さんが付くみたいな感じで、「こうして欲しいな」とか、「なんとかかみさん説得して来年越すからさ」みたいな、そういう話し合いがブログの中で行われているんです。そうやっていくと、賃貸でありながら建てる前から客付けができるっていうのも、クライアントにとってはメリットだし、っていうので、ネットは結構おもしろいなと思ってるんです。だからまあ、かなり情報開示して、オープンにしちゃってるんです。お施主さんもそういうノリが結構好きなんで。

進行中のharamo-2の模型
haramo-2●
長坂:
立川より向こうの、いま仕事をしている辺って、デベロッパーとかデザイナーズマンションのプロデュース会社とかが入ってこれないんです。
小林:
入れない?
長坂:
入れないというのは、やはり賃料が非常に安いので、利益が出せないんですよ。だから、地元のゼネコンとかが、副業として賃貸をやっていたり、ていうくらいなんです。なんで、ぼくらがちょっと狙っているのは、そういう地域で、デザインされるマンションっていうのは、どういうものなのかっていうことで。前回は商業地域で店舗とかも入っているんで、収益が上がってるんですけど、今度のやつは低層で住居しか入ってないので、事業計画が難しいんですね。それを、どうやってやり繰りできるかっていうのを試しているんです。だから、設計も都心のデザイナーズマンションの感覚で、至れり尽くせりでやれるような状況ではまったくなくて、どこまでをぼくらが与えて、使っている人たちにどこまで手を入れさせるかという感じで。郊外なので、とにかく車入れさせよう、でその車をつかってホームセンターとかで材料を買ってきて、日曜大工で棚とかをつけていいよっていう方向に持っていけないかなと考えています。むかしセパ穴を使った家具っていうのをやったんですね。ジョイント部だけ考えてあげれば、セパ穴を使って棚とかつくれるんですよ。そのノウハウだけを提示して、使い手が好きなようにできるというのが、今やっている計画なんです。
(※「セパ穴とは?」 コンクリート型枠を止めるために工事工程の中で使用されるもの。一般には完成時には切られモルタルでふたをされる。〔スキーマ建築計画HPより抜粋〕)

セパ穴を利用した家具
plantation
photo:スキーマ建築計画提供
鄭:
これは、長屋のようですね。
長坂:
構造はラーメンで、非常にシンプルにしているんです。ガレージを明るくしてあげて、こういう屋上の部分をつくって、内側はセパ穴だらけのコンクリートの打放し。
小林:
中庭形式なんですね。
長坂:
そうですね。ここから車を入れるようになります。分かりやすく言うと、ガレージハウスですね。車の利用率が非常に高いので、車を利用する生活に対して、場所を提供できないだろうか。ただ、この地域だと車はみんな青空駐車なんです。そのぶんで躯体費を上げるよりは、駐車場は外に出すっていうのがこの地域の常識なんです。それをどこまで、切り詰めていけるか、事業計画と金額自体もシュミレーションして、相場よりも若干高めでどこまでいけるか。そういうことを施主と一緒になって、計算しながら、この辺の賃料だったらいけるかな、というのを不動産屋に投げて。要はお施主さんと一緒にやって、お施主さんに計算をさせることで、プロデュースはいらないんじゃないかな、と。お施主さんは今お勤めなんですけど、ゆくゆくは賃貸業で1000室部屋をつくりたい、というので、都心でもいろんな投資物件を探してて、オフィスをそこでやってみようとか、それをリノベーションして貸そうとか。



haramo-2のアップ
小林:
以前登場していただいた、三浦さんとかが、やっていました。
長坂:
そうでしたね。でもぼくは、自分はできるだけ、そういうものを抱えていたくない、お手伝いをする側にいたい。興味は非常にあるんですけど、だからその辺にまったく知識が無いわけじゃないんですが、どちらかというと抱えたくない。ポータルになりたくない。ポータルになる強みもあるけど、身軽さがどうしても無くなっちゃう。できるだけ、補佐に回りたいということを思っていて。でも、経済とかに非常に興味があるので、一緒に考えるという立場で。そこから当然報酬なんか得られないですけど、設計料いただければ十分ですから。
小林:
最初に言われた、身軽でいたいというのにつながりますね。
長坂:
そうそう。
小林:
これは、周りからすると思い切った設計なんじゃないですか?
長坂:
そうですね。都心にも無いというか、都心はもうちょっと内装でいろんなことができるから、面積分を内装の工夫で補うわけです。ただ、郊外はやはり建蔽率も条件的には厳しく、敷地に対してヴォイドスペースを多く取らざるをえないわけです。だから、それを最大限利用するんですね。郊外はスペースで豊かさを表現すべきなのです。ガレージハウスにしたり、屋上利用可能な住宅にしたり。ただ、無駄なスペースを多く採ると、躯体費用は当然上がり、必然的に賃料が上がってしまいます。そこで、我々が考えたのはスペースの代わり機能的なものを必要最低限にしています。収納とか、キッチンとか。その代わり、賃貸だけど自由に作りこんでいい場所を設定し、自ら日曜大工をしてその不足を補ってもらうのです。そのルールがまたデザインソースになります。随分、斬新且つ強気な企画ですが、もちろん無根拠のままできないので、ネット上でそういうことを公開して、お話を聞いていっています。
小林:
「haramo cuprum」でも、住戸の募集もやったんですか?
長坂:
いや、募集というのではないけど、うちのサイトから入った人が1/3くらいいるのかな。
小林:
十分商売になりそうな感じの数ですね。
長坂:
そうそう、だけどそれを商売にするとやっぱりきつい。大学でたてのキャリアも無い人間が仕事を得るためには、ある程度こちらから、仕事をつくっていかないとどうにもならないというのもあるんですね。だから、商業的って言ったら変ですけど、どちらかというと、クライアントに対してという部分で、与件が変われば、デザインも変えていかなければいけないということを結構やっています。
小林:
むしろ、こういうものが如何に成り立つかという仕組みの方が興味があるということなんですね。
再び家具へ●
長坂:
ぼくは建築も大好きですけど、いまも内装はやっているし、今度はまた、こんな家具をつくっているんです。
小林:
「cross contour office」もこんな風になってましたね。

cross contour office
photo:スキーマ建築計画提供
長坂:
そうですね。これは形のひとつの描画方法だと思うんですけど、こういう形をつくりたいというときに、平面の積み重ねででそのフォルムをつくっていくことができるんです。なんでも好きな形をとりあえずつくって、それに、いろんなコンタを入れてってあげると、形ができてくる。そういう、面白さがあるんですよ。だから、こういう形が欲しいって言われたら、じゃあつくりますよみたいなことが、実際にできるわけですね。
小林:
ほー
長坂:
で、「cross contour office」では、コンタの板取まで全部うちでやっているんです。これもすごい面白くて、これが板取の図なんですよ。

cross contour officeの板取図
小林:
なんだこりゃ!?これでどれくらいの分量の?
長坂:
全部です。あの部屋全部。
小林:
すごい、これはひとつも同じのは無いんですか?
長坂:
無いんです。ここで、コンピュータの編集能力の高さが生きてくる。例えば、こういうコンタで、一個たりとも同じものがないっていうものに対しても、適当に枠の中に落とし込んでいけば、編集だけで十分板取ができてしまうわけですよ。むかしは、もののつくり方っていうのは、板に無駄な材料をなくしてモノをつくっていくか、それからルールをつくっていくっていうことが、建築の基本としてあったと思うんですよね。無駄なくというのは、ひとつのモダニズムの基本としてあるじゃないですか。それに対して、コンピュータの計算能力の高さをもってすれば、後付でも無駄を編集できるって思ったんですよ。これも、材料的には無駄なくできているんです。捨てる材料がそんなに多いわけではないんで。あとは、このデータを加工屋さんに投げると、加工屋さんが作ってくれて。
小林:
そのデータがそのまま、機械にかかるんですか?
長坂:
そうです。かかるところまでやるんです。あと、のこぎりを移動するラインは向こうで設定してもらうんですけど。
小林:
そう考えると、これはコンピュータあっての技ということですね。
長坂:
そうですね。これは、コストメリットも結構あるんです。中途半端に施工会社を入れて、管理を委ねると、説明のところに非常に苦労し、その上高い工事費を取られます。だけど、その工程をいれずに現場でぼくらが、組み立て方を模型片手に教えてあげさえすれば、コストを抑えるために、パターン化し分かりやすくする必要はまったく無いわけですよ。
小林:
こういう風にしようと思ったのは、なぜですか?
長坂:
エンジニアのためのオフィスなんで、少しずつこんもりと谷間のようなゾーニングをつくって欲しいという風に言われてたんで、こういうことなんですけど。こういうのは、うちにオリジナリティがあるというのではなくて、最近多いんですね。だから、一度やってみたかったんです。どういうことが起こるのかというのは、机上だけでは想像が付かないので、とにかくやってみようと。
プロダクトにはまる●
長坂:
最近プロダクトにはまっているというか、やっぱり面白いなと再認識してるんです。モノを収集する趣味は無いんですけど、つくるのは結構好きなほうなんです。これも、たぶん同じことなんですよね。このパイプというものの形からすると、これはあり得る形じゃ無いじゃないですか。だけど、その加工方法ひとつだけで、こういった強引なことができてしまう。
小林:
これが強引だなとおもうのは、この山の部分がパイプの何かに関係しているのかなと思ったら、全然していないんですね。
長坂:
そうそう、関係ない。それが、技術としては合理的にできちゃうんですね。今は。
小林:
でもきれいですね。
長坂:
きれいですよね。これは、ぼくも加工方法までは分からないですけど。
鄭:
実際には、ひとつひとつバラバラに切って貼り付けてるのかも。
長坂:
そうかもしれないですね。でも、他の雑誌で見ると何種類か他にも作ってましたね。そう考えると何かもうちょっと要領よくできるのではないですかね。でも、最近こういうの多いなと思うんです。これもひとつの描画方法だと思うんですよ。何かの形を描くときに、こういう描き方もあるんだなと。
小林:
こうなると、形というより、先ほどから言われている描画方法の問題になりますよね。
長坂:
そうですね。その描画方法を、どう受ける側に返すかっていうことが、最近やたら流行っているなって、世界を見ると思うんですよね。今は「材料にに素直にものを作るということ=ローコスト、美」という風には限定できなくなっている気がします。意外と一般に落ちてきている技術力も上がって、個人デザイナーでもかなり強引に形を作りこむことが出来るようになっている気がします。それを見て、ぼくもやりたいと思って。それには、新たな描画方法を提案しなければならないので、それを見つけ出している最中です。いまは、その描画方法のレパートリーをみんなでやっているような気がするんです。そのレパートリーのひとつを、ぼくらも提示することができないかと。
鄭:
なるほど。
長坂:
多分とんちみたいなものなんですね。限られたグリッドが引かれていて、その中を埋めていくような感じなんですよ。で、「あ、取られた!」って。
小林:
残っているのはどこだ?みたいな。
長坂:
そうそう、で下手に取られながらもデザインがかっこ悪かったりすると、悔しかったりするんですよね。ぼくだったらもっと仕上げられただろうって。
一同:
(笑)
長坂:
建築にはいろんな事情があるじゃないですか。それはそれで、解いていくのは楽しいんですけど、そればかりになると「何が作りたいのか?」っていうことを見失ってしまうことがある。それに対して、施主との関係ではなくて、自分のためにやれる制作活動がプロダクト、特に家具だと思うんです。だから、家具ってアイデアがピュアに出せるんですよ。
家具とインテリアと建築●
長坂:
11月の2日〜6日に「100%デザイン」っていう家具の展示会あるんですけど、そこに、今作っている家具を出品するんです。ここら辺がそのスタディで…
小林:
これは?
長坂:
「cross contour office」では、XYZ方向にすべて均質に、コンタを作ったんですけど、そのひとつを置き換えてあげるとどうなるだろう、という実験なんです。実は、3枚目のコンタを入れるのってすごい難しいんです。スライドする余地がないのです。
鄭:
うんうん、確かに。
長坂:
いままでは、3枚目を入れることだけを一生懸命考えてやってたんですよね。まあ、そうすると結局深く食い込めないというか、フェイクが出てきてしまうんです。だけど、これは3枚目を抜いてしまって、こういう厚みのあるものに刺してやると、固定されるし、そこに座る機能を持たせられれば面白いかな、ということを発想として。まだデザインはしてないんですけど、なんか椅子をつくれないかなと。
小林:
今後も、プロダクトとはずっと?
長坂:
最近再認識したんけど、これは面白い。建築にフィードバックしたり、実際に建築はつくらないけど、家具で作っていけたりとか、それはもう適宜に考えればいいかなと。そういう自由度は持っていたいなと思っています。
小林:
家具と建築が相互に影響しあって、ベストな解が見付かったりしますよね。
長坂:
そう、そうですね。どうしても建築でつくり込みすぎちゃったりするじゃないですか?例えば中に入るものを想定しないで、建築で全部ものを言いたいとなっちゃう。それが無くて、家具に行ってもいいじゃん、っていうノリを持っていたい。やっぱり、巷では、感覚の優れた人が増えていると思うんですけど、その人たちって、すごく無責任に建築も見るし、プロダクトも見るわけですよね。そのときの無責任さを、ぼくもある面もっていたいと思います。建築を擁護するのではなく。「よい場を生む」という発想に立っていたいのです。「ここは、建築でなくて、家具でやりましょうか?」というふうに、自分は自由に移れると面白いな。プレーンな箱を作って、家具だけでもいいだろうし。
小林:
武器がたくさんあるといいですよね。
長坂:
そうですね。面白いですよね。今やっている仕事は、ぼくにとっては非常に身に余るような仕事ですけど。やっぱり制限が多いし、できないこともたくさんあるんですよね。その辺の消化不良をプロダクトで補うと。
小林:
なるほど
鄭:
そうすると、建築とプロダクトでは、デザインするときの頭の入り方みたいなのはずいぶん違う感じになっているんですか?
長坂:
そうですね、プロダクトの場合は、現象に対してこれを何かに使えないか?という風に発想することができる。建築の場合、思いついてもそれを使えるステージってなかなか無いですよね。どちらかというと、建築の場合は、ぼくはリノベーションとかが多いんですけど、逆に言うと与えられたコンテクストをどう、自分の領域で勝負できるようにもっていくか、ということに頭を変えるじゃないですか。それで、例えばインターネットでお客を集めてくるところまで、プログラムにまで立ち入ったりする。それをずっとやっていると、実は何をつくりたかったのか、ふっとたまに分かんなくなるときがあるんですよね。そんときにプロダクトで頭を消化していると、こっちにもいずれアウトプットできるということを感じますね。
鄭:
建築とプロダクトっていうのは作る側からすると、非常にいい関係にあるのかな。自分の中に両方保てるといいですね。
長坂:
そうですね。だから、同じではないですね。同じではないですけど、結局なんとなく言いたいことは同じであって、あまり複雑なことを言おうという気はもともと無い。できるだけピュアにしたいっていうことで。プロダクトは簡単にピュアになれる。けど世界と戦わなきゃいけない。建築の場合は、もっとドメスティックでいろんな事情が絡んでて。両方面白いですね。余裕があればプロダクトもやっていきたいし、それがやがて収益になったらそれは嬉しいなと思ってます。
小林:
両方楽しいと思えるというのは、羨ましいというか、いいですよね。
長坂:
前は、「しょうがないこれしかできないから」と思ってやってたんです。それは楽しいんですけど、でも内装やれるよと言われたら、内装にわーっと飛び移っていく。建築できるよと言われると、またわーっと。でもいま、何が面白いのかと、ひいて見ると全部面白い。それに最近気付いたんです。それで、今年からプロダクトをやり始めたんですね。だから、家具とインテリアと建築っていうのは、ずっとやっていけたら面白いし。あまり、建築に身を置き過ぎないでいられたら、面白いなと。さっきの自由度を持っていたいという部分ですね。すべて、過去にもやったし、これからもやっていきたいと思っているんです。
100% design Tokyoの案内
 
今年、初めてイギリス一有名な家具の祭典が東京でデザイナーズウィークなどと一緒に開かれます。それに、私も参加することになりました。建築家の芦沢啓治氏、照明デザイナーの岡安泉氏と共にブースをシェアして展示します。そこで、我々は上でも話に出た3つ目のコンタに厚みを与えるソファを出展します。会期中、是非遊びに来てください。
 
<コンセプト文>
puzzle sofa
合板をプレカットし、面材で組み上げた脚部。
PE-foamを積層させた座。
その二つをさらに組み合わせることによって、安定したソファができるという仕組み。
パズルを完成させると一つの絵が表れてくるように、2つの異なる素材が組み合わされることで一つのかたち=『パズルソファ』も完成する。

詳しい情報は以下のサイトにてご覧ください。
http://www.100percentdesign.jp/
どんな分野のことでも積極的に挑戦していく長坂さん。物静かに淡々とした語り口調とは裏腹に、熱い活動を展開しています。
失ったキャノンデールとまた巡り会えるといいですね!
聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影
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