生活普段議 
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第21号   川辺 直哉さん  「本当に必要なものを導き出したい」
今回は川辺直哉さんを訪ねました。
川辺さんのモノは「三色ボールペン」「シャープペン」「三角スケール」「TUMIのカバン」です。
川辺さんは、モノ選びにも設計にも同じ思想が存在している、と言います。何事もじっくりと最適解をみつける努力を欠かさない、という姿勢から、どんな建築が生まれているのでしょうか。
川辺 直哉(かわべ なおや)

1970年 神奈川県生まれ
1994年 東京理科大学工学部建築学科卒業
1996年 東京芸術大学大学院修士課程修了
1997-2000年 石田敏明建築設計事務所
2001年 川辺直哉建築設計事務所設立

川辺直哉建築設計事務所のURL www.kawabe-office.com/
今回のモノ
 
モノを増やしたくない川辺さんの「モノ」●
川辺:
僕は、モノを増やさないようにするにはどうするかを考えています。なるべく身軽でいたいんですよね。 そんなわけなので、モノといっても、普段常に身につけている3色ボールペンと三角スケール、シャープペン、それを入れるカバンくらいですかね。 なぜいつも持っているかというと、今は電車での移動時間が往復で3時間くらいあるので、その時間を有効に使うためです。
小林:
3時間ですか。長いですね。
川辺:
朝、その時間で何をするかを決めてから家を出ます。帰りも、同じように決めて事務所を出ます。「この時間だと混むだろうから、立ってできることをしよう」とか。
これだけのモノさえ持っていれば電車の中で仕事ができます。もし忘れたりするとソワソワしちゃいます。ノートパソコンとかは使いませんね。
小林:
ボールペンの3色はどう使い分けてるんですか。
川辺:
厳密な使い分けはないですけど…。スタディするときや文字を書くときで、色を変えますね。自分の中では色の使い分けは優先順位をつける意味が強いみたいです。
4色のペンも使ったことがありますけど、それだと多かった。2色は少ない。やっぱり赤、青、黒の3色。しかも、このボールペンでないとダメです。だから10本くらいストックしてます。

インクは赤、青、黒の3色
小林:
ゼブラ製…。
川辺:
持ったときに自分の頭と一緒に動いてくれるボールペンがコレだったんです。
これは最近あまり売っていなくて、店で見つけると買うようにしています。
小林:
「頭と一緒に動く」っていうのは?
川辺:
感触とか、大きさとか、芯をカチって出す動きとか、そういう感覚が体にインプットされていて、頭がそれとともに働くんです。その感覚が、このボールペンでないとだめなんです。いろいろ他のを試しても、結局コレに帰ってきますね。
いま進行中の仕事の資料は、事務所以外でも突然必要になることも多いので常にカバンの中に入れています。
鄭:
そうすると、すごい量になりませんか?
川辺:
なります。重たいです(笑)。でも、持っていれば安心する。
小林:
家で仕事をできる性格ですか。
川辺:
できます。でも、子供を寝かしてから、夜中に。
ある程度どこでも仕事ができるようにしておきたいんですね。ちょっと時間が空いたとき、コーヒーショップとかでも。だから頭の切り替えを早くできるように心がけてます。
そういう点からも、モノをあまり持たないことにしています。持つとしても、なるべく軽く。資料も、その時その時で必要なものをA4クリアホルダーに入れてカバンにつっこんでおくだけ。
なぜモノを減らしたいのかって考えると、やっぱり移動することが多いというのが理由でしょうね。
小林:
移動の中でも「通勤」が一番多いですか。
川辺:
そうですね。
でも単に長いからいいというわけではなくて、移動が1時間くらいだということが重要です。もしそれがなくなったとしたら…、生活のリズムがズレるでしょうね。家では父親、事務所では所長、その間を埋めるためにはちょうどいいコンセントレーションの時間なんです。その切り替えは激しいですが、それを楽しむようにしています。
小林:
「変身時間」みたいな?
川辺:
そんな感じです(笑)。
その時間で出たアイデアとかは、結構多いんですよ。
小林:
一人の1.5時間は貴重というわけですね。その間は集中できていると?
川辺:
そうです。周りに人はいっぱいいますが、誰にも話しかけられないし、担保された一人の時間です。
小林:
モノを増やさないと言われましたが、お子さんがいると必然的に増えませんか。
川辺:
おもちゃとか、遊具が増えますね。でも、それも増やしたくないので、吟味して買います。子供があれこれほしがっても“気合い”で買わない(笑)。
自分のモノも、納得しないとなかなか買いません(笑)。
小林:
ボールペン以外にも、いろいろ試してダメだったものってありますか。
川辺:
カバンですね。「量が入るし、デザインも気に入る。よし!」と買っても、使い続けなかったのとか、たくさんあります。没カバンの数は、たぶん2ケタいってるんじゃないかな…。
やっぱり自分にしっくりくる仕舞い方とかポケットの位置とか、ありますからね。あと、基準はやっぱり電車の中。カバンじゃなくてリュックも買いましたが、電車の中では意外と身動きがとれなかった。
それで、今はTUMIのカバンです。革製で重いんですけど、一番しっくりきます。重さに耐えられずやめたこともありましたけど、やっぱりこれに戻りましたね。


愛用のTUMI製鞄アップ。
使い込んであるのが伺える。


鞄の使い方を説明する川辺さん
小林:
ポケットがたくさんありますね。(実際に持って)あー、これは重いですね。
川辺:
でしょう。でも3年くらい使っています。さらに良いのは、なんといってもリペアできることです。タフに動けて、壊れたら修理に出せばいい。
鄭:
年季が入っていますね。
川辺:
現場にもこれを持って行っているので…。今、一番生活を共にしているかもしれませんね。下手すると家族より(笑)。
電車の中では、座れば膝の上で台にしたり、立っているときは画板みたいにしたり…。
鄭:
カバンは、服と違って毎日ほとんど同じものですよね。だからこそ、自分に合ったのをみつけるのは難しいですね。
川辺:
そうですね。これも、驚くほど軽かったらいいんですけどね。素材のサンプルを入れることもあるので、そうするともっと重くなるし、丈夫じゃなきゃだめ。このカバンは、必然的に淘汰された結果なんですね。
値段も結構したんですよ。でも、飽きない限り半永久的に使えるし、体の一部になるまで…。
鄭:
カバンは体の形になじんできますよね。
川辺:
そう。外出するときにコレをもっていないと不安です。
モノ選びと設計は通じている●
川辺:
あまり新しいモノにはすぐ手を出さない。「今まで使ってきた方法でできることが絶対あるはず」って考えます。なるべく手数は少なくして、バリエーションを増やす鍛錬をしたいです。
実は設計のときも同じことを考えています。
新しいものを探すよりも、今までのものをトコトン使おうとします。その中から何か新しいというより違う発見ができないか、とか考えます。「常に新しいものを探すんだ」っていう視点はあんまりない。自分たちが当たり前に使っている構造とかシステムのベストな使い方を、自分なりに探していこうと考えています。
鄭:
新しいテクニックや道具を追求するよりも…。
川辺:
たとえば、新しい技術が開発されたとき、それを取り込んでみようという前に、そのとき残していったものを本当にやり尽くしたのかというと、自分はそう思えない。そう思えない限りは、そこに手を出さない。興味が湧かないんです。自分がやってることが限界にきたときに、自然と他のものが必要になるはず。そういう思いで設計をしています。
小林:
川辺さんの過去の作品をみても、あまり強引なことはしていなくて、素直な印象があります。
川辺:
僕の建築を見て設計者をイメージすると、もっと歳が上の人を思い浮かべる人が多いかもしれませんね。少しズレているのかもしれません。
小林:
ズレている?
川辺:
僕らの世代だと、ある面で批判的だったり強く目を引く形だったりをしてもいいはずなのに、今はそういうものに興味が湧かないんです。そういうズレですね。
川辺さんの設計手法は「宝さがし」●
川辺:
集合住宅を設計するときに、間取りから考え出すと「部屋をどうつくるか」に終始しますが、そうではなくて「なにがあれば集合住宅になるか」を考えました。そうしたら、それは例えば、建物をつくる壁と水回りだったんです。だから、「それじゃ、それだけでつくってみよう」と思いました。壁は構造だし外壁だし、水回りは配置をいろいろと考えました。
つまり、壁がいくつかあって、水回りを島状に置いて、それで建物全体と住戸が両方できています。
「そぎ落とす」「いったんつくって削る」というより、「必要なものだけまず選んで、それだけで成り立つように並べる」という考え方です。

厚木の集合住宅A
photo:Sakaguchi Hiroyasu
小林:
問題を解決するために何かを付加するのではなくて、もう一度根本に戻って考えるタイプですね。
川辺:
そうなんです。結局そこなんですね。簡単に言うと「追究したい」ということ。使っているものも、できちゃっているものも…。なんでそうなっているのか、それをまず考えたくて。
以前、小さい敷地の住宅の仕事で「二世帯で住みたい。部屋は5つ、しかも6畳」という要望がありました。で、僕は「部屋を分けるために部屋をつくりたくないな」って考えました。
小林:
といいますと?
川辺:
「5部屋」からスタートしてはダメだったんです。「どうやって5部屋つくるか」ではなくて「結果的に5つの場所に分かれていればいいんじゃないか」って思って、やっぱり「この家を成り立たせるにはなにがあればいいのか」を考えました。それで「キッチン2つ」「お風呂は1つでいい」といった生活に必ず必要なものを挙げて整理していきました。そうして、最終的に階段の位置と床の高さの設定のしかたで決まりそうだ、ということにたどり着きました。おかげで、コストも抑えながら、生活の「余白」が残っているような空間に奥行きのある家ができました。

泉区の住宅
photo:Sakaguchi Hiroyasu
小林:
余白ですか。それは魅力的ですね。
川辺:
そういう「余白」がない家は辛いかなって思います。
集合住宅の仕事では「住宅の集合体」をつくりたくなかった。
小林:
普通は、部屋が集まって住戸、住戸が集まって住棟ができる、という考え方ですね。それとは違うんですね。
川辺:
違います。ですから、設計の時間はすごく必要なんです。端からは、ほとんど変わっていないスタディをひたすらしているように見えるらしいです。オーナーに見せても、下手すると1ヶ月前と変わっていないじゃないかって言われそうなくらい。
でも、すべてがピッタリくる最適解がどこかにあるので、それを探したいんです。
小林:
それは時間も労力もかかりそうですね…。
ピッタリきた、と感じる決め手というのは、どこにあるんでしょうか。
川辺:
それはわからないんです(笑)。
設計をする時は、まず「フィールド」をさがします。たとえば宝探しでも、まず大雑把にだいたいこのエリアを探そうって思う。それと同じです。そのためにどうするかっていうと、ここは動物的なんですけど、まず走ってみて境界にぶつかることを繰り返すんです。そうすると、だいたいの広さが確認できます。そうしたら、次に地図を書こうと思います。最後にたどり着かなければならない点を自分で決めます。
小林:
「走ってぶつかる」というのは、意識的に突飛な案を出して反応をみる、というようなことですか。
川辺:
そうです。それを繰り返して振幅をどんどん小さくしていきます。
小林:
そういうやり方は、パワーが必要ですね。そりゃ、電車の中の時間も使いますよね。
川辺:
思考がとぎれないんです。電車でも家でも、常に考えています。
でも、完成した建築は、あっさりしている。だから、見ると簡単に設計していそうですけど、そう見えるものほどつくりあげるのは大変なんです。
施主からの要求をできるだけ“簡単”に解く、というのを大切にしています。
あと、施主が思い描いているイメージめがけて“案というボール”を投げても、その時は満足してくれるでしょうけど、すぐにつまらなくなると思います。少し先にボールを投げられるか、そこが重要。あまり遠いと、今度は見失ってしまいます…。その加減が難しいです。
いままでの集合住宅の結果を見ると、うまいところにボールを投げられたと思います。さらに、住んだ人がボールを持って先に行ってくれたな、と感じることもありました。それが自分が投げた方向だとうれしい。
そうするためには、やっぱり一度必要なものをバラバラにしないとできないんです。つまり、例えば60平米の住戸を12戸って言われたら12個の浴室と12個のトイレと…、というふうに考えないとできない。そうしないと、何かが見えてくるようなことはないと思います。
小林:
集合住宅だと住み手がみえませんよね。施主も住み手ではない。施主から不安に思われたことはありますか。
川辺:
それは、あります。だいたい不安に思われます。
例えば「これ何の部屋?」とか聞かれたり。今まで見てきたものと違うものが提案されたときに、失敗したらどうしようって頭をよぎるみたいです。そこは「大丈夫ですから」って言って、うまく安心させてあげないと(笑)。

上中里の集合住宅
photo:Sakaguchi Hiroyasu
小林:
信頼してもらうしかないですね。賃貸の場合は空き住戸がなくなるまでドキドキでしょう。
川辺:
ドキドキですよ。でも、今のところ長く空いたところはないです。
賃貸の集合住宅だからこそ、他にはない空間に住みたい、っていう人は多いみたいですね。あまり色々なことを考えずに住める期間ですからね(笑)。その意味では、賃貸だからできることも多いはずです。
小林:
集合住宅の設計が多いようですが、戸建ては?
川辺:
あります。けれど、今は集合住宅が多いです。でも基本的な考え方は、どのプロジェクトでも変わりません。
小林:
言ってみれば「玄人好み」のつくり方かもしれませんね。激しさはないけど、誰もが感じる「上手くいっている感」があるという…。
川辺:
そうですかね。確かに、建物の中に入った人は、建築をあまり意識しないみたいです。「外の緑が濃いね」とか「風が抜けるね」とか話している。建物自体のココがいい、とかは、ほとんど言わないみたいです。そういうのを聞くと「ああ、上手くいったんだな」って思います。
施主との関係●
小林:
施主は誰かの紹介だったり…?
川辺:
そういう場合もありますが、あまり多くないですね。雑誌を見たという方もいます。年代でいうと、40〜50代の方が多いですね。
鄭:
それくらいの方というのは、自分の意見を持つ頃でしょうか。
川辺:
そうですね。若い人とは違い年配の方はいろいろな意味で落ち着いている方が多いですしね。だから提案が難しい面もあります。でも、納得してもらえると、理解は早いし上手く進むことが多いです。
確かに自分の作風は「地味」だと思います。ただ、デコラティブなものに興味がないだけで、そう考えているうちはそれでいいと思っています。
鄭:
設計手法のお話を聞く限りでは、デコラティブになりようもないですしね。
川辺:
ないです。
あと、その人に本当に必要な広さはどれくらいか、とかを探してあげたいなと思っています。新築する場合だと、いま持っているものを全部持ってくることを前提にはしません。モノの適正量を建築にアジャストすることが、その人が生活を切り替えるきっかけにもなると思いますので。
鄭:
住まい方のモデルを提案したりはしますか。
川辺:
設計中は考えないですね。
完成した建物の中では、皆さんまず空間をどう使うか悩むことが多いようです、拒絶ではなく。そういうふうに考えさせられたことはいいことだと思いますが、考えさせようとして設計しているわけではありません。
Mのダウジング●
川辺:
僕は、言ってしまえば「マゾっ気」がある性格なんです。
小林:
「もっと、もっと」と?
川辺:
イジメないとだめ(笑)。住宅の設計もそう。「その壁本当にそこでいいのか?」って突き詰める。そうすると、「いや、そうでもないですよ」って壁が言いながら、少しずつ小さくなって、最後はなくなったりして…(笑)。そうするためには、自分の頭の中を淘汰する時間が必要です。でも設計期間は限られています。なら、時間はつくるしかない。すると、電車の中の話になるわけです。
あと、いくつかのプロジェクトを同時進行で考えるようにしています。常に脳の中を動かしていたいです。
鄭:
毎日の生活がトレーニングですね。
川辺:
そう思うと、楽しいです。
鄭:
全体的に、川辺さんには自分を状況に対応させていく意図がありますね。状況を自分に対応させるのではなくて。
川辺:
状況をなるべく敏感にとらえて、うまく活かしたいんです。与えられた条件でできることをまず全部出してみて、既にあるものでできることがないかと考えます。
小林:
不便を単に便利にするのではなく、不便を活用してなにができるか…。
川辺:
はい。不便を排除するのではなく、不便でないものに変化させたい。マイナスをマイナスしてプラスにしたい。最初から何かをプラスすることは、あまりしたくないです。ある意味、欲張りなのかもしれませんね。
鄭:
それを住み手にも期待しますか。
川辺:
いえ、興味があるのはつくり方です。どういう空間をつくるかよりは、どうつくるかをすごく考えます。
小林:
まるで暗闇で何かを探すような…。
川辺:
あれですよ、えーと…、ダウジング。ダウジングみたいでしょ(笑)。
はじめは「あの辺かなー」って決めて、範囲が狭まってきたら掘ってみる。違ったらまた探して掘る。たまに犬を使ったりして(笑)。
でも、「ここでやめる」っていうのを決めるのは自分のカンです。
小林:
それはどういう決め手で?
川辺:
つくり方に余白がなくなる瞬間があるんです。それ以上動かなくなる、というのかな。でも、その時には、逆に暮らし方の余白は残っているんです。
じゃあ、その瞬間はどこかというと、よくわからないんです。スタッフに聞かれても、説明できない。ひたすらやった結果だ、としか言いようがないです。
小林:
すごく繊細なライン上を進んでいるような感じですね。
鄭:
ご自分でミニマリストだという自覚はありますか。
川辺:
つくり方では、あります。でも、表現のミニマリストには興味がありません。
小林:
あと、造形に曲線は使っていませんね。
川辺:
曲線が必要だと思ったことがないからでしょう。曲線が要るのか、どんな曲線が必要なのか、それを決められないならそれは必要ではないんだろう、って思います。根拠が見つからないとき、それは排除されます。
小林:
「選べないときは、どれも欲しくないんだろう」って?
川辺:
それはあります!買い物もすごく時間がかかります。
設計でも「寝かし」ますね。バーッと書いて、3日後位にまた見る、とか。継続して見ていると、欠点とかもわからなくなります。だから「寝かし」はよくやりますね。
しばらくはこんなスタイルでやっていると思いますよ。
建築家を志したのは…●
小林:
建築をやりたいと思ったのは、いつごろからですか。
川辺:
それが、憶えていないんですよね。明確なきっかけはなかったと思います。
中学生の頃は服飾をやりたかったんです。その次には、車のデザインをしたいと思いました。でも、どこかで見切りを付けたんですね。でも、その延長には多分「身の回りの空間をデザインしたい」というインテリアへの気持ちがあったと思います。
小林:
デザインしたい、ってことでは一貫していますね。
川辺:
なんとなく「ものをつくりたい」って思っていました。ただ、絵が得意だったわけではなかったので、考えてつくるのがいいと思いました。小学校の頃から、何かをまとめてノートを先生に出すこととかは楽しみでした。夏の課題なんかはみんなより多く出そうとか、知らないことを見つけてやろうって思ったりしていました。
そんな中で、いつしか「建築は感性でなくて努力でいけるんじゃないか」って思うようになりました。なんとなくなんですけど。
で、やってみたら面白かったので、じゃあ今はコレがんばろう、って感じで…。
小林:
その無意識さは、一つの才能かもしれませんね。
将来にむけての姿勢●
小林:
将来のビジョンは?
川辺:
うーん、特にないんですよね。こんな建築家になりたい、とかいうのは、あまりない。どんなふうになるのかを楽しみにしていられるようにしたいです。どんな状況にもなる可能性はあるけど、どうなってもプラスにしたい。正直、その時にならないと考えられないですし。
小林:
自分で自分に期待しているみたいですね。
川辺:
見えない部分には期待しています。今のキャパシティには限界を感じることもありますけど、その先は見えない。そういうところは「何が起きるんだろう」っていつも待っている。起きなかったら、「そういう時期なんだな」って(笑)。
鄭:
「寝かし」ている感じですね。
川辺:
そういう時は多分、「今は待てよ」ってことだろうと思います。仕事がちょっと空いたときには、今は仕事以外のことを考えろっていうことなんだなって思いますし。
小林:
その思考回路はすごい。
川辺:
全部、なにかの意図があってそうなっているからいいんだって思っちゃいます。「世の中うまくできているんだな」って(笑)。
鄭:
自分の問題意識が高まっている時には、それに類することが近づいてきますよね。
川辺:
思い続けて念じることは大事かもしれない。
今の状況を、将来のことも含め、それはそれでエンジョイしていると思います。それはいいことだと思っています。
鄭:
それは次に繋がる原動力ですね。
建築は楽しんでやらないと、お客さんに責任を果たしていないんだって思いますね。
小林:
ポジティブであるってことかな。そうすると上手く物事が転がったり…。川辺さんは本当にポジティブですね。
川辺:
転がりにくい所には、たぶん傾斜が少ない。だから、ちょっと向きを変えたら転がり出すことがあると思います。自分の意志でどうにもならないこともあります。それをどう受け入れるかによって、楽しめるか楽しめないかが決まるかもしれません。そのまま受け入れたら、結構いい方向にいくこともあります。
わからないことは、すべて見えないものの力のせいにする(笑)。だから、なんとなくポジティブでいられるのかな。
実は、独立する前にはこんなふうに思いませんでした。誰にでも、自分で処理しなきゃいけなくなるときがあります。その時に、自分が今まで開けていなかった扉を押し開けないといけなくなる。一度それを開けると、物事がうまく進んだりするものです。抽象的ですがそういう経験がとっても重要なことだと思っています。
川辺さんのシンプルな設計の裏には、膨大な試行錯誤の連続があったのです。時間をつくり出しモノを厳選して、最適解を導き出す姿勢は、川辺さんならではの創造の姿勢なのでした。
聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影
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