生活普段議 
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第24号   河内 一泰さん  「期待感をもってもらえるようになりたい」
今回は、河内建築設計事務所の河内一泰さんを訪ねました。
「モノを持たない派」だという河内さんは、空間づくりも“モノ”ではなく“光”を使って行うこともしばしば。建築の実作は、一見してビックリしてしまうような形です。
 
河内 一泰(こうち かずやす)

1973年 千葉県生まれ
1998年 東京藝術大学美術学部建築学科卒業
2000年 東京藝術大学美術学部建築学科修士課程修了
2000年 (株)難波和彦+界工作舎
2003年 河内建築設計事務所設立

河内築設計事務所のURL www.kkas.net
今回のモノ
 
A4サイズの手帳とシャーペン●
河内:
僕はモノに執着がないんですよね。
そんな中でも、唯一のお気に入りというか何というか…、いつも使っているのがA4サイズの手帳なんですけど。
鄭:
これは、使っている人をあまり見たことがないな…。
河内:
A4サイズって、このバインダーリングが小さかったりするので、使いやすいのがあんまりない。でも、これはリングも大きいし、使いやすいですよ。
現場でのスケッチとか、仕事のスケジュールとか、そういうのを全部同じA4フォーマットでやれるといいなと思って、使い始めました。これは二代目なんです。これ1冊あればどこででも仕事ができます。ただ、これはあんまりディテールはよろしくないんで、もっといいのがあったらほしいんですけど。
とりあえず、これはどこにでも持って行きますね。
小林:
現場にも一緒に?そのわりに、そんなに痛んでないですよね。
河内:
そういわれると、そうですね。
コンピューターのデータって、ソフトが変わると使えなくなっちゃうことがあるじゃないですか。だから、最後は紙で残すのがベストかな、と思っています。とりあえず、どんなものでも「A4」っていうフォーマットに最後は落ち着くという…。
鄭:
中のリーフは自分で作られてるんですか?
河内:
そうですね。作ってるっていっても大したものじゃないですけど、スケジュールのページは作ってますね。プリンタで印刷したり、手で書いたり、ですね。
小林:
この二代目は、どのくらい使ってるんですか?
河内:
これで半年くらいですかね。前のやつはちょっと薄かったので、やめちゃったんですよ。資料が増えてきて入らなくなって…。
河内真菜:
ここにありますよ、初代の。私がもらいました。

河内真菜さん
河内:
みんなに普及させようとして、譲りました(笑)。
鄭:
他人にもA4手帳を使いなさい、ってことですね?
初代も、形は同じような感じですね。確かにこのサイズはリーフの種類も少なそうですから、自分で作らざるを得ないですよね。
河内:
すごいシンプルなリーフとセットであれば、絶対人気が出ると思うんですけどね。
河内真菜:
河内は、すっごいメモ魔なんですよ。
河内:
いやいや、メモ魔というか、忘れちゃうから書いてるだけなんだけど。とにかくA4に書いたら安心というか。
小林:
ちょっとしたメモもこの中に?
河内:
そうですね。全部この中にありますね。今進んでいる仕事の忘れちゃいけないことも。
小林:
じゃあ、もし河内さんからこれを奪ったら?
河内:
いやいやもうコンピューターなくなるよりショックでしょう。
一同:
(笑)
小林:
手帳の横のシャープペンも、ちょっと変わってますね。
河内:
ああこれですね。これもすごいお気に入りなんですけど。
小林:
4本もありますけど…?
河内:
すぐ、どこかへいってしまうから…。書いて、どっか置きっぱなしだと、いつの間にか誰かが使っていたりしてすぐになくなるので、手元にたくさん置いているんです。僕は筆圧が高いので、芯の太さは0.9mmで、消しゴムもけっこう太め。形はああまりいただけないんですけど、鉛筆感覚で使うにはいいもんです。
小林:
シャーペンの裏の消しゴムって、たいていはほとんど使わないですよね。
河内:
細いやつだとあんまり使わないんだけど、これくらい太いとけっこう使いますね。
小林:
白いシールが貼ってありますが?
河内:
買ってきてもすぐなくなるんで、僕のだっていう印を。
小林:
じゃあ、皆さんで同じのを使っていらっしゃるんですか?
河内:
そうですね。同じだから、どんどん持っていかれます。
鄭:
手帳と同じで、シャープペンも普及させているんですね(笑)。
河内:
ええ。これ1個350円くらいなんで、無くしてもそんなにショックじゃない、というのもいい点です。
小林:
手帳とシャープペンは、いつも持ち歩くセットですね。
河内:
そうです。モノに執着がない僕が、いつも持っている数少ないモノです。
モノには執着がない●
河内:
モノには本当に執着がないんですよ。ですので、昔は、ウエストポーチくらいちっちゃい鞄で、モノをほとんどもたずに一ヶ月旅行に行ったりしていました。旅先では、いらなくなったものは捨てて必要なものは現地調達するという感じだったんです。
普段の生活では、なんだかんだ言っても家はモノで埋まってきますね。で、ふとした時に、「なんか…、これ要らないな」と思って、捨て始めたんですよ。仕事から帰ってきて、燃えるゴミの袋にいらないものを少しずつ選別しながら捨てていって、半年くらい経ったら部屋にモノがなくなったんですよ。本もほとんど捨てちゃって、机と布団が残って…。そのうち部屋の聚落壁をはがして捨てたりとか、ふすまを解体して捨てたりとか…。
小林:
壁をはがして捨てたんですか!それにフスマも?
河内:
そうなんです。本当はやっちゃいけないんでしょうけど(笑)。大家さんは「綺麗にしてくれてありがとう」って言ってました。
結局、最後に残ったのは、それほど大切にしていなかったけど、必要だからそこにある、というようなものだったんですよ。
小林:
贅沢品とかは残らなかったと?
河内:
そうですね。今もそれなりにモノはあるんですけど、特にこれというものはなくて。昔から、あんまり物欲がなかったんです。
鄭:
モノを持たない理由はなんですか?
河内:
僕の子供の頃は、まだ「ファミコン持ってる派」と「持ってない派」に分かれていたんですよね。僕は「持ってない派」だったんで、遊び道具はとりあえずなんでも身の回りの物で作っていた。それで、モノ自体にあんまり価値を見出せなくなって物欲がなくなったんじゃないですかね。
インスタレーション●
小林:
河内さんは、インスタレーションのプロジェクトもたくさん手がけていらっしゃいますね。
河内:
ええ。以前、物を使わないで空間を作ることができないかな、って考えたのがきっかけでした。物欲がないっていうのと関係があるかもしれませんね…。
建築はすごく巨大なオブジェクトだし、物からは離れられない。だから建築家は、目指す空間をつくり出すために「物質」を使うわけです。でも、僕としては、そうでない方法もあるんじゃないかと思いました。例えば、なにか大きなオブジェクトがあった場合、そのオブジェクトによって周りの空気が変化するとか、そういうところが面白いのかなと思っています。そうするとどうやってその空気の質感を変えていくのかっていう話になります。究極的に、物を使わずに空気が変われば、ベストなんですよ。その一番極端な形として光で空間をつくり出すということを、インスタレーションとしていろいろやってるんです。
そのひとつが「amplified」で、それは、ステージ上で光とダンスや映像なんかがコラボレートするメディアパフォーマンスでした。僕がその時に考えていたのは、ステージってやっぱり見る箇所が限定されていて、その範囲の演出っていう形になってくるんだけど、光が部屋全体の輪郭を切り取っていくと、空間の大きさが把握できるじゃないですか。客席も含めた相対関係が見えてくる。それが、ゆっくり回転したりとか、平行移動したりしてパフォーマンスとからんでいくんです。
小林:
光が、走査するレーザーみたいですね。

インスタレーション「amplified」
photo:Kochi Architect's studio
鄭:
それでスキャンっていう言葉を使っているんですね。
河内:
そうですね。非常にレーザーっぽいけど、全然レーザーじゃない(笑)。エネルギーが99%箱の中で熱に変わっているんです。すっごい効率の悪い機械なんですよ。だからチューンナップしたい。ミラーとかレンズとかで、光をコントロールする技術がもっとあれば、電力も少なくできると思うんですけど。
鄭:
そっか。きちっと光の強度が出る光源がこの箱の中に入ってるわけですね。
河内:
そうです。最初の試作品を木で作った時には燃えましたからね。
一同:
(笑)
小林:
今のものは、何で出来ているんですか?
河内:
二代目はもう全部アルミに変えました。
この細い光が、インテリア全体の1%くらいの部分を切り取ってるというか、見せるようにしてる状態です。そこまで視覚が制限されると逆に見るっていうより“なぞる”みたいな触覚に近い感覚で空間を把握できる。そういう感じに変わっていくんですね。「amplified」はホールの中でやってるんですけど、例えば木造の小屋組が複雑な空間とか、そういうとこでやると面白いですよね。
鄭:
そうですね。複雑な形をしているところだと、どういう風に照射されるかも予想がつかなかったりしますもんね。
河内:
「perticle air」は、「amplified」のラインがどんどん増えてくバージョンです。まだシミュレーションの段階なんですけど。これは将来的に実現したい。

perticle air
photo:Kouchi Architect's studio



+813
photo:Akira Miyamoto
(LUFTZUG)
小林:
光の効果で、空間が変わりますね。
河内:
そうですね。特に意味はなんですけど、こういう「空気感」っていいなと思っています。雨の音とか森の中で風が吹いて葉が鳴った音のように、1個1個の要素がすごく高い密度になって全体を飽和していくと、ある「空気感」というのはできるじゃないですか。そういう単純な「空気感」の作り方に似ています。
小林:
この「+813」は?
河内:
これは、最近横浜でやった、映像を使ったインスタレーションです。5×12×30mの、シンプルな箱みたいなフラットスラブの空間なんです。倉庫内の写真を加工した絵を、倉庫内にプロジェクションしていくんです。既存の空間の風景を映像的に編集して、また空間に戻す、っていうことをやっています。「白い箱に新しく絵を描く」みたいなことをいつもはやっているんだけど、今回は、インテリア自体を光で編集していくことで空間が出来ないかな、と…。
普段見ている素の空間と、そこの写真をちょっと加工した映像が被さった時のリアリティとの関係が出てくると、もっとリノベーションみたいなものに近付いていくんです。
光の作品をつくっていると、「場所」自体を素材にしていく方が面白いなって思います。今後はそういう感じでインスタレーションをやっていきたいと思っています。
鄭:
インスタレーションをやる中で、それが実際の建築にフィードバックされているようなことはありますか?
河内:
うーん、どうでしょうか…。僕にとっては、その二つはそんなに差はないんです。寿命が長い短いっていう違いはあるけど、どちらも同じ「空間」の話だし。
インスタレーションの場合は、実用では全く役に立たないですよね。そこに良さがあって、実用の役には立たないんだけれども、新しい価値観を発見できるものっていうのが面白い。建築の場合は宿命的に、住むなり雨をしのぐなり、目的がある。けれど、今どきの人は、それプラス何かを求める時に、すごく無駄な部分、役に立たない部分を考えるんだということを、最近はよく思います。
斜めに生えたような住宅「Y atelier」●
河内:
いま、外形を操作することで外側の空間との関わり方を変えていけるんじゃないか、というようなことを考えています。
例えば、イスは人が座るもので、“外側”に対して関係を求めるオブジェクトといえます。建築は、内部の空間を確保するものだから、“内側”に対して関係性をつくっていくオブジェクトっていう風に考えられます。イスの様な、外側の関係に対して何か働きかけていくような建築があるのかなというところに興味があるんです。
外形自体に可能性があるな、というのは今考えているところです。「Y atelier」には、屋上があるんですけど、田んぼが広がってるこの風景に屋上を横にスライドさせて、タイタニックの船の先みたいにランドスケープを屋上に取り込むような感じです。
鄭:
「Y atelier」は単純に箱が斜めにひしゃげたような形ですね。僕は、形がワンアクションで決定されているっていうのは好きです。



Y atelier
photo:Daichi Ano
河内:
なかなかありえないですよね。お施主さんがおもしろい人なんです。要望としては、屋上がほしい、お風呂から星が見たい、広いアトリエ空間がほしいっていう3つだったんですね。棟を傾けると、その下は庇にもなるし、冬の太陽が斜め上に向いた外壁面に垂直に近い角度で当たって、その熱で雪を溶かすという、自然融雪システムにもなっているです。
一同:
あ、なるほど!
河内:
雪のメンテナンスのための形っていうもの、一つのコンセプトで。
小林:
ワンアクションの形で、全てがうまくいってるということですね。
河内:
うまくいってるように、いろいろ考えたんです。最初は漠然と「スライドさせたら気持ちいいんじゃないか」くらいの気持ちでやったんですけど、さすがにそれだけでやり通すのは、僕も気が引けて。中のプランニングから形がこういう風に決まりましたとかっていうアウトプットはけっこうあるじゃないですか。でも、外形だけみた時にどんな形があり得るか、外形のルールで何かが出来上がっていく、というのがいいんじゃないかと。
鄭:
インパクトありますよね。
河内:
これは最初の建築だったんで、とにかく「建てるぞ!!」みたいな欲求があって…。僕、感覚的に、ものが立ち上がる時には欲求があると思うんです。初めてだから、そういう建築力を純粋に表すものがよかった。
今の仕事は住宅が同時進行●
小林:
住宅が3つ、同時期に竣工するんですよね?
河内:
そうですね。ちょうど今、同じスケジュールで進んでますね。
鄭:
建築の仕事が増えるきっかけは何でしたか?
河内:
今のプロジェクトは、全部住宅のコンペで勝ったものなんです。コンペに参加して、お施主さんに選んでいただきました。
鄭:
立て続けに3つ勝ったんですか?
河内:
そうですね。なんかジンクスみたいなので、1つ勝つと3つ勝つみたいなのがあるらしいです。よく分かんないジンクスですけど(笑)。幸い、確率は悪くないですね。30人くらいの中から勝たないといけないんで、割とお施主さんにすり寄った提案をしていた時期もあるんですけど、最近はこっちの意向をバーンと出しています。お施主さんが選びさえすれば建つわけだから、気が合えばOKだし、合わなければ仕方がない、そのくらいのスタンスでいいかなと思っています。だからかな…、最近は勝率がめっきり下がっているんですけど(笑)。
小林:
まだコンペには参加し続けていらっしゃる?
河内:
面白そうなお施主さんだと、たまに出したりはしますね。
鄭:
「面白そうだな」って感じる基準はあるんですか?
河内:
なんでしょうね…。やっぱり、役に立たない物にすごく何かを期待している人ですね。性能とか、こういうものがほしいとか、そういう部分じゃなくて、「余白」みたいなものを許容してくれる人というか…。本当に生活するために必要な機能っていうのは、なんとか実現できるわけで、お施主さんがその「余白」の部分でフレキシブルに対応してくれる場合には、面白いものができますね。
河内さんの今後は…●
小林:
今後の河内さんの活動は?
河内:
そうですね…、スタイルを決めないっていうことでしょうか。あと、この先5年とか10年は、その時に「これは面白い!」と思ったものをやっていければいいなと思っています。一番理想なのは、第三者が「何を作るか分からないけど、この人に頼むと何か出てくるだろう」っていう期待感を持ってくれるようになればいいなと思ってます。
小林:
そういう意味では、ジャンルは特に問わないという姿勢ですか?
河内:
そうですね。ジャンルは問わないです。建築じゃなくてもいいと思ってます。今もインスタレーションをやったりして空間のことを考えることは多いので、その関係だとは思うんですけど。
小林:
河内さんは、一つの分野にずっといると精神衛生上よくないとかいうことはありますか?
河内:
いや、そんなことはないですけど。自分の価値観に合うクライアントとの出会いがあれば、ものづくりは成立していくわけですから。大事なのは、出会いがあってその結果が物として残っていくことですね。実作をきちんと出していって、そういうものに反応した人が声を掛けてくれるという、いいサイクルをつくっていければいいなと思っています。
形のない「光」を使って「空間(または空気感)」をつくり出す河内さん。非常に面白いアプローチで、何でもないような空間を変貌させてしまう点は、驚きでした。
有形の建築作品も、力強くユニークで、これまた驚きでした!
聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

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