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第19号 原田 一朗さん 「デザインは社会構造と切り離せない(前編)」 |
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今回は、ハラダデザインの原田さんです。
デザインするにはつくり手との連携が大切だ!と、原田さんからは次から次へと言葉が湧き出てきます。 聞き手も圧倒されたモノづくりへの思い、とくとお読みください。 原田 一朗(はらだ いちろう) 1969年 東京都生まれ。 北海道大学工学部建築工学科卒業。 同大学大学院修士課程 修了。 1996-1999年 ワークステーション勤務。 2000年 ハラダデザイン設立 ハラダデザインのURL http://www.haradadesign.jp/ |
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独立して考えたこと● |
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原田: |
ぼくは北海道大学出身です。北海道大学には、意匠の研究室が当時はなくて、実務をやってる建築家の先生とかもいらっしゃらなかったんですね。でもぼくはやっぱり建築設計がやりたかったから、ワークステーションの高橋寛さんと晶子さんがJIAの新人賞で札幌に講演にいらしたときに「アルバイトさせてください」ってお願いして、大学院のときは、ワークステーションと大学を行ったり来たりして過ごしたのね。 卒業後、高橋さんの事務所に入れてもらって、やっぱり仕事がすごく面白くてあっという間に3〜4年が経って、独立しました。でも、ぜんぜん地縁も血縁もないところで仕事を始めざるを得なかったから、初めはぜんぜん仕事がないだろうなと思った。だから、何でもデザインしようと思って、原田一朗建築設計事務所とかいう名前をつけるのはやめて、屋号をハラダデザインにしたんです。 |
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図面描くだけ描いて、さあ見積もりとろうって時に、それじゃあ作れないとか、安くならないとなると、物を作る人との距離が遠のく。日常的にいろんなものづくりをしている方に、「こういうものの価格体系はどうなってるの?」とか「こういうものをやるにはどういう人に、頼めばいいの?」とか、そういうことが気軽に聞けるような結びつきがあれば、もっと違うことができるなと思ったんです。住宅なんかをやったりするときには、特に大事だなと思ったんですね。 |
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友人の結婚式の贈り物がきっかけを生む● |
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原田: |
いつもこんな必要性を感じてたんだけど、なかなか機会は到来しなかった。そんな時、たまたま友達が結婚するっていうので、みんなでカンパをしてダイニングテーブルを作ってあげようということになった。そのなかで設計ができる人間は僕だけだったから、ぼくがデザインすることにしたのね。それで、「アングルレッグテーブル」っていうのを初めてデザインしました。これがもうめちゃくちゃ面白かったの。ただ、凝りすぎて高くなって、ちょっと反省したりしたわけ。じゃあどうやったら安くできるかな、と思って考えたのが、このWAPPAっていうテーブルなんです。テーブルっていうのは、基本的には天板があって脚があるわけですが、脚は脚、天板は天板で作ると、高くなるのね。それで、おんなじ部材の反復で作っちゃえばもう少しリーズナブルで且つカッコイイものがつくれるんじゃないかと思って。これは、タオル掛とかの輪を作っている、曲げ屋さんにリングを曲げてもらって…。(「WAPPA」photo:haradadesign.jp) |
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鄭: |
曲げ屋ですか? |
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原田: |
![]() 曲げ屋っていう業種があるっていうのも、リングが作りたいって思ってはじめて知るんだけど。そこがまた新鮮だよね。一番上のリングはちょっと大きいので4千円なんですよ。で、ちっちゃいリングは5個あって、1個2千円なの。そうすると材料費で、部品として考えたら1万4千円位です。それをマウンテンバイクとか車椅子とかの部品とかを作ったりしてるビルダーの人にお願いして、組立ててもらいました。僕はマウンテンバイクが趣味で大学のころレースをしていた、その関係で、自転車関係にいろいろコネクションがあったんです。 このテーブルは、部材長がすごく短いことが売りで、そうすると、すごくロッドが細くても強度が出る。でも、その代わりぜんぜん直角なところがなくて、溶接するときに部材の位置を決められなくなっちゃうんです。これは自転車のビルダーに頼むしかないと思って(注:自転車のビルダーは、直角がない形のフレームを組み立てるのが得意です)。 (photo:ハラダデザイン提供) |
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小林: |
へー。対荷重は? |
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原田: |
100kgは大丈夫じゃないですか?ぼくは70kgあるから。それでもびくともしないから。 |
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鄭: |
リングだから可能なんですね。 |
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原田: |
リングはサッカーボール状の正二十面体の内接円になっているので、接点が増えて、支点間距離も短くなる。一応バックミンスター・フラー見ながら…。、フラーって立体をカルテシアン(直交直線座標)で考えるんじゃなくて、違う座標系を持ち込むことによって、合理的な構造を考えようって人だから。当時ぼくはフラーがすごく好きで、割合よく勉強してたのね。だからこのテーブルにも構造的な合理性はあって、そこからいきなり大田区とかその辺のネタになるのはちょっと問題なんだけど、とにかく曲げ屋さんで作ってもらえばいけるでしょう、くらいの話になるわけ。 |
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小林: |
なるほどー。 |
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原田: |
これをホームページに出したら、5〜6個売れたのね。買ってくれた人の中には編集者の友人がいて、そのつながりで、ユーザーがDIYでなにかをつくるための「小さなインテリアが作れる本」ていう本の企画があるから「原田さんやってみませんか」と言ってくれたんです。そこで「プライベートアクアリウム」というのを提案しました。わらしべ長者みたいな感じです。 |
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さくら樹脂との出会いは「プライベート アクアリウム」がきっかけ● |
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イージースツール●
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原田: |
その後、この仕事場を借りることになり、そのときにもさくら樹脂さんにこの椅子とか作ってもらって。この椅子も面白いから売ろうということになって。 |
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小林: |
座面だけでも売ってるんですね。 |
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原田: |
“アクリ屋”は主にDIYが好きな人がみるサイトだったから、最初座面だけ売ってたんですが、それだとあまり売れなかったんですよ。それで下北沢とかのインテリアショップとかホームセンターに行って、パイプ椅子の仕入先を教えてくださいっていうすごい不躾な質問をして、とにかく脚を入手しようということになった。そしたら、結構教えてくださる方がいて、未だに日本でパイプ椅子をつくっている工場を見つけたのね。そちらに速攻でファックスを書いて、無塗装の脚を送ってくれませんか?って言ったら、安価に分けてもらえることになって、完成品も販売できる見通しがつきました。ぼくが自分で使うなら、そのまま、無塗装で脚は錆びてもいいけど、さすがに商品なので、この脚をさくら樹脂さんの近所の塗装屋さんでクリア塗装をしてもらった。脚先も被せのキャップだとかっこ悪いから「被せじゃないキャップはどういうところで売ってるんだ?」とまた探して、大阪で面一で収まるキャップをつくっているところを見つけて、これ一個8円なんですよ、それを100個ロットで購入した。で、ラバーブッシュは最初シリコンを自分でポンチで抜いてやったんだけど、長く使うと破れてくるのね。で、どんどんガタガタになってくるんですよ。だから、これはどうしたらいいんでしょう?っていったら、またまたさくら樹脂の近くにパッキン屋があるから、パッキン屋に硬質塩ビを抜いてもらえば大丈夫だよ、って言ってもらえて、これ一個5円。 (photo:「イージースツール」haradadesign.jp) |
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一同: |
(笑) |
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原田: |
やっぱ、ここは透明がいいです、とか。ねじはステンレス以外はありえない、とか。こちらで資材の入手先を探したり、さくら樹脂さんのご近所づきあいで手に入る部品があったり。そんな感じで完成品の仕様を詰めていきました。今でもこのスツールは割と売れてる。累計で100脚くらい売れたね。 で、それを販売店さんに持っていくと、白いのがあったほうがいいなとか、黒も欲しいなとか意見が出るので、脚の焼き付け塗装を黒くしたり、白くしたり。10台ロットとかで塗ってもらうと、足は安価なのに塗装代が1500円くらいかかる、箱も専用に作ってもらってあるから、1脚だけを売ろうとすると9000円くらいになるけど。でも9000円でも可愛いよね。 |
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小林: |
ですね。 |
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原田: |
こんな具合に完成品を販売したわけですが、設計事務所らしきところの人がいきなりね、6脚まとめて買ってくれたりしてね。たぶん自分が設計した住宅に入れてくれたんだろうね。専門学校とかで学生が気楽に使える椅子っていうんで、美術系の専門学校で買ってもらったこともあった。知らない人が買ってくれて嬉しい。 |
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プラトニック ライト シリーズ(PLS)へ● |
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デザイン・技術・エンジニアリング● |
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原田: |
こういうフットワークの軽さっていうのは、たぶん日本の今の社会状況がもっている特質で、ものすごい技能工もいれば、ものすごいエンジニアもいるし、市場も非常に成熟してるから、高いものから安いものまでまんべんなく売れる。そこが、東京で物をつくる面白さなんだろうな思いました。中国とかになると、もっと大きい資本があって、生産性がすごく高い作り方になる。ヨーロッパの場合は逆に手作業とか伝統の占めるウエィトが高くなる。日本の場合は、半導体分野で、発光ダイオードが世界一だったりもする一方、アクリルを手で削ったりする人たちが、1/100mmの精度で材料を削ったりしている。しかも、それがすごく少量の多品種で出来るようなものづくりのインフラがあって、そういうものを発表する場所であるとか、そういうものをいいなと思って買ってくださる人もいる。こういう意味で、日本はすごく恵まれていると感じたね。デザイナーやエンジニアも豊富にいるから、プロダクトデザインを介してユーザ−とこうしたインフラを接続することができるのはおもしろいなと思った訳。 これは、例えばさっきのフラーの話が大田区に飛んで自転車屋が組み立てて、それがぼくのホームページに出て、それをぜんぜん知らない人が買っていくっていうことにも、すごく良く表れているなと実感しました。 (photo:アクリルについて説明する原田さん。背後にプラトニックライトシリーズがみえる) |
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鄭: |
そういうものが作られる過程であるとか、デザインとかでも技術が保障してくれるもの、ってかなり強いですよね。 |
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原田: |
デザインっていうのは、技術や社会構造なんかと切り離して考えられないと思います。デザイナーや建築家がそれを切り離そうとするのは、簡単に言えば、そうしないと純粋にデザインや建築の話ができないからだよね。でも実際にものすごく引いた目線で見てみると、ものづくりというのはぐるぐる回っている。デザインして、誰かがそれを作って、誰かがそれを買いますよね。買ったものを見てまた、デザインっていいなと思う人がいて、という風に、連綿とぐるぐる回っていく。どこかが出発点じゃないんだよね。 |
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鄭: |
そういう循環になっているというのは、消費型じゃないですよね、デザインにしても物にしても。 |
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原田: |
そう、ぼくはそう思ってて、さくら樹脂と神奈川県に補助金の申請を出したときに、そういう風に書きました。つまり、所謂下請けー元請けという様な垂直的な仕組みのなかで、仕事が降ってくるというか、委託がある。さくら樹脂さんの場合は、普段作っているのは半導体の工場のための部品とか、コンビニのおにぎりの型とかです。「そういう部品を作る時は、受注がくるものに対して、納品するわけですよね。それだと、持続可能、サスティナブルなものづくりじゃなくて、社会の変化に対して、非常に従属的にしかふるまえない。ところが、一連の作るっていうことと、考えるっていうことと、ユーザーにそれを感じてもらうっていうことの中に仕事を見出すことができれば、それはサスティナブルであろう。工場が外部と連携して開発機能や販路を持つとかっていうことは、大体の製造業の方が下請けとして抱えている問題へのオルタナティブになっているんじゃないか?それが、持続可能なものづくりのための一歩なんじゃないか」っていう話をした訳です。 |
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小林: |
なるほど。 |
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デザインと技術が相互補完していく● |
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原田: |
クオリティが高くてリーズナブルなものが届けられて、かつぼくらはデザインができて、デザインフィーっていうのをすこし販売に応じて頂いたりとかもしているし、発表の場も設けてもらえる。何よりも自分たちが建築設計していくにあたってのベースラインがそれによってすごく高まるから、有難い。中小企業の方々も、開発部とかは持てないから、ぼくらが少し構造計算で協力したりもする。 単一業種の場合は、単一の加工しか出来ないんだけど、他の業種とのアレンジもする。建築物っていうのは基本的に異素材の塊だから、ディテールとかにどういう設計をすべきかとか、そういうことはよく分かるじゃないですか。だからこういう調整事にも強い。さらに言うと、建築物っていうものを通して考えているから、ライフスタイルに応じたプロダクトっていうのも考えられる。ちょっと新鮮味やウィットがあるものもデザインできる。すくなくともさくら樹脂さんとはデザインと技術が相互に補完しあえるようなお付き合いができていると思います。 |
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つくる人たちはどう受け止めているのか● |
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小林: |
作る側の反応はどうですか? |
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原田: |
それは、すごくありますよ。 企業からの下請けで仕事というのは、価格競争に巻き込まれやすいでしょ。それに対して個人販売みたいなものは、たとえば最初の1年で500個売れたアクリルのパソコンケースとかなんかの場合だと、それはすごくその工場にとっていいことで、まず財務的にすごい安定するのね。また、工場の人も、どこにどう使われているか分からなくて、かつ自分たちの名前も出ないものじゃなくて、自分たちがつくったものがちゃんとお客さんに売れるということですごい意識が高まるよね。この照明をやったときもやっぱり同じで、「あ、アクリルって照明も作れるんだ」っていう。 |
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小林: |
へー |
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原田: |
そう、普段は歯車とかつくってるんだから。そんな中で、アクリルを光らせば照明になるんだ、という喜びを工場の人が感じて「自分だったらこうした方がいいと思うんだよね」とか、そういう風になっていく。ただ寸法通りつくればいいという仕事の時とはすこし違うモティベーションで、みんな楽しんでくれていると思うね。 |
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小林: |
なるほど |
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原田: |
工業用の部品じゃなくて照明器具とか普段目にしているものを、自分たちが大量生産品として目にしているレベルのものを、自分たちのもっている技術でつくれるというのが、やっぱりとても嬉しいみたい。何にせよ、ぼくは建築家なので生活に関連するものしかデザインしないから、結構喜んでもらえているみたいです。 |
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小さな工場の力、外に視野を広げるということ● |
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原田: |
一番最初にメディアに出たときに、さくら樹脂のことを町工場って書いてしまって、その後の反響で、それはなんかある種の差別用語だったんだな、とすこし反省したんですね。建築家が町工場を救ってるみたいな切り口で、雑誌に紹介されたこともあって、それはぼくは失敗したなと思ってて。で、その後、小さな工場とか小規模製造業とか、もう少しドライに呼ぶようにしているんだけど。いずれにせよ、いわゆる町工場という言葉に代表されるような、差別感とか被差別感みたいなのは多少あるんだと思うんですよ。でも、実際はぜんぜんそうじゃなくて、小規模製造業の方が日本のものづくりをすごい下支えしていると実感します。お話をしてみると、日々具体的なマテリアルを扱っているから、素材とかに対するもの言いが非常にクリアでぼくの方が勉強になることが多い。バブルのときなんか3Kとか言われてたじゃないですか。だから求人とかも割と大変で、どこかの工場で経験を積んだ方がもう少し条件がいいほうが、という感じの中途採用が多いんで、新卒で人を採るという業界ではないんですよ。ところが最近は、さくら樹脂さんが割と賑々しく楽しいホームページをやっているから、さくら樹脂に入りたいって人が結構多いんだって。「入りたい」って思って来てくれるのは、なかなかすばらしいなと思ってさ。 (さくら樹脂恒例のBBQの様子 photo:haradadesign.jp) 社長さんがとても先見性があって、すごく人の話をよく聞いて調整・実行する方だから、会社がやっぱり良くなっているって気がしますね。ぼくも一緒にやっていくことで、なんかそういうところで少し役に立てた部分もあるかもしれない、そうだとすればそれはすごく嬉しい。 彼らは、あんまり外に出て行く機会とかが、おそらく無かったと思うんですよ。だけど、オンラインショップを開設し、最近は僕らと共同する様になって、巡回展の度にオープニングには工場の主任さんとか来てくれる様になりました。それがすごいよね。そこで、ぜんぜん知らない人とかが自分たちがつくったものをすごく嬉しそうに見てたりとかする。僕たちは展覧会では作り手からの言葉とデザイナーが思ったことを等価にプレゼンテーションしようっていうのをいつも大事にしてて、質問とかがあったら、この人がつくったからこの人に聞いてください、と話を振るんですよ。すると、結構嬉しそうに話をしてくれるし聴いている人も嬉しそうです。流通っていうものを介してしまうことによって、だれがどんなことを考えて作っているかとかどんな人が使っているのか、っていうことがすべてブラックボックスになって、両方の価値観が隠れてしまうことが多い訳だけど、社長さんがインターネットで直販を始められたり、僕らと一緒にものづくりをする様になって、ユーザーからの声がダイレクトに入ってきやすくなった。 |
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助成金を得て材料をつくる研究を始める● |
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小林: |
先ほど助成金の話がありましたが? |
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原田: |
「材料をつくるための研究開発をしたいんです」って役所に言って助成金をもらったんです。 「もう、切削技術とかはあるから、加工はエキスパート。展覧会などを通じてデザイン性が高いものを大々的にプレゼンテーションして、それが一定の評価を得ている。あとは材料がつくれるようになれば、もう少しコストマネージメントもしやすいし、大きいものとか、工夫したものとかつくれる」っていうプレゼンテーションをしました。 小ロットで材料をつくれるところってそんなに無いんですよ。倉俣史朗さんのあの椅子(注:ミスブランチ)をつくっているところが有名で、都内では2〜3社しかありません。 で、助成金が頂ける事になって、さくら樹脂さんと一緒に去年1年間研究開発をして、大体材料をつくれるところまでは来たんですね。 |
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小林: |
「材料を作る」って、どういうことですか? |
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原田: |
石油状態からアクリルをつくる。普通は板材を買ってきたりするでしょう。そうじゃなくて、化学反応させて材料をつくるんです。石油に近い液体三種石油類とか、そういうものに触媒を入れたりして、化学反応をおこして固体にする。そうすると、ガラスとアクリルが一体化できたり、金属性部品を封入した状態でアクリル製部品がつくれる。そうすれば例えば、家具とかでもディテールがほとんど無いようなものがつくれるんじゃないか、とか。自分のところで材料から加工まで一貫して作ることができれば、強度とかにしても、ある程度の見通しが付きやすいので、建材をつくったりアクリルの用途が広がると思った。昨年1年くらいやって、なんとかアクリルは固められる様になったので、今年はね、1年かけて試験をやっています。(試作中の新素材 photo:haradadesign.jp) |
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鄭: |
試験? |
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原田: |
市販の材料と比較して紫外線をあてるとどれくらい材料が劣化するかとか、分子量の解析をしてもらったり、破壊試験をしてみたりして、経年変化がどれくらいか、っていうのを今調べています。神奈川県の工業試験場のような機関があって、そこは中小企業向けにそういうサービスを割と安価に提供しているんですよ。そこにかなり優秀な研究員がいるので、サンプルをお渡して、試験をすてもらい、その結果をみせてもらったりしています。また結果を踏まえて調合とか反応状況を変えたりしながら、小ロットでもちゃんと市場性のある材料を開発している。これがすごくおもしろいんです。 |
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大学で学んだことが生きてくる● |
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原田: |
建築も結構役に立ちますよ。建築は一品生産だから、毎回現場でコンクリートの破壊試験とかやっているし。 学生のときは気付かなかったんだけど、北海道大学の売りはね、簡単に言うと物性物理。たとえば、寒いからコンクリート固まらない。それで、寒いときになぜコンクリートが固まらないかを理解することは、なぜ固まるかってことを理解することにつながるんだよね。だから、真夏にコンクリートの硬化が速いことをどう抑制するのか、というのにも使える。北海道大学って戦後に建築学科ができたんだけど、その時の学生達は建築物を寒冷地に安定的につくるのにはどうしたらいいかに取り組んでいた。そういう方が先生となって、ぼくがいた頃は退官間際でいらして、いろいろな苦労話を聞けたんです。スチールだって現場溶接とか冬場はぜんぜんできないんですよ。とても気候風土の厳しい場所に人が暮らす場所をつくることに連綿とトライしてきた方々が多いので、建築生産とかに関しては先駆者が多いらしくて、授業のときは先生方の実体験の話がすごく面白かった。ペアガラスとかも最初は空気だけでやってみたんだけど、それだと中で結露してしまって、だめだったとか(注:現在のペアガラスには不活性ガスが充填されています)。あまり大判にしてしまうと、耐風圧計算上は大丈夫でも、空気の体積が縮小することによって、中央部でガラス同士がぴたっとくっ付いて、そこに水が入っちゃうと熱橋になっちゃうからアウトだったとか。そういうトライアンドエラーの話を伺うことができた。物性物理に直面せざるを得ない風土の中で、建築のことに取り組んできた方々に囲まれて勉強してきたんで、それはすごく今の自分がこういう仕事をしているってことにつながっているなと思いますね。 |
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そして、「ひかりのかたち展」へ● |
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小林: |
「ひかりのかたち展」はどのようにして、動き出したのですか? |
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原田: |
さくら樹脂さんは、CADデータをCAMというフォーマットに変換して、機械に流しちゃえば自動で加工ができる機械を持ってるんです。ということは、少量多品種が可能ということなんですね。さっきいった様にLEDメーカーへの協力をして、発光部は手に入る見通しはたったから、10人くらいの建築家の友達に声をかけて、みんなで1種類ずつ照明器具をデザインしてみよう、それで展覧会をやらないか?っていう話をして。それが出発点なんです。市販することを目的にして。そのときに、以前キャベッジネットでも紹介された、松野君と相澤さんがデザインしたものが「ミズ・アカリ」です。 もう出来ていたPLSをプレスリリースに使ったら、結構色んな雑誌で紹介してもらえて。これがきっかけとなり、LEDに関する雑誌の特集にも協力することになりました。PLSをつくるときに、いろいろなトラブルがあって…。世の中で発光ダイオードは熱が出ないと言われているけれど、明るくしようとして電流いっぱい流すと熱が出る、とか、一般の照明に使うときにこういうこと注意しなきゃいけないってことをいろいろ、ちょっとした失敗をしながら学んだんで、この経験をもとに論文を書くことにしました。LEDに関心を持っているデザイナーの方を何人か調べてあったから、そういう方にインタビューもして記事にまとめようよということなった。この特集をまとめる為に、発光ダイオードのメーカーの方に「デザイナーの人にレクチャーをしてください」ってお願いもしました。せっかくやるなら、きちんとしたものにしたかったからね。そしたらメーカーの技術の人が来てくれることになり、かなり専門的な授業を生でうかがうことも出来た。 このレクチュアの最初にいきなり、「皆さんはエネルギーには2種類あることは良くご存知だと思います。今回は位置エネルギーについてしか触れません」って、「ちょっと待ってください」って手を上げて「もうひとつってなんですか?」ってきいたら「運動エネルギーです」って言われて、ガーンって。 |
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一同: |
(笑) |
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原田: |
まあとにかく、初めて勉強する訳なので、そのくらいぼくらの方はショボショボだったんだけど、すごくハイレベルな授業を4〜5時間、さくら樹脂の担当の方も一緒に受けました。あとで記事にするために、それを物理の導入の本をみながら、すこし噛み砕いて文章化した訳です。LEDの歴史の年表とかもつくったんですよ。(発光ダイオード photo:haradadesign.jp) LEDはメーカーの展示会用に基板ができていて、僕らの展覧会用にも余分に作って実費で販売して頂くという形態でメーカーにも協力していただけました。そこで「LEDの基板は同じ物を使うこと」「これくらいの大きさのアクリルの塊であれば使ってもいい」というルールをつくって、その範囲内で何やってもいいです、ということことにして、各人がデザインを始めました。つまり、少量多品種の加工技術を使って着せ替えみたくして照明器具をつくるという切り口です。LEDもまだ十分に普及していなかったから、これは衝撃的な展覧会だったんですよ! |
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興味深いお話が、本当に盛りだくさんです。衝撃的な「ひかりのかたち展」とは、一体どんな展覧会だったのでしょうか。次回に続きます! |
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聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/) クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影 無断複製、転載を禁じます。 |
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