生活普段議 
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第25号   馬場 正尊さん  「流動してこそ都市」
生活普段議の創刊1周年を記念して、Open Aの馬場正尊さんを訪ねました。馬場さんは、大学卒業後、大手広告代理店の博報堂に勤務し、その後、雑誌「A」や、都市再生プロジェクトの「R-project」、新しい視点で不動産を発見し紹介する「東京R不動産」といった、様々なプロジェクトを立ち上げてきました。現在は、建築家としての活動と平行して、メディアを通した様々な活動を精力的に展開されています。建築や都市をメディアと絡めて、まったく新しい視点から定義しなおそうとする馬場さんの活動の原点に迫りたいと思います。
 
馬場 正尊(ばば まさたか)

1968年 佐賀県生まれ
1994年 株式会社博報堂入社
2001年 早稲田大学大学院建築学専攻博士課程満単位取得退学
2002年 Open A Ltd 設立

Open A LTD.のURL www.open-a.co.jp
東京R不動産のURL www.realtokyoestate.co.jp
今回のモノ
 
カブトムシ●
馬場:
モノといわれて、何にしようかと考えたんですけど、これかな。かばん!東急ハンズで見つけた名もなきブランドのやつなんですが。カブトムシと僕は呼んでいるんです。取っ手がのびて引っ張ることができて、リュックにもなるんです。ゴロゴロっていう音が聞こえてきたら、「あ〜来たな」って、僕の音のアイコンにもなっている。この辺りから話し始めようかな。
小林:
これは出張の時に使われる?
馬場:
いや、毎日これを持ってるんです。動くオフィス!事務所の中には、自分の机がないんですよ。空間的に狭いということもあるんですが、まぁ、なくてもあり得るんじゃねぇかなと。この鞄ある所に俺あり、みたいな感じで。

馬場さんの鞄「移動オフィス」
取っ手が伸びて引ける
小林:
東急ハンズで?
馬場:
前は普通のリュックだったんですよ。それが、やたら大きくて重たかったんで、背負って歩いてると悲壮感あるじゃないですか。それがちょっと嫌だな、と思っていたんです。リュックにもなり転がすこともでき、という様なのないかなと思って、ふらっと東急ハンズに入ったら、「あっ!カブトムシみたいでかわいいじゃん」と思って買って以来、肌身離さず。
鄭:
これ、どのくらい使われてるんですか?
馬場:
半年くらいかな。出張もこれ、普通の打ち合わせもこれ。
鄭:
状況によって、鞄を切り替えるのは面倒ですよね。
馬場:
大切なものを忘れたりするじゃないですか。それも嫌だったので、オールインワンですね。
鄭:
事務所を持ち歩くって理想的ですよね。
馬場:
モバイルオフィス。まさに事務所を持ち歩くっていう感覚ですね。今ちょうど、ワークスタイルの本を作っているんですよ。そこで、新しいワークスタイルのアイデアとかを書いたりしてるんだけど、その中にキャリーオフィスっていうのがあって、そのアイデアをそのまま実践してみてるっていうような感じですね。
小林:
実践してみていかがですか?
馬場:
楽ですね。ちょっと重そうな気がするんだけど、逆に身軽になった感じがしますよ。こいつを、どこにでも連れていけばいいから。
鄭:
こういうの見ちゃうと僕も考えちゃうな。
馬場:
基本的に移動が好きなんですよ。一つの所にずっと留まってるのが本能的に嫌なんだろうな。
鄭:
それは日常生活でも?
馬場:
日常生活でもそうです。同じところでずーっと長々仕事をするよりも、街の中をふわふわ浮遊しながら仕事をしたいんです。事務所の中では、常に話しかけられ続けるんです。だから、落ち着いて文章書いたりスケッチしたりする時間は、ここではまずとれない。僕にとって、この事務所はコミュニケーションのハブなんですね。だから、集中したい時は街に出て、その辺の雑踏に紛れる。
小林:
集中する時に雑踏に紛れるんですか?
馬場:
雑踏の中の孤独が好きなんですよ。雑踏の中にこそ、本当に集中できる孤独がある。適当なノイズがいい感じのマスキングになってくれて、すごい集中するんです。ここに仕事場はあるのに、近くのルノアールとかでよく仕事をしたりします(笑)
小林:
集中するために独りになったりは、しないんですね。
馬場:
いいこと思い付いたりするためには、適度な情報のノイズがいいみたい。僕の場合は、流れる風景とか会話とかにちょっとずつ刺激されながら、ものを考えたり書いたりしてるような気がして。一箇所に留まっているのが苦手で、その延長線上にこれ(鞄)があると思うんだけど。
鄭:
サイズ的にもスタイル的にもぴったり、っていうのは奇跡的ですよね。
馬場:
そうですね。普通、取っ手は門型ですよね。でも、そうなった瞬間にものすごい“旅”な感じになるじゃないですか。そこがカブトムシだと、旅性がちょっと緩和されて、日常性を担保してるような気がするんです。形として、明らかにリュックの形をしてますよね。その辺りが、日常と特別な旅の境界をズバッと絶妙に突いてる。
小林:
四角のとかじゃだめなんですね。
馬場:
だめですね。なんか納得いかなかった。
鄭:
事務所の方に薦められたりはしないんですか?
馬場:
みんながこんなこと始めたら、事務所が立ち行かなくなるので、「みんなは事務所を守ってくれ、俺はさまよう!」(笑)みたいな感じですね。「また、居ないなー」と思われてるんじゃないかな。
開かれた事務所●
馬場:
この事務所は、2年ちょい前くらいに発見されたんですよ。元は、2階が倉庫で1階が駐車場だったんです。床がちょっと傾斜してるでしょ?
小林:
ちょっと後ろの方に…。
馬場:
ちょうどそのころ、都市空間の再生に数年間力を入れてみようかなと、決意した時期だったんですね。特に東京の東側がおもしろいと思ったんです。交通の便は最高にいいんだけど、空きビルだらけだった。それで探していたらここが見つかって、自分達で改装して、給排水整えて事務所にしつつ、ショールーム代わりにもなってます。
 
僕は、生まれが九州のタバコ屋なんです。タバコ屋のような商店って、道、店、住居、ていう空間構成になってますよね。だから、店の部分は、プライベートとパブリックの中間領域なんですよ。それが記憶の底にあって、西海岸に取材に行った時に、設計事務所なのに街に開いてる事務所が多いのを見て、商店みたいなオフィスだな、これはアリだと思ってたんですよ。それで、ちょうどこういう所が見つかったので、どういう風にコミュニケーションが変わるのか、実験してみようと。1階がお店のような中間領域で、いろんな不思議な使い方をしています。設計事務所はある程度集中しなきゃダメじゃないですか。見せられないものもけっこう多かったりするし。編集は逆で、いろんな情報がワイワイ集まってきた方が活性化するんです。フラッと来た人が、新しい情報とかを持ってきてくれたりして、都市に対して開いてる方が絶対いい。ここは、その役割を果している。
 
僕はここで所在無く漂っていた方が、全体のコミュニケーションが活性化するし、僕自身は事務所の中で“考えて決める”人ではあるんだけど、外から“おもしろいことを運んでくる”人間でもある。移動が好きな自分の言い訳かもしれないけど。そういう意味で、こういう空間がもたらしたこういう鞄なのかもしれないですね。
東京R不動産―流動の勧め●
馬場:
この事務所を探した時にも、おもろい物件はなかなか無くて、不動産屋に行って、「好きにいじくっていい空間」とか言うと嫌な顔されるじゃないですか。ノリのいい不動産屋さんは、こんなのあんなのって出してくれるけど、全然違う。「そんなわがまま言っても無いよ!」とか言われて、「でも、あのビルもあのビルのけっこう空いてるじゃないですか?」と言うと、「あんなんでいいの!?」っていう感じで、やっと出てくる。そこには、供給者側と受け手側の埋められないギャップがある。 僕は、都市の中のおもしろい分脈の空間を見つけるのが本能的に好きで、そういう空間を見付けては、それを書いていたら、「おい、やろうぜ」って言われて作り始めたのが、東京R不動産なんです。
小林:
あのサイトは、何が嬉しいかって見てて楽しいですよね。
馬場:
読み物として楽しくないとね。不動産サイトっていうつもりで最初は始めてないんですよね。 東京は、定住する場所じゃないと僕は思っているんですよね。流動してこそ都市。東京R不動産は、流動の勧めなんだろうな。だって、人生どうなるか分かんないし、いつ、どんな空間に住みたくなるかなんて分かんないじゃないですか。だから、どっかにステイする感覚から解き放たれた方がいい。その方が絶対自由だし、東京っていう不思議な街を使いこなそうとすると、そっちの方が楽しいじゃないですか。
小林:
そういう風に思われたのは学生の頃から?
馬場:
はっきり覚えてるのは、大学受験の時、夜に到着する飛行機で初めて東京に出てきて、びっくりしたんですよ。なんだこの光の帯は!ここに全部人住んでるのかなと思ったら、いろいろアホらしくなった。誤解を恐れずに言ったら、都市の中では人間一人ひとりがすごく軽く思えたんですよね。地縁で固まった佐賀と比べると非常に気が楽になりましたね。全体の中に埋没できると思って。その時すでに、雑踏の中に埋没して仕事するのが気持ちいいみたいな萌芽があったような気がします。
雑誌Aの見開きのページには、全部の号に東京の航空写真を載せてるんですよ。どうでもよくなった自分みたいな感覚が好きで、その地図の中では気が楽になる。都市でなければそうはいかないですよね。
東京R不動産の反響●
鄭:
東京R不動産はやはり反響がありますか?
馬場:
大手不動産会社が東京R不動産を見て、オフィスのコンバージョンの設計を依頼してきました。彼らは、ビルを改装して住宅にしたやつを、どうやって貸せばいいか分からないんですよね。でも、オフィスのままじゃどうしようもないから、「どうにかなりませんかね?」って…。東京R不動産をやってると、どんな人がそんな空間を欲しがってるか分かるので、自信をもって設計できます。
小林:
賃貸だと、2年くらいはこういうところに住んでみたいと思いますね。
馬場:
そうそう。だから、“目的賃貸”っていう造語を作って、「人生の2年間だけなら住んでもいい」っていうのを作りませんかって提案したんです。
最上階の部屋には、屋上にお風呂を付けた。
小林:
屋外ですか?
馬場:
屋外。ここで、お風呂に入りながらビール飲むと最高だろうな。元々は空調機置き場で、住居になったお陰で空調機を外せたんです。今まで貸せなかった屋上を貸してみようっていうアイデアですよね。
地上は最悪だったんですよ。車がガンガン通るし、人はほとんど通らない。だから、2階とつなげてガレージハウスにしました。お荷物だった一階の駐車場と、2階の全く日照がない部屋が、ガレージハウスということで人気の物件になった。
こういうことは、東京R不動産があったから思い付いたと思うんです。そして、東京R不動産に出すからお客さんも見つかる。ある種好循環を生んでるかなという気がしていますね。自分がコンバージョンしたやつは、まず東京R不動産のトップに載せる(笑)
鄭:
そうするとそこからのお客さんが多い?
馬場:
普通、出来あがってからしか貸せないけど、工事中にもう募集できますからね。それは有難い。決まりも早いです。普通じゃこんなとこ決まんないと思う。
小林:
他の掲載物件は?
馬場:
今までは掲載する物件を自ら探しに行ってたんですけど、話題になってくると、「おもしろいのあるんだけど」って持ってきてくれたり、「何とかなりませんか」って相談に来る人もパラパラと…。そういうのって、デザインでなんとかなる次元を超えてるんです。違う次元のアイデアがいる。なんとなく建築業界ってそれをデザインって言いませんよね。そこが解せないんですよ。
小林:
企画とか言っちゃうのかな?
馬場:
でもけっこう重要な気付きだと思うんですよね。それをどうにかデザインの範疇に入れて欲しいな。
鄭:
そういう話は、建築家に話が来る前に、かたがついてますよね。
馬場:
企画とデザインを切り分けなくてもいいだろって思います。アイデアを思いついて、実現できるって思った瞬間に、デザインのかなりの部分は決まってますよね。僕はデザインの領域をちゃんと再定義したい。
AとR●
鄭:
事務所の名前も雑誌もAだったり、R-projectや東京R不動産のRとか、わりとAとRに集約されてるような気がするんですが?
馬場:
ただの偶然なんですけどね。「アルファベットに凝るね」とか言われるんだけど、そういう訳ではないんですよ。
鄭:
事務所名のOpen Aっていうのと、雑誌のAっていうのは関連あるテーマになってるってことですか?
馬場:
そうです。Aって無味無臭でいいなと思ってたんですよ。ArchitectureのAであるけれども、Anonymous、Anyone、Anything、のAだったりして、さっぱりしてて重さがない感じがいい。だから、事務所の名前にこの記号を付けたいなと思ったんですよ。でも、Aは雑誌を一緒に作っていたみんなのものとして取っておきたいと思って、Open Aにしました。そういう意味では密接に繋がってます。
建築・都市・メディア●
馬場:
割合としては、事務所のほとんどの収益は、設計になりつつあるんです。でもそれだけではつまんないんで、編集とか物書きとか、企画みたいなことは、死守していこうと思ってます。
小林:
必ずメディアにつながるような感じですね?
馬場:
最初の就職先が博報堂だったのは、マスメディアと建築との関係を見つめなおしたかったからなんです。その後、休職して早稲田のドクターに戻って、「ある限定されたエリアにおける都市の生成とメディアとの関係(仮称)」という研究をやったんですけど、その引き金になったのは、都市博だったんです。博報堂で2年間都市博をどっぷりやっていて、現場に入って、基礎を打ってる最中に中止ですよ。それは朝日新聞の一つの記事からおこったことだった。何十億もかけたハードウエアがポーンってとんだりする。メディアの力を感じました。そこを建築側で書いたり語ったりしている人はいなかったんですよ。
そんな文献とか集めようとすると、社会学と社会心理学の分野にかたまってる。建築学にはないんです。ゆっくりそこを埋められたらなと思っていて、そういう意味では東京R不動産もメディアなんですよね。都市計画とメディアのインターフェースなんです。
小林:
メディアにかかると、いい意味でも悪い意味でもブームになってしまうことについては?
馬場:
メディアはそういう生き物だからしょうがないですよね。それを分かった上で振舞わなければいけないと思っていて、悲観するでも、しないでもなく、自然現象みたいなものだと思っています。気候に合わせた建物を作る感じですよ。
小林:
リフォームを超えて、リノベーション、コンバージョンがここ数年で相当浸透してきましたけど、いつ終わっちゃうんだろうっていう不安がよぎることがあるんですけど。
馬場:
僕は、定着すると思いますよ。特別なものじゃなくなる。シカゴでは、新築に住むか、中古に住むか、コンバージョンに住むかという感じで、選択肢の一つになっている。普通の銀行員とかがかっこよくコンバージョンに住んでるんです。
でも、定着してしまえばもう建築家とかデザイナーの役割は終わってるんですよ。なぜかっていうと、誰でも出来るようになるから。2年後くらいには違うことやってなきゃダメなんだと思いますね。
小林:
壊して作るという短絡的な開発の仕方ではなく、リノベーションとかがもっと定着するといいなと思うのですが…。
馬場:
どうしても、日本というカルチャーは作って壊しますね。それが好き。
鄭:
火事とか地震とかあるから、壊れることを前提に作ってるっていうのもありますよね。
馬場:
民族としての美徳を感じてるんじゃないですか。メタポリズムが世界に先駆けて日本から出てきたのはある種必然ですよ。ある意味、今は大きい時代の“つなぎ”ですよ。この辺も本当はまとめて新築したいんです。でも、経済状態も悪いし、にっちもさっちもいかない。けど、20年後は分からないですよね。ズゴーンって建ってるかもしれない。それもまた東京のおもしろさだと思うんですよね。変化してこそ都市だし、変化を否定するなら違うところに行った方がいい。東京にいる限りは、変化をジェネレートするのが建築とかメディアの役割だと。その方が東京には向いてるかな。
鄭:
メディアは都市と共生してる面もあるってことですか?
馬場:
そうですね。博報堂みたいな会社にいると、都市全体がメディアに見えてきますよ。移ろいゆくものでしかない。
小林:
そうすると、東京R不動産もある意味時限的なものだと?
馬場:
そうかもしれませんね。まぁ、東京R不動産って言いながら新築バンバン載せてるような気がしますね。(笑)東京R不動産はメディアなので、みんなが欲しいものを提供しなければならない。だから、ニーズが変われば自ずと中身も変わりますよね。それがメディアがメディアである所以で、表現ではない理由だと思う。そこがおもしろい。無理して表現しなければならないことを宿命づけられた建築とは違って、そういう意味では力を抜けさせてくれる。
鄭:
広告代理店がメディアを使うのは、表現をしているわけではないってことですね。建築をやっていると、すごく表現してるような気になっちゃうじゃないですか?その間のつながりとか、バランスは?
馬場:
曖昧なまま生きていくんじゃないでしょうか?(笑)
建築は謎●
鄭:
お話を伺っていると、一度始められたことは、ずっと続けられてるっていう感じがしますね。
馬場:
一見飽きっぽいようなのに。(笑)でもみんなそうですよ、人間。
小林:
自覚的な目的を持ってるんですか?
馬場:
それが分かんないんですよ。結果そう見えるだけで、そうでもない気が。R-projectとかAの始まりも、案外偶然でしかないんです。基本的に、目の前の目標に向かって、まず走ろうかっていうタイプです。
でも、最終目標は建築です。一番遠くにあるゴールです。最も謎めいてる存在だもん。最もヤバイもののような気がするんですよ。
小林:
謎めいてるっていうのは?
馬場:
宗教みたい。その謎めいたところにはまっちゃったんですよね。最後は僧侶になる感じじゃないですか。65歳位で僧侶になれてたりすると幸せですよね。そのために魔物のような建築という、わけわかんないものに向かって走ってる。その方が、飛距離が長くて楽しいんですよ。
都市を流動するものと捉え、全体を俯瞰するように見る視点が、新鮮で刺激的に感じました。その視点が、さまざまな企画を展開していく鍵となっているようです。インタビュー中にも何か“いいことを思いついたという、馬場さんの次の一手から目が離せません。
聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

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