「映像で残したいニッポンの家」
おうちMovie
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生活普段議 
www.cabbage-net.com/seikatsu/
第35号   上條 淳子さん  「コンセプトは『柔らかさ』」
今回はジラフ建築設計事務所の上條淳子さんを訪ねました。お話を伺っていると、次から次へとモノが出てきました!
とっておきのものから普段使うもの、役に立たないものまで、モノのオンパレードです。
 
上條 淳子(かみじょう じゅんこ)

埼玉県出身
1988年 埼玉県立浦和第一女子高校卒業 / 在学時はボート部所属
1992年 東京芸術大学卒業 / 在学中に平山郁夫奨学金 受賞
1994年 東京芸術大学大学院美術研究科修了
株式会社團紀彦建築設計事務所 勤務
1997年 ジラフ建築設計事務所一級建築士事務所 設立

ジラフ建築設計事務所のホームページ
http://www001.upp.so-net.ne.jp/giraffe/
今回のモノ
 
個人的由緒のあるモノ●
上條:
モノは、すごく好きなんです。
小林:
ざっと見回しただけでも…、いろいろありますね。
上條:
特にコレクターじゃないんですけど、割とモノには弱くって、心が奪われてしまいます。だけどすごくセーブして、あまり買わないようにしています。父は、会社に行く時も、鉛筆と消しゴムしか鞄に入っていないくらいモノをもたなくてシンプルで、でも全然困った風ではないんです。それくらいモノに執着しなければ楽なんじゃないかと思って、憧れた時期がありましたね。どれだけモノが捨てられるかとか、どれだけモノを買わずにいけるかって挑戦していたこともあります。でも、やっぱり無理だなって思いましたけど。
モノには情がすごくあります。失くしたモノとか、何度も見たけど結局買わなかったモノとか、ずっと心に引っかかってます。
私がモノを選ぶ価値観は、高価なモノではなくて、自分の感性に合ったモノだと思うんです。大量生産品よりは1品物とかオリジナルのモノが多いと思います。
小林:
感性というのは?
上條:
よく分からないです。でも、友達に私が持っているモノを見せると「あなたらしいね」ってよく言われます。自分では共通点を作ろうと思っているわけでもないし、テーマに沿って集めているわけではないんですけど。
例えばこれは、自分なりの由緒があるものです。お茶の時に使う出し袱紗です。お濃茶を飲む時に、四つに折って、お茶碗の下にあてて使うものですね。
小林:
きれいだなー。


上條:
人間には、27歳3ヶ月目くらいで生まれて一万日目がくるんですよ。私にもその時がきたので、記念になるモノがほしいなと思って、結婚する前に今の夫にねだって買ってもらいました。
小林:
これは絹ですか?
上條:
そうですね。それぞれ名前が付いてるんですよ。「秋草霞紋」とか。
もともとこういう生地や古い模様とかが好きで、袱紗に限らず、着物とか帯とか見るのも好きですね。なかなか普段見ないような色味だったり、組み合わせがかなり斬新だったり、柄がおもしろかったりするので、飽きることがないですね。
小林:
これはお茶に行く時に持って行かれるんですか?
上條:
普段は違うものを持って行きます。
小林:
じゃあ、これはとっておきなんですね?
上條:
そうですね。普段は出さずにしまっています。
個人的に由緒のあるものは、不特定多数の人に価値があるモノや高価なモノよりも大事だなと思って大切にしています。
手作りのモノ1●
上條:
私、なんでも、なるべく作ってみようと思うタイプなんです。これは、落款。ハンコですね。


小林:
石ですか?
上條:
そうです。昔の字とかを参考にしながらデザインして、彫っていきます。これがけっこうおもしろくて、夢中になって彫っていると、夫が「大丈夫?人生楽しい?」って心配してました。(笑)
小林:
これ1本彫るのにどのくらい時間がかかるんですか?
上條:
図案にもよりますけど、彫るのは2、3時間くらいですかね。その前にデザインを起こすための時間がかかります。
小林:
芋版みたいに簡単にはいかないですもんね。
上條:
はい。かすれて侘(わ)びた感じにするために、図柄の一部をわざと欠けさせたりすることもあるんですけど、これは現代的なハンコみたいに使えたらいいなと思ったので、ベタっとした感じにしています。
小林:
おもしろいですね。自分で作っちゃうタイプなんですね。
上條:
そうですね。作るのは好きですね。ただ、やっぱり「餅は餅屋」で専門の人に頼んだ方がいいときもあるっていうことにも気付いたんですけど。
小林:
これはどういう時に使うんですか?
上條:
手紙を書いた時とか、それこそ書を書いた時とか…。
あ、書もありますよ。
小林:
すごいですね。
上條:
頑張りました。(笑)私肉筆がすごく好きなんですよ。肉筆はその人が存在している生々しさが感じられるんです。
小林:
デジタル全盛の時代には貴重ですよね。
上條:
そうですね。これもすごく時間がかかって、また夫がすごく心配してましたね。(笑)
手作りのモノ2●
上條:
ビーズも作ったんですよ。ビーズはお店で買ってくると、粒がそろってますよね。でも、自分で作るといびつな形になって面白いんです。
小林:
ビーズを使って何かを作ってるのかと思いましたけど、ビーズ自体を作ってるんですか?
上條:
そうです。ビーズを。(笑) 真鍮の棒に、後で剥離するような粉をつけておいて、そこにガラスの棒を溶かしたものを巻きつけて‥。
小林:
色は配合とかで?
上條:
混ぜることもできるし、色の付いたガラス棒を溶かしたりします。
小林:
本当に不揃いですね。
上條:
そうですね。揃えられないんです。
芸大の時にガラス部に入っていたので、そこで教わりました。これだったら、ちっちゃいバーナーさえあればできますのでね。
小林:
上條さんのモノには、「集中する」っていう共通点がありそうですね。
上條:
日常の中で作ったり、作ったモノを目にしたりするのがすごく好きです。無心になるという楽しさがありますよね。ちょっとした想像力を持っているっていうことは、生きていく上で力になると思うんですよ。そういう意味では、クリエイティブなことは学んで実践していきたいですね。
小林:
何かを作るのが好きなのは、子供の時からですか?
上條:
そうですね。幼稚園の時から絵を習っていたし、紙や布や紐を使って工作をしていた記憶もありますね。
大人になって子供の時に書き溜めたスケッチブックを見返してみたら、「あれ??もっとすごいものを描いていたはずだけどな」って思いましたね。(笑)
キャラクターもの●
上條:
次は、私にしては珍しいキャラクターもの。アトムとウランちゃんの食器セット。

小林:
キャラクターものなのに渋いですね。
上條:
このキャラクターものっぽくない色合いとか、セットになったまとまり感がいいなと思って。
小林:
もっとけばけばしい色で子供向けのモノはありますよね。でもこれは違うな。どこで見つけてきたんですか?
上條:
大宮の雑貨屋さんで。あんまりキャラクターものは買わない性質なんですけど、これはかわいいなと思って。
小林:
これは使ってます?
上條:
使ってないです。たまに見てかわいいなと思っています。
小林:
先ほどから、色合いは一貫して、普段あまり目にしない感じがしますね。
上條:
色の綺麗なモノはやっぱり好きですね。でも、原色じゃないモノが好きなんだと思います。
衝動買いシリーズ●
上條:
それから、衝動買いシリーズ。これが、セルロイドの歯ブラシケース。これも、3本そろった感じがいいなーと思って。



小林:
使ってます?
上條:
使っていないです。私、セットものにも弱いかもしれないですね。
小林:
これはどこで見つけたんですか?
上條:
川越。(笑)
小林:
方々に行ってらっしゃるんですか?
上條:
こういうちょっと変わったものとか不思議なものがあるお店は、結構見て回りました。
こっちは京都の大石天狗堂で買った花札です。
小林:
これもまた渋いですね。
上條:
これは機械ではなくて、手で印刷してるんですよ。かわいくないですか?
小林:
かわいいというか…、すごいですね。
上條:
大石天狗堂は知ってる人もいると思うんですが、遊ぶ札をたくさん作っています。どうやって遊ぶのか分からないような札もたくさん置いてあります。店舗っていうよりは倉庫みたいな感じなんですけどね。
小林:
札に味がありますね。
上條:
ありますよね。綺麗だなーと思って。鮮やかですよね。
あとはね、衝動買いシリーズと言えばサッカーボール。
小林:
サッカーボール?おー、地球だ。いいですね!
上條:
これ、ちょうど日本に台風がきてる時の地球なんですよ。
小林:
ほんとだ、大きい雲が渦巻いている。
こんなサッカーボール、どこで見つけたんですか?
上條:
これは表参道。
小林:
あ、2000年7月6日の地球なんですね。ここに書いてある。
上條:
それこそ、その日に生まれた子供にあげたら喜ばれますよね。
小林:
こういうのは衝動買いじゃないと買わないかもしれないですね。
どうしようもないモノ●
上條:
買ったはいいけど、どうしようもないモノもあります。これ。
小林:
何ですか?これ‥。
上條:
消防ホースの先。
一同:
(爆笑)。
小林:
初めて見ました。どこで買ったんですか?
上條:
これは芸祭(東京芸術大学の学園祭)で買いました。その時はいいなと思ったんでしょうね。
この類のものもいっぱい買いましたね。やかんとか湯たんぽとか‥。でもある時、あんまり意味ないなと思い始めて、それからは買うモノも変わってきましたね。
東の家●
上條:
この家は、土地の面積がたかだか21坪のいわゆる狭小住宅なんですけど、隣同士でお互いに出来ることはないかなと思いながらつくった家です。通常ではあんまりやらないと思うんですけど、うちもお隣も土地を買った時に、こちらで勝手にプレゼンシートみたいなのを作って持っていって、「うちの窓から見えるお宅の外壁は、こう」とか、「お宅の窓から見えるうちの外壁は、こう」とか言いながら、「お互いに、何か出来ることはないかしら?」って、建て主と建築家にプレゼンしました。コーポラティブハウスではないので、お互いのやりたいことは守った上で、環境をシェアすることをやりましょう、というような感じですね。だから、うちの窓の前にはお隣の窓がないようになっているので、普段は開けっ放しで暮らせます。地味なことだけど、環境をシェアすることで快適に暮らせますよね。
小林:
っていうことは、お隣の窓の位置を変更してもらったりしたんですか?

東の家
photo:
ジラフ建築設計事務所提供
上條:
変更まではしてもらってないですけど、事前に打ち合わせをしてお互い調整はしましたね。視線がダイレクトにバッティングしないので視覚的な広がりもあるし、換気や採光にも役立ちます。
お隣の建築家の方も、積極的に「このライン揃えましょうよ」とか言ってくれました。それは貴重な体験ですよね。
小林:
気持ちいい生活をシェアし合ってるっていう感じですね。
上條:
ええ。もうちょっとダイレクトに、共通の庭を造ったりすることもできるんだろうけど、そこまではすると心理的に重くなってしまいます。特に、戸建を持つということは縁が切れてる良さを求めてる場合もあるわけだから…。かといって隣にいるのが誰だか分からないのは嫌です。そのふたつの間の要望を狙ったような感じですね。
小林:
御自分で家を持ってると、設計の説得力も変わってくるんじゃないですか?
上條:
それはあるかもしれないですね。土地選びの段階で相談されることは結構ありますね。そうすると、空間的なことよりも、土地選びの注意点とかそういうことから始まりますよね。
小林:
その段階を自分で経験してるかしてないかでは大分違いますよね。
上條:
そうですね。私の場合、土地は衝動買いなんですけどね。
小林:
きっかけは何ですか?
上條:
友達が家を建てるための土地を探していて、「私も買おうかな」って言って一緒に行ったんです。それで探し始めたら、すごく条件に合ったものがあって、予算よりも高かったんですけど‥。夫に相談したら、「君はお金がないんじゃなくて勇気がないんだ。これを買わなかったらきっと何も買えないよ」って言われて、買ってしまったんです。
小林:
いいご主人ですねー。
上條:
それで、土地を買ったら家を建てないといけないから‥。
それも縁ですしね。
コンセプトは「柔らかさ」●
上條:
私は、お施主さんとコミュニケーションをとるのが好きなので、設計の仕事も終わったのに、奥様と遊びに行ったりしてますね。
小林:
そういう関係が続く人って少ないんじゃないですかね?
上條:
そうかもしれないですね。私は、アフターメンテナンスっていうことも大事だし、その後どうなっていくかっていうことも勉強になるし、なるべく関係は続けたいなって思う方です。
小林:
そうすると、後で不具合があった時、お客さんも言いやすいですよね。
上條:
そうですね。それって結構財産じゃないですか。「あそこはこういうことが起こるんだ」っていうこともわかるし。リフォームの仕事にもならないような、ちょっとしたことでも付き合いますけど、それもいいことかなと思っています。
「柔らかさ」は、結構自分のコンセプトなんですよ。なんとなく人を柔らかくしたり、肯定するような感じが好きで、そういうものを作りたいと思っています。
小林:
それは空間だったり、素材だったり、色だったり…、そういうことですか?
上條:
そうですね。私の中のずっと根底には、そういうものを表現できるといいなという思いがあります。
とにかくモノがたくさん出てきましたが、すべてに共通したテイストがありました。生身の感覚というかアナログというか…。それは、上條さん曰くの「柔らかさ」だったのかもしれません。
聞き手:小林、竹下(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

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