「映像で残したいニッポンの家」
おうちMovie
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生活普段議 
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第38号   春日部 幹 さん  「時間の設計もするべきです」
 自分で淹れたのに、まるで他の誰かが淹れてくれたようなコーヒー。そんな魔法のようなコーヒーに必要な今回の「モノ」は、ひと昔前の懐かしい一品でした。
空間と同時に時間も操る春日部幹建築設計事務所の春日部さんが、新潟で制作した「分校」とは…。

春日部 幹 (かすかべ かん)

東京都出身
1994年 東京理科大学 工学部 建築学科 卒業
1995年 上野・藤井建築研究所
1998年 PHスタジオ
2001年 春日部 幹建築設計事務所設立 
2004年 team2DK

春日部 幹建築設計事務所のホームページ
http://kasta.net/

今回のモノ
 
●タイマーとコーヒーメーカー



春日部:
「モノ」ですよね。何にしようかと思ったんですけど、これなんですよ。このね、タイマー。
これはね、僕が高1か、中3くらいに買ったんですよ。要するに当時はエアチェックってやつですよ。
小林:
なつかしい〜。
春日部:
ラジオを録音するのにラジカセを持ってたんだけど、タイマー機能が欲しくなったので別で買ったんです。もう何を録音したか覚えてないんだけど、NHKとかtokyoFMとか録音してたんでしょうね。
小林:
これは古き良きソニーデザインというか。多分春日部さんも僕も同じ頃のデザインを愛していたんじゃないかと思うんですけど、今はこういう角いデザインが少ないですよね。
春日部:
そうですね。今見ても悪いデサインじゃないですよね。でも今はもうエアチェックとか当然しないから、ずーっと使ってなかったんですよ。
小林:
もったいない。
春日部:
それを最近、また復活させて使おうと思って。
僕は端的に朝が弱くて(笑)起きれないんですよね。目覚まし時計を2つとケータイのアラームもかけるんですけど、鳴っても消しちゃって、また寝たりするんですよ。そこで、気持ちよく目覚めるための道具としてこのタイマーとコーヒーメーカーを使うんです。前の晩にコーヒー豆をいれて、お水もいれて、スイッチいれて、タイマーに繋げて起きる時間の10分くらい前にセットしておくんです。そうすると目をさますとコーヒーができていると。タイマーのコンセントは二つあるので、もう一方はスポットライトの照明に繋いであって、光も来ると。そうやって最近使っていてね、嬉しいんですよ。
小林:
タイマーとコーヒーメーカーはペアなんですね。



春日部:
そうです。今度はね、スポットライトと共にねトースター。あれも接続しようと思ってて。あれだとガチャッとやっておけば朝パンが焼けてぽーんと出てくるはずなんですよね。そしたら朝コーヒーもできて、パンも焼けて出てくる。ちょっといい匂いが漂って。快適な朝を迎えられるんじゃないかと。
小林:
それはいいですね!
春日部:
で、今日のモノはこれにしようと思って。
小林:
こういう使い方ができるタイマーなんて今はあまり見かけないですよね。
春日部:
そうなんですよ。エアチェック以外にも使い道があるんじゃないかと思って。電気製品はなんでもスイッチが入る訳だから。とりあえずコーヒーとパンって匂いがするし、照明は光が出るし。目覚ましは音だけじゃないだろうなと思ってて。
小林:
なるほどー。五感で起きるって感じですか。
春日部:
正確に言うと起きた後のごほうびを用意しているというか。目覚まし時計って止めれば終わり。でもコーヒーができていれば飲むじゃないですか。パンも冷めちゃうから絶対起きるし。
小林:
早く起きなきゃっていう感じになる
春日部:
そうそう。しかも起きてから、自分で作るのめんどくさいな〜、みたいなのは無いから。不思議なことに前の晩にセットすることはたいして苦じゃないんですよね。お水入れるだけだし。ところが次の日起きると出来上がってるっていうのは、本当は前の夜の僕が作っているのに、誰か他の人が入れてくれたみたいな気がするんですよ。
小林:
確かに。
●時間デザイン
春日部:
同じコーヒーを同じ場所で飲んでるんだけど、時間の仕掛けをちょっと変えるだけで、全然雰囲気が変わるんですよ。
小林:
受け取り方が変わると。
春日部:
受け取り方が変わっちゃうんですよね。むりやり建築の方に話をもっていくってわけじゃないけど、建築の設計は空間の話が多いじゃないですか。光がどう差し込んできたらかっこいいかとか形がどうとかあるんだけど、空間と同時に時間の設計もしなきゃいけないなと。コーヒーの話はそれのすごく身近な例のような気がして。
生活習慣で早起きしましょうって言っても、なかなか起きられない。でも器械を一つ入れると、生活のスケジュールをデザインしてるような気持ちになるんですよね。それが面白い。しかも1分1秒が貴重な朝の時間もちょっと節約されている。こう動いてこう回って、ここではこうしなきゃいけない、みたいな時間と動線のデザインなんです。そう思うと楽しいんですよね。
小林:
一番効率のいいデザインは何か。楽しいデザインは何か。
春日部:
そうなんですよね、組み替え組み替えですよ。こっちを先にやったら、こっちは後回しでいいんじゃないかとか、これとこれは同時にできるんじゃないかと。
僕は2DKって事務所に所属しているんですけど、そこもとにかく忙しいんです。なるべく時間を節約しなきゃいけない状況で、その仕方を考えなきゃいけない毎日。歯磨きしながらメールチェックしたりとか。時間に追われているだけじゃつまんないんだけど、時間を有効に使うのと同時に、忙しさをいかに楽しさに変えるかが面白い。だから洗面所にPCがあって洗面所が楽しくなるんだったらそれはいいし、そういうのを考えられればいいと思います。実践しながら考えないと判んないですから、暮らしの中でケーススタディーをしているような感じですかね。
●春日部さんの所属する2DKという事務所
小林:
2DKっていうのは、どういう事務所ですか?



春日部:
僕はね、独立したあと、ネット上のハウスコンペにいっぱい参加してたんですけど、その中に一条さん(現2DKメンバー)と橋本さん(同)がいたんですよ。そしてたまたま一条さんの事務所にちょっと大きい仕事が来てたから、一緒にやろうかっていうことになって、それで2DKっていうのをつくることになったんです。
ネット上のハウスコンペでは、実際敷地に行ってお施主さんの質問を受ける機会があるんです。他の人とはそういう時にちょっと顔を合わすとか、ハウスコンペの掲示板で少しやりとりができるぐらいのものだったんですよ。
当時はみんな仕事もないし、当然雑誌に載ってる人なんていないから、みんな無名でお互いを知らないんですよね。でも、毎回目につくような案を出してる人はお互いに何となく名前を覚えたりしていて、そういう敷地での質問会などの機会に、「はじめまして」って出会ったりするんですよね。元々はそういう出会いですよ。年齢は近いんだけど学校も勤め先もばらばら、ほんとうにネット上で出会った感じ。その中で橋本さんと知り合って、一条さんと知り合って、2DKをつくったんですよ。
で、なんで2DKかっていうと・・・。
2DK公団住宅の51Cの間取りっていうのがあるんですよ。2DKTシャツまだあったっけ?(Tシャツを出してもらう)
この51Cの間取りを橋本さんが好きで、それをTシャツにしようってことになって、Tシャツ君っていう機械で自前で刷ってたんですよ。僕と橋本さん含め10人くらいかな、その頃ハウスコンペに出してる仲間内で。そんなTシャツを作っていたので、会社作ろうってなった時も、名前はチーム2DKでいいかって、会社名にしちゃったんですよね。
しかもこのTシャツはね、ネット上で売ってたんですよ。
小林:
売れました?
春日部:
結構売れたんですよ。ネット販売してたのは全部売れて、ここに残っているだけなんですよ。今はもう手作りはしていなくて、外注です。
この51Cの間取りはね、元東大教授の鈴木成文さんが設計したものだったんです。1951年に設計したから51Cっていうんですけど。
勝手に使ってたから、ちょっとまずいんじゃないかって話になって。
高城:
しかも会社名にもなって。
春日部:
2DKでマンションを作ったときにオープンハウスのお誘いをかねてお話ししておいたほうがいいということになって、これこれこういう事情でTシャツを作っているんですけどって鈴木先生に手紙を書いたんです。
そしたらすぐに丁重な返事が来ました。オープンハウスの日は用事でいらっしゃらなかったんですけど、その代わり、新大塚にある先生のお宅で月に1回学校の後輩関係など色んな人が来る集いがあるから、とそこに呼んでいただいたんです。そこでぼくらは、なぜこういうことを始めて、どういうものを作っているかというプレゼンをしたんですよ。それで先生にTシャツを一枚プレゼントして、その場で、ちょっとお酒も入ってましたけど、着せちゃいまして、写真も撮っちゃいまして、サインとかもしてもらって、そうすればもう大丈夫だろうと・・・。
小林:
「同意済み」みたいな。(一同爆笑)
春日部:
確かにこの間取りは良くできているんですよね。いわゆるnLDK批判っていうのがずーっとあります。もう今は自由な住まいがいいんだって。
でも決定的にnLDKを抜け出せたような住宅はまだないんですよね。あっても特殊なものになっちゃって。そういう特殊な家を設計するというのは一つの業績であるけれども、ほとんどの家は建築家が頑張って作ったものも含めて、悪い意味じゃなくてやっぱりnLDKの中に入っていると思うんですよね、だからnLDKっていうのを目の敵にするんじゃなくてもっと使っちゃえばいいと思うんですよ。
たった4文字程度で、住宅の空間要素を説明できちゃう。そこに空間構成の組み合わせ方は入っていないから、自由だし。ものすごくよくできた概念だと思うんですよ。橋本さんに「なぜこの51Cの部屋がそんなに面白いと思ったの」って聞いたところによると、大きく3つ部屋がある訳ですけど、「この3つの部屋が三角形上に微妙にずれている。それぞれの部屋から残りの2つの部屋が両方見える。そのずれが豊かな可能性を感じる」と。確かにそうだなーと思っています。
小林:
もし三角形じゃなければ全然違ってきていたんでしょうね。
春日部:
例えば前川國男の公団住宅のほうは結構かっちりしてるんですよね。建築家としてはその気分はよくわかるんだけど、実際に住むとなると、たぶん51Cの方が住みやすいんだろうなと。部屋の組み合わせにものすごく長いスタディーの時間がかけられていて、実態を反映しているんだろうと思うんですよね。
小林:
51Cの実物はある博物館に保存されていて、実際に中に入れるんですよね。あの時代にこれを発想したというのはすごいなと思いました。よく見るnLDKといえば、廊下で部屋が分断されて、各個室とリビング、みたいなものだったんですけど、51Cを見たときに凄い自由だなと思いました。
春日部:
確かに廊下を介してないんですよね、直接つながっている。
小林:
その辺が斬新というか、見直した感じがしたんですけど。
●「妻有(つまり)アートトリエンナーレ」ソリで分校をつくり出す
小林:
妻有の芸術祭に参加されていますね?
春日部:
正確には大地の芸術祭、越後妻有アートトリエンナーレといって、今年は3回目でした。第1回は2000年でその時はPHスタジオ(春日部さんが以前所属していたチーム)の一員として参加したんですよ。2003年の時と今年(2006年)は独立した後だったから個人です。
妻有は新潟県の十日町市というところなんですけど、新幹線も通ってないし、高速道路も通ってないし、冬になると4mくらい雪が積もる豪雪地なんですよ。おいしいお米がとれる所なんですけど、凄い過疎地なんですよ。そこに北川フラムさんが、地域の町おこしを芸術でしようと世界中から何百人もアーティスト連れてきて、とにかくアート作品を作る、というのが芸術祭なんです。地元の人と話し合って田んぼの中だったり、民家の中だったり、どんなところでもいいし、何作ってもいいんですよ。
おじいちゃんおばあちゃんが中心の地域に、いきなり外国の現代芸術のアーティストなんて来ると全然コミュニケーション取れないんだけど、それを2年3年かけてこつこつやっていくとなんか判り合ってきちゃったりもするんですよ。できあがるものもそれだけ試練をくぐり抜けてきているから面白いものが多いんですよ。
小林:
今年は何をお作りになったんですか?
photo:(C)kasukabe_kan


photo:(C)kasukabe_kan
春日部:
えっとね、ブランチ・プロジェクトという名前で、場所は山の中の集落です。日本海に抜ける峠道のちょうど途中の集落だったんですけど、今は国道ができたから寂れて、もう11世帯しかなくって、一番若い人でも60代で、おじいさんおばあさんしかいないんですよ。そこに昔、小学校の分校があったんです。今は廃校跡が更地になって校舎はないんですけど、僕はそこにもう一回分校を造ろうと思ったんです。
芸術の力で分校を造る、分校を造ることが逆に芸術になるんだという考え方で。分校は集落の中心にあって、コニュニケーションの核になっていたんですよね、昔は。そういう機能をもう一回よみがえらせたいなと。分校跡に人が集まれる場所を作りたいなと思いました。
これはね木造のアーチなんですよ、パーゴラみたいになっていて、下が一つの教室くらいの大きさなので、夏は野外の教室みたいになるんです。このアーチはパーツを組み合わせてできていて、ここは4mくらい雪が積もるところだから、冬の間はそれをみんなバラバラにするんですよ。
小林:
崩しちゃうんですか。
春日部:
そう、解体してしまっておくこともできるんです。
このアーチ をつくっているパーツの一個一個がね、実はソリになるんですよ。夏にはこれをひっくり返して組み合わせるとアーチになって一つの場所をつくる。冬は冬でソリになって自由に使える。夏と冬とでまったく在り方が違う。ソリにすればどこへでも移動可能なんですよ。冬の間に別の場所に移動して、次の夏また組み立てようとか。
小林:
移動分校みたいですね。
春日部:
移動サーカス。
小林:
滑らせて行けばいいっていうのがいいですね。「解体もの」って運搬が問題になるものでしょう。ソリだと自分で走って行けばいいわけですしね。

春日部:
実はね、正確に言うと元の校舎本体は200m離れた所に今もあるんですよ。建設会社の人が譲り受けて格納庫として使っている。木造2階建ての校舎ですけど、冬に雪の上を曳き屋して(滑らせて)移動させたんですよ。雪が降るからこそできるんですよね。
せっかく作っても豪雪で埋もれちゃうのは辛いじゃないですか。そうじゃなくて雪を利用して軽やかに移動できる感じがよくて、だからソリにしたんですよ。
photo:(C)kasukabe_kan


小林:
写真に子供達がいますけど。
春日部:
近くに分校の本校があって、そこの子供達がスクールバスに乗ってやってきて、この野外の教室で開校式をしたんです。1時間、僕が授業をさせてもらいました。
小林:
アーチの内側にくっついてるのは、ソリにしたときに人が乗る場所なんですか?
春日部:
主に人が座る用と、荷物を載せる用とあるんです。それらがくっついたまま天井にしちゃうわけですよ。一応だいたいこの近辺の絵地図になっています。プラネタリウムみたいに地図をひっくり返したようになっているんです。地形と集落とに見立ててあって、人の乗る椅子があるのは集落のあるところ。荷物を載せるのは山があるところ。川もあるんですよ。
小林:
面白いですね。組み立てるのはどれくらいかかったんですか?
photo:(C)kasukabe_kan
春日部:
組み上げるのはね、一日で組み立てましたね。70歳くらいの地元のおじいさんたち、総出でやったんですよ。楽しそうでしたよ。みなさん普段は農業されてるんだけど、仕事がね、速いの。当然こんなものを組んだ事はないはずなんだけど、重いものを持ち上げて、チームで動くのに慣れてるんですよね。ちょっとコツをつかむと、息もぴったり。すんごい速いですよ。
解体をする時、今度は東京から教え子の大学生を何人か連れて行ったんですよ。でね、結局ばらすのも一日で終わったんだけど、効率は全然違います。村の人達の方が遥かに早い。しかも、冬は建設現場にも行ったりしてるから、クレーンとかでかいトラックとかも動かせる訳。ユ二ックなんかも普通に動かせるんですよ。こういう地方って、ひとりひとりの能力が凄く高い。重機が動かせるっていうのは、一つの地域の資産て感じですよね。潜在能力ですよ。
小林:
こういうアート活動に対して、地域の方達の反応はいいんですか?
春日部:
芸術祭は3回目だから、芸術ってものに対して慣れたというか、免疫はできているみたいで、あんまり構えないみたいですね。芸術自体はよくわからないけど、造るものが明確だったら、自分なりに解釈して咀嚼するっていうかね、おばあさんとかも楽しんでましたよ。
ただね、豪雪地なので、雪に耐えられるものでないとなかなかつくれないんですよ。そうすると今回も多かったのが、インスタレーション的に芸術祭期間中だけっていう作品が多いんです。終わった後は壊しちゃう。何もなくなっちゃう。雪に耐えられる作品っていうと屋内に造るか、かなり建築的なものになるかどちらかなんですよ。
今回僕は北川さんからパーマネントのずっと残るやつをつくってくれって言われて、まぁ、建築家だから、建築っぽい空間とか場所は造りたいなとは思ったんだけど、その残り方と壊され方を考えた時に、どっちもどうかと思ったんです。つまり残るモノをつくるとしたら後々管理しなくちゃいけないし、使わないといけない。あるけど誰も使ってないんじゃどうしようもないし。
でも実際11世帯しかいない村に新たに建物はいらない訳ですよ。芸術祭の期間だけで皆に手伝ってもらってつくったのに、終われば壊しちゃう、あとは記憶に残るだけっていうのもちょっと嫌だなと思って。そのどちらでもない残し方として、冬はばらしてしまっとくだけじゃなくて、ソリだから使えるっていうように、時間的にも可変している、そういうものを造りたかったんですよね。
小林:
時間デザインですね。
春日部:
そうそう。可変っていうのが好きで。家もどんどん増築したり、たまに崩して小さくもしたり、変わっていくのがいいなっていう感覚がありますね。
小林:
この作品もアーチですから、ちょっとずつ増やして広げたりできますね。完全に固定物じゃなくて、仕組みをそこに残してきたっていうのが面白いと思うんですよね。
●建築とアートは時間のかけ方が違う
小林:
春日部さんは建築とアートの境目を、どう捉えていらっしゃるんですか。


春日部:
PHスタジオにいた時も美術館での展覧会や、講演会でよく聞かれました。あまり明確な答えはないけど、僕は建築とアートは違うって言いたい(笑)。一緒って言ってしまうとそこから発展がないですからね。一番違うのは、今日時間の話をしてるからというわけではないですけど、考える時間の長さが違う。アートの方が遥かに長い時間をかけて考えて短い時間で制作する、って僕には思えて。アートの種類によっては1枚の絵を何十年かけて描く人もいるから、そういう人にはまた違う時間が流れてるんでしょうけど。昔の300年かけて建てる建築もあるけど、現代建築は巨大でもだいたい3年もあれば建っちゃいますよね。僕らのやっているような住宅、集合住宅も、考えてる期間も工事期間もせいぜい1年、長くても3年くらいですよね。ところがアートの場合はもっとずっと長かったりするんですよね。ずーっと長い時間考えて、造る時は一気に造ったりするし。
そういう意味で長い時間を経験できるっていうのが僕にとってはアート。時間が長いっていうのは凄く何かが変わってくる。逆に言うとアートでそういう長い時間を味わってるから、建築の仕事の方で短い時間を要求されても、苦じゃないんですよ。
たとえば今マンションを造っていますけど、社長にすごく急かされるんですよ。ビジネスだから、1日でも早ければ1円でも多く儲かる訳だから金利がどうとか言われるんだけど、嫌じゃないの。一方でアートという“長いの”をやっているからバランスが取れてると思うんですよね。どっちかだけじゃつらいんだと思うんですよ。建築にはすんごいスピードで効率よくやるってことにある種の快感があって、一方アートにはずーっと長くやるってことに快感があるんですよね。
ものすごく加速度つけるところと、すごい引き延ばすところと両方の発想を使い分けるところはありますね。
小林:
時間のかけ方で出て来るアイデアが変わりますか。
春日部:
変わりますね。僕がよくやったアートがサイトスペシフィックな現場でってのが多いからかもしれないけど、アートの場合、現場に何回も行ったり、現場の写真を見ながらなにかが見えて来るのを待つっていう感じがあるんです。
閃ってほど頭は使わないんですけど「なんかこの場所にはこんなのが似合うんじゃないかな」とか。見えて来るのに時間がかかるけど、見えてくればそれでできちゃう、といったところがありますね。
一方で建築は敷地があって、これくらいの部屋が欲しい、これくらいの規模で広さでこれくらいの予算で建ててくださいとか、
その可能性を尽くすまでいっぱい書くじゃないですか。配置はどうとか3階建てがいいかとか平屋がいいとか、スケッチを何枚も何枚も書いて、何百案もある中から「はい、これ」といった感じで、いっぱい比較して総合点としてこれがいいですって選ぶ発想が近いんだけど。僕の場合、アートをやっている時は何十案も出す感じではない。時間はあるんだけど、ある種、あんまり考えない。ただじっと待ってる。来るのを待ってる。
建築も究極的にはなんか見えてくるものなんだとは思うんですけど、まだそこの域ではないですよね。それは時間をかけてないからなのか、アートにはない機能とか予算とかがあるからなのか判らないけど、見えてくるような建築ができればほんとはいいんでしょうね。ルイスカーンはとかは「ここにはこういうのが建つべきだ」って、言うんでしょうけど。
アートの場合は簡単じゃないけど小さいし、時間をかけさせてはもらえるし、見える事は見える。アーチがいいかな、とかね。
一人の作り手としては、その二つは明確に違うし、違う事を意識した方がいいかなと思ってますけどね。
小林:
純粋培養ができるって側面もアートにはありますからね。それじゃあ採算が取れないとか、日射がどうとか、言われないですもんね。
春日部:
今はアクセルを踏むか、ここは思いっきり踏むんだとか踏まないんだとか、毎日してます。この人(スタッフの高城さん)はたまについて来れなくなる。いきなりアクセル踏むなよ、とかいきなりブレーキかよ、とか。
高城:
大変なんですよ、ついて行くのが。
春日部:
ブランチ・プロジェクトとか2年間考えて、よし、決まったと。現場行ったら2年間ずっと考えてたのに、急に作り出すから、その変化が激しいんですよね。
●続けていくためには最短距離じゃない方がいい場合もある
小林:
春日部さんは、几帳面な方ですか?
春日部:
几帳面かなぁ。どうだろう。 物事を整理してうまくいく事に快感を覚える人とそうじゃない人といると思うんですよ。僕は整理して最小限に抑えるというよりも、話の筋がつながっていくというのが嬉しいかもしれない。
寄り道しても回り道してもいいけど、ずっと繋がっていくのがいいですね。最短距離を見つけるってことじゃなくて、あっち行ったりこっち行ったりしながらも、それぞれに繋がりがあって、それが別に論理的じゃなくても因果関係がなくてもいいんですよ。例えば偶然おじいさんに出会って話を聞いたからこうこうなんですとか、そんなんでもお話として繋がっていって最後にたどり着ければいいんですよ。
例えばこのブランチ・プロジェクトは2案目なんですけど、1案目は全然違うものがあったんですよ。いろいろ事情があってできなかったんですけど。振り返った時に、まず1案目があって、こういう案だったんだけど、こうこういう事情でだめになって、でもそれがきっかけになって今のものができた。そういう寄り道も含めて思い出して、完結してるなって思えればそれでいいね。最初から思いついていればもっと早くできたのに、とかは思わない。寄り道があった方が楽しいじゃないですか。

小林:
結果すべてがうまく繋がっていって、凝縮されていればいいと。
春日部:
最短距離ってのは2点を結んでいるだけだからその先はないんですよね。延長上はあるけど、違うところに寄ったらもう最短距離じゃないんだから。寄り道だったらどこでも行けるじゃないですか。ブランチ・プロジェクトも、芸術祭が終わってもこれ自体は終わりじゃないから、今後はどうやって使っていこうかとか考える事も寄り道と言えると思うんです。という事は、続けて行く為には最短距離じゃない方がいい場合もありますよね。マラソンじゃないけど、ながーく走れると。短距離だと全力だからもうそこに着いたときには息があがってもう走れないとか。
時々寄り道しながら時々加速したりして。今は仕事をやっていく上で、そのスピード感が一番楽しいかな。



時間は普遍で平等だと思っていましたが、春日部さんは1日を24時間以上に延ばす方法をたくさん知っているような気がします。ちなみに今はタイマーに繋がったトースターが、毎朝パンを焼いてくれているそうです。
<おまけ>
春日部さんが昔読んだ絵本のお話をしてくださいました。面白いお話でしたのでここでご紹介します。
「ものぐさトミー」
魔術師春日部さんの原点が見えるかも。。。主人公の名前は「トミー・ナマケンボ」!


聞き手:小林、浅野(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/
クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影
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