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第20号 原田 一朗さん 「デザインは社会構造と切り離せない(後編)」 |
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今回もハラダデザインの原田さんで、前回からの続きです。
衝撃的な展覧会だったという「ひかりのかたち展」のお話から、アクリルへの挑戦、ご自身の建築のことまで、ついに完結! 原田 一朗(はらだ いちろう) 1969年 東京都生まれ。 北海道大学工学部建築工学科卒業。 同大学大学院修士課程 修了。 1996-1999年 ワークステーション勤務。 2000年 ハラダデザイン設立 ハラダデザインのURL http://www.haradadesign.jp/ |
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ひかりのかたち展の特色● |
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小林: |
「ひかりのかたち展」自体はどんな風だったんですか? |
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ひかりのかたち展の展開● |
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展覧会から商品化へ● |
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原田: |
展覧会が終わった後に調べてみると、照明器具には電器用品安全法っていう法律がかかることが分かってね。製品版では、照明の会社に基板を再設計したものとさくら樹脂が製作したアクリルのケースを支給して、関連法規に準拠した電源ボックスなどと組み合わせてもらうことにしました。 |
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小林: |
なにか、問題があるんですか?そのままだと。 |
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原田: |
問題があるのではなくて…器具は認定工場で組み立てないといけないとか、発熱はここまでに抑えないといけないというガイドラインがあるんです。また、このガイドラインに基づいた測定をして、結果を保管しなければいけなかったり。器具にはシリアルナンバーをつけて、生産履歴を照合できないといけないとか…。あと、LEDは電球みたいにパチッと切れる訳ではないんだけど、だんだん暗くなるんですよ。この場合どこを寿命と捉えるかというガイドラインもありました。 「ひかりのかたち展」には、いろいろな照明メーカーの方が見に来てくださったから、その中で、製品化で共同してくれるメーカーさんを探し、このメーカーさんに温度測定をお願いしたり、こちらで放熱の仕組みを検討しなおしたりして、約8ヶ月くらい生産調整をして、ようやく販売できる様になりました。 |
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鄭: |
商品化されてるのは、「ミズ・アカリ」と「プラトニックライトシリーズ」の二つ? |
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原田: |
あとは、川辺直哉君の「フラグメント」と、僕の「ベースライトシリーズ」っていう花瓶にLEDが付いているのがあって今は4種5点を さくら樹脂のオンラインショップやdesignshop等で販売中です。その他の出展品は部品の調達とかの関係で、他のメーカーさんが入らないとならないので、まだ調整中なんだけど、ラインナップに加えられるものは加えていこうと相談しています。ただ、量産することによって、スケールメリットが得易くて販売価格が落ちやすいものと、そうじゃないものがあるから、市販されているものの値段に近づけられそうなものをやろうとしてます。あと二つくらいは追加する予定ですね。 |
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「ベースライトシリーズ」へ● |
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トライアンドエラー● |
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原田: |
最初に一番難しそうなかたちでトライアンドエラーすると、それより簡単なものは、いくらでも作れるようになるでしょ。だから、一番難しそうなのでやったんだけど、半年くらいかかったかな。でも、トライアンドエラーの一つひとつが工場にとってはかけがえのないノウハウになっています。 |
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鄭: |
ですよね。 |
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原田: |
この花瓶の開発当時は、さくら樹脂さんもアクリルへの封入ができなかったので、倉俣史朗さんのバラの椅子をつくった、埼玉の工場の方に封入していただだきました。でも、さくら樹脂の社長さんと一緒にガラス容器を持って行って製作のお願いに伺ったときには、はじめはすごく難色を示された。この工場の社長さんがおっしゃるには、以前、開放型の容器の封入を依頼されたことがあったけど、そのときは技術的な問題で出来なかったんだって。それで「ぼくは建築家だから、エンジニアリングにも明るい、割れてもいいから作ってみて、そこから問題を探せばなにかわかるかもしれないから、やってください」とお願いして、ガラス容器を何本か封入してもらったんですよ。 そしたら、案の定ほとんど割れるのね。どうして割れるのか理解する為に、詳しく封入の手順を伺って「こうなんじゃないか?ああなんじゃないか?」と対処方法を絞り込んでいって、割れなくなりました。出来たときは、すごく嬉しかった。この工場の社長さんからも電話がかかってきて「割れませんでした!」ってね。一緒に喜んでくれました。 |
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小林: |
割れるというのは、どのタイミングで割れるんですか? |
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原田: |
石油状態のアクリルの液体から硬化が進むと、体積が2割程度縮むんです。この収縮の時の力が、ガラスの強度を越えた時点でパキッと割れることが分かってきました。 |
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鄭: |
2割も! |
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原田: |
見た目はガラスとアクリルの、コラボレーションなんですが、物性的には大喧嘩しているから、調整役が「まあまあっ」ていう感じで、アレンジをしないと難しいということなんですね。 |
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試作段階でのスケッチを見ながら● |
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小林: |
試作品はどれくらいに、それこそ星の数ほど? |
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原田: |
それほど開発費はかけられないから、なるべく失敗しないように頭をつかいます。試作するときにも、「多分ガラスが割れるだろうけど、こういう仮説に基づいてやる試作である」ということを、ちゃんとクリアーにしてからやるようにしました。むやみやたらにつくったって、自然に逆らってる限りは絶対にできない。想像力を働かせたり、エンジニアの人にいろいろ助言を頂いたりしながら試作をします。もったいないもんね。 |
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小林: |
なるほど。 |
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倉俣史朗さんと職人さんの良い関係● |
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原田: |
花瓶を封入してくれた職人さんからもいろいろ学びました。まず、倉俣さんというのは、すごく職人さんと良い関係だったことに勇気づけられました。職人さんが時折思い出話をしてくれるんです。バラを入れるときの話とかね、すごく面白かったよ。あの造花は事務所の方が工場にいらして、位置決めしながらアクリルに封入したそうです。どぼどぼと、流せないじゃないですか。ああいう風に漂っているようにするためには…。この話を聴いてなんだか、現場でコンクリートを打つときのような感じだなあと印象的でした。僕は、それまで、倉俣さんのマスターピースを写真や実物で拝見しただけだったけど、本当に少しだけ、その仕事ぶりを伺って、職人さんとのコミュニケーションをとても大事にされているという印象をもちました。そういう目で見ると、作品がそれまでより豊かなものに見えてくる様な感じがしたのも印象的です。 この花瓶の試作ではかなりの回数この埼玉の工場に通いました。そうすると、雑談になって故郷の話をしてくださったのも印象的です。ここの社長さんは、長野出身とのことで、アクリルという素材のことを「私にとってはこれは氷なんですよ」とおっしゃる。「子供の頃から、ものが凍る様子を見ていたから、そういうつもりでやっているんです」って言われた。 |
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漆の設計展● |
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小林: |
こちらの「漆の設計展」は? |
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原田: |
漆器の展覧会は、 先ほどお話ししたdesignshopで漆器を販売していて、この漆器の製造元の若い経営者の方とdesignshopの運営をしているm+h unitの方々が意気投合して、「『ひかりのかたち展』というのをやったことがあって、若いデザイナーとつくり手が共同して、結構反響がいいイベントになったので、同じように展覧会をやってみませんか?」とお話してくださったのが発端です。ですから、僕自身も一実行委員としての参加です。「ひかりのかたち展」とはメンバー多少入れ替わりはあったんですけど、この展覧会の為に同じように参加者が集まり、去年の8月から準備をはじめました。 |
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小林: |
ほう。 |
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原田: |
漆器の工場を見に行くと、アクリル削るのと一緒で轆轤(ろくろ)で木をまわして削ってるのに驚いた。漆っていうのは樹脂のルーツだから、反応プロセスとかはアクリルとまったく一緒だった。重合っていう反応なんですよ。アクリルでは圧力をかけたり触媒を用いたりとか、すこし乱暴なんですけど、漆では、その反応をほんとに空気中の水分だけでやるので、すごく時間がかかる。で、やっぱり体積減るし、変形も出る。そんな共通点に興味を持ちました。木だと耐水性がないので、樹液を塗ってみれば丈夫になるんじゃないか?くらいのことを、数百年数千年のスパンで洗練していく中でああいうものが生まれたんだなと思って。自分がやっていることのルーツに出会ったような気がして、非常に嬉しかったでんす。 展覧会ではつくるプロセスもちゃんと紹介するために、轆轤(ろくろ)を使って木地挽きしている様子をビデオで撮って会場で流したんですが、さくら樹脂の旋盤工の方もこの動画を見て、すごく驚いてたよ。手を動かしながら、「こうやってやるんだなー」と。職人の血が騒ぐというか、技術は身体に染み付いているんだなあと思いました。木地職人も旋盤工も刃物も自分で研いでつくるし、完全に同じなんですよ。 アクリルと漆は、時間的にも空間的にも隔てられているものなんだけど、いろんな共通点がある。こんな訳で、松野勉君(ライフアンドシェルター社)とぼくの作品はアクリルと漆器の組み合わせに挑戦しています。 |
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小林: |
なるほど。 |
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今は「漆の設計展」が終わって、その反響が良かったのことにすこしビックリしています。最初に「漆器やってみる?」って言われたとき、非常に魅力を感じたけど、ちょっと敷居が高いなと思ったんです。もっと歳とってからというか、あんまり自分に関係ないというか。自分が伝統技術に取り組むことがイメージできずにいたんだけです。でも、見に来た方の反響がおおむね良かった。それは『何がどのように作られているか分かること』だったり『うつわという普段何気なくつかっているものへのデザインの関与の仕方が分かること』への安心感なのかなといました。一般の方はこういうことを知る機会ってすごく少ない。展覧会を通じて、それがどんなマテリアルを扱うものであっても、そのプロセスをちゃんと伝えることや普段意識されないものをデザインの対象にしていくことが、かけがえのないことになっていくのかもしれないなと感じていますね。 |
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つくる方法と感じる方法…空間の包容力● |
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原田: |
今はね、住宅を設計していて、この住宅は照明とか階段とか、そういうのをねアクリルでつくろうとしてます。 |
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小林: |
階段の踏み面を? |
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原田: |
踏み面っていうか…、それはまだ秘密(笑)。ほかにもいろんな部位に使ってみたいんだけど、とにかく、今は3カ所くらいで考えています。 |
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小林: |
アクリルは用途が広いですね。 |
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原田: |
透明な材料で、削れて、接着ができて、成型ができるものってアクリル以外ないでしょ。着色もできるし。非常に応用領域が広いからね。でも、別にアクリル御殿みたいなものを作ろうと思っている訳ではなくて、とにかく、回り道して再び建築を作る事になったので、自分が今までやってきたことをどうやったら建築空間として実現できるかが関心事です。 |
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つくる方法と感じる方法の差…、なんとなく僕らもそのことを意識はしているけど、設計するという事はこの二つの思考の間をものすごい密度でフィードバックをする事だから、僕ら自身は切り分けて考える事はむずかしいよね。でも、むずかしいからといって放っておくと、これは、設計する人間と暮らす人の距離となって現れることもあるし、不動産とか箱モノと揶揄される様な建築物の寂しいありかたにも繋がってしまう気がします。僕は、ちょっと回り道をして、でも、楽しく家具やプロダクトに取り組む様になり、それなりの数のものを作ってきたから、普通に考えると棚が構造体になっている様な家を胸はってつくった方が分かり易い。でも、こういう方法も、ある種の構成論だなあと思って僕はずいぶん悩んだんだよね。最近は要素がデジタルにある空間に帰結する訳ではなく、様々な対象がそれぞれオーバーラップしあっている様な状態を作ればいいんだなと考える様になってきました。そうすると、なんだかとても気楽になってきたというのが今の状況です。 ぼくらは何かを感じる、そして、感じたものの組み立て方を考える。こうしてできたものは、また新しい経験の舞台となる訳で、そうした気持ちが使う人の心の中でも連綿と生起する様な、包容力のある空間を作ればいいと考える様になってきました。 僕がいままでデザインしてきたのは言わば「器」で、それは熱帯魚の「器」の設計だったり、花の「器」だったり、そこには人間の「器」も含まれる。それぞれの器は、生活を土台にしたいろいろな包含関係をもっている。家一軒デザインするときも、いろんな視点からデザインの領域をきりとって、まとまりをつくり、それを重ね合わせて行く様な、そういうことができるとすごく楽しい。ものづくりのインフラをつくろうってことにも、同じようにそこに関わる人のいろいろな価値観の重層的な関係があります。最近ぼくはいろんな人と一緒に仕事をする様になってきたから…、一連の取り組みが初めにお話しした『なんでもデザイン』に広がってくるといいなと考えているところです。 |
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数々の問題を乗り越えて生み出されたモノからは、たくさんの人の努力と信念が伝わってきます。形だけでなく素材やそれをとりまく人の関わりを構築すること、その大切さが原田さんの言動から滲み出ていました。 |
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