生活普段議 
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第12号   芦沢 啓治さん  「何でも学べると思った方がいい」
今回は、芦沢啓治建築設計事務所の芦沢啓治さんを訪ねました。
事務所は、昔からの繊維問屋街にあるリノベーションされたビルの中に。毎日午後3時ごろにはラジオ体操の音楽が事務所の中まで聞こえてきます。
設計から一時期「金物業」に進み、再び設計に戻ってきたという経歴が物語るように、ひと味違った視点から建築を見る建築家です。
芦沢 啓治(あしざわ けいじ)

1973 東京都生まれ
1995 横浜国立大学建築学コース卒業
1996-2002 achitectue WORKSHOP
2002-2004 super robot
2005 芦沢啓治建築設計事務所

芦沢啓治建築設計事務所のホームページ http://www.keijidesign.com/

一枚の鉄板からできた「パンドア」と、フラットパッキング●
芦沢:
以前「スーパーロボット」という鉄でいろんなものを制作する所にいました。引き続きで、今も“金物業”はやっています。金物業というか、家具づくりですね。スーパーロボットで協同していた岡安さん(現、ismi design office)と照明のデザイン・製作もやりました。彼はもともと農業機械を設計していたのですが、彼の機械系ディティールのノウハウのおかげで、ちょっとしたエスプリが効いた照明も作ることができました。これですが…。
小林:



パンドア
フラットパッキングの原点
芦沢:
これは「パンドア(註:ライト機材につける光をカットする羽根状の板)」です。これをハロゲン(ランプ)に直接とめちゃうんですよ。
これがすごいのは、こんなふうにできるんです(羽をねじってみせる)。
普通のヒンジでは、こうはできないです。一方向にしか動きませんから。これ(この機構)には名前がなかったのですが、L.E.D(リーディング・エッジ・デザイン)の田川君が「これは、“ライブヒンジ”だね」って言ったんです。「お、その名前、いただき!」って(笑)。さらに全体のコンセプトを話していたら、「これ、“フラットパッキング”だね」って。「それもいただき!」って。全部彼からもらいました(笑)。
小林:
ちょっと動かしてみていいですか。(動かしてみて)あー、単純だけど、面白いですね。
芦沢:
これを、彼がこともなげに作ってきました。最初はランプに直接付けるタイプではなかったんです。写真展の展示会で使うということで「一番安いパンドアをつくろう」っていう意図でした。
小林:
その人は、これをどうやって思いついたんでしょうか。
芦沢:
うーん…、どうでしょう。でも、彼らの世界ではよくあるディティールのようです。よく見ると弱電部品の金物にも多用されています。単純に鉄板の切れ込みに配線をはさむ、とか。
小林:
じゃあ、こういう発想はそんなに奇抜ではなかったということですね。
芦沢:
そうです。出るべくして出たアイデアだったと思います。手前味噌になりますが、そのような異業種のアイデアを僕らは見逃しちゃいけないと思うんです。スーパーロボットの細川さん、岡安さんとライブヒンジの可能性について話しているうちに、これでぜひ家具を、という話になりました。
それでつくったのが「フラットパッキングシリーズ」です。1.6mm厚の大きな一枚の鉄板に、切れ目を入れて折って組み立てることで完成する家具です。鉄板を「ライブジョイント」で手曲げして作ります。曲げたり、折ったり、引っ張って伸ばしたり。鉄も厚みが1mm以下になると、まるで紙です。
小林:
椅子や棚。木の棚板との組み合わせもありますね。面白い。
芦沢:
切れ目を入れるのはレーザーカットです。それでやれることを、とことん追究しました。レーザーカットの世界は自由な曲線が描けるんです。コスト面で考えるといかに一筆書きにするかが重要になります。つまり、今まで考えていた「直線は切りやすくて、曲線は切りにくい」というような曲線と直線の合理性は関係ないんです。レーザーにはレーザーの合理性が働いています。だから、デザイン上もそれを意識しています。
実際いろんなノウハウがあって、それをレーザー加工機を所有している共栄精機の小山さんに教えてもらいました。今のところそのノウハウは誰にも伝達されずにこのまま僕らの中で…。

photo:Taro Mizutani

photo:Muga Miyahara

フラットパッキング
棚と椅子
二人:
(笑)
芦沢:
もったいないですね、ある意味。
鄭:
トラフ(生活普段議第9号参照)もレーザーカットを使っていました。とても面白いと思いましたね。
芦沢:
そうそう。
小林:
この家具のシリーズは、今も売っているんですか。
芦沢:
以前は売っていました。ほしいという人があまりいなかったので、今は売っていません。
小林:
じゃあ、芦沢さんにお願いすれば…。
芦沢:
可能ですね。ただ、制約もあります。組んだ状態で塗装をさせてほしいとか。そうすると組み上がった状態で納品ですから、鉄板がフラットな状態は見られなくなるんですが…、フラットパッキングという「工法」を面白がってくれる人向きということになります。ほとんどアートと言ってもいいかもしれませんが…。マスマーケット向きではないと思います。
小林:
シャープなラインはすごく魅力的ですね。
芦沢:
厚味がなくほとんどラインで見えてきます。
このパンドアがフラットパッキングの原型で、この中にすべての要素が入ってます。
最初は失敗だらけでしたよ。曲げの寸法やリベットの誤差とかの読みが甘かったこともあって…。
小林:
鉄でつくる前に、紙で試作したりしました?
芦沢:
紙で試作したものもありましたね。そのうち試作しなくてもだんだんと頭の中でわかるようになりました。30タイプくらいつくったかな。
小林:
すごい数ですね。
芦沢:
これは一つのアイデアからどこまで拡張させていけるかということに固執しました。

小林:

レーザーカットがあったおかげでできたわけですね。
芦沢:
もっと言うとレーザーカットと、それを使いこなす小山さんが僕らの友達だったおかげです。いろいろな意味で。
フラットパッキングではありませんが、このテーブルも作りました。
小林:
シャープなラインでできていますね。

芦沢さんの事務所のテーブル
photo : Keiji Ashizawa
芦沢:
1.6mm厚の鉄板のフチにアングル(断面がL形の棒鋼材)を溶接して磨いてあります。縁をみると、8mm厚の鉄板を使っているみたいでしょう。
鄭:
長いテーブルだし、軽い感じで、驚きですね。
芦沢:
長さは2.4mです。鉄は「驚き」をつくれるんです。私はその「驚き」を武器にして商売しています。(笑)
今もスチールの棚とか、注文があればつくっています。
小林:
見付(みつけ。註:ものを見たときの正面の幅)がラインで見えてくるのは、すごい。
芦沢:
見えるのはラインだけです。材の厚みはほとんど感じられないですね。
小林:
北山さんの事務所からスーパーロボットへ行った、その経緯は?
芦沢:
当時からスーパーロボットとのつながりはありました。「バーオレンジ」というのを個人で設計させてもらったのが直接的なきっかけです。それから北山事務所で、僕はたまたま鉄を扱う仕事が多かったんです。それで、「鉄っていいな」って思うようになりました。単純にツールとして使えるな、と。どのような職種のデザイナーさんでも、いざという時に頼りになる得意技がありますね。僕にとってそれは、細くて強くて、ビックリするようなシーンをつくることができたりする鉄だったわけです。スーパーロボットはいとも簡単にそれをつくっていました。しかも彼らは同世代で自分たちの工房を持っていて。刺激を受けましたね。
普通に設計をやっていると、金物の世界というのは職人気質で物静かというイメージでしょうか?(笑)。ところが彼らは製作図のスケッチも上手に描けるし、デザインもする。聞くと美大を出てという人たちが多いですね。3,4年修行して工房を持ってしまう。実は東京にはそのような人たちが結構多くて、僕らの物づくりを豊かにしています。僕はそういう人たちをきちんとピックアップしていきたい。そのうちのひとつがスーパーロボットですね…。もちろん独立したときに持っていた建築の仕事は生きていくのに十分ではなかった…ので、ほとんど必然的にスーパーロボットの一員になりました。
小林:
鉄は自由度がありますね。
芦沢:
そうそう。直感的に、鉄は商売になるって思いました(笑)。
小林:
溶接免許をとったんですか。
芦沢:
いえ、実は溶接はできないんです。ちょっとはやってみましたが、商売にはなりません(笑)。現場の取付け工事にはよく行きましたけど。
小林:
建築から鉄へ、そして建築へ戻ってきましたね。その理由はなんですか。
芦沢:
僕は、スーパーロボットでも建築をやっていたんです。建築ができると家具が必要になります。建具とか、手すりとかをコストコントロールをかけながらスーパーロボットに製作してもらいました。実にやりやすかったし、お客さんにとっても私にとっても満足のいくものを作りやすい環境でした。悪いことといえば…、その箇所はいつまでも図面を書かないということでしょうか(笑)。いつでもつくれるって思うから。現場で寸法を測って、自分たちでつくるわけですから。今でも家具だったり手すりなどの金物もスーパーロボットに頼みます。やっぱりまだ図面書いていないんですけど(笑)。
二人:
(笑)
芦沢:
そのうちやるぞ、って。
小林:
そういう両者の関わりは面白いですね。
芦沢:
そうそう。皆さんもそういうやり方をいろんな職人と築いていければいいんじゃないかなと思います。
小林:
今風に言うところのコラボレーターか、外注先かの違いですか。
芦沢:
平たく言うとそうですね。
施主との関係●
小林:
いま、ローコストを目指す施主の方は多いですか。
芦沢:
圧倒的に多いですね。やみくもに安くするために業者をたたくとか仕様を落とすのではなく、施主も工事に参加することを推奨しています。今やっている現場ではお客さんが外壁を塗っています。
小林:
コストを削っていいものにしたいけど、そのためには施主にもパワーがいる。だから最後は任せてしまう。
その施主の方みたいに、自分でやるというのはすごいなと思います。
芦沢:
そういう「馬力のある」お客さんは増えていますね。いいことだと思います。
小林:
材料なんかの供給も以前よりよくなっていますよね。ホームセンターとか。だから馬力を出す気になれる…。
芦沢:
そうですね。ある意味馬力のない人は建築家が設計した家を住みこなすのは難しいかもしれませんね。もし、あえて投げ出したような空間をつくると、本当に投げ出されたままになる。逆に、そういう人なら、本当に投げ出した方がいい。そうすると、すごく楽しそうに住みこなしてますよ。もちろん私たちはプロとして至れり尽くせりの住宅も作りますけど。ちょっと営業トークですが(笑)。
小林:
そういう人にとっての建築家は、完成されたものをつくる人なのではなく、手を加えるベースをつくる人なのですね。
芦沢:
そうですね。あるいはBODYですね。建築において僕はあえてインテリアのプロではないという立場をとっています。
小林:
といいますと?
芦沢:
建物のBODYをつくることに関しては、プロですから責任を持って「任せてください」と言えます。インテリアはやはり住む人が楽しみながら考えるのが正しいと思っています。生活を押しつけるのはできれば避けたいなと。お客さんにインタビューしていく中で、僕らが彼らの生活スタイルを発見して大雑把に提案する。そういうことだと思います。あまり思い入れのある空間構成やデザインは使わないように心がけています。長い間住むのはお客さんですから。飽きがくるようなデザインほど罪深いものはないでしょう。もちろん、そういったものを求められることも多いですが。
ありがたいことに、今までのお客さんは「気恥ずかしいことはやめてよ」という人が多い。無意味な間接照明とか(笑)。「そっけないくらいがいい。ただ、骨のあるのがいい」って。
小林:
「骨」ですか?
芦沢:
「コンセプトと住む」みたいな、そういう「骨」ですね。
芦沢:
住み応えのある家、という意味でしょうか。
芦沢:
何でこうなっているのかを常に納得できる必然性かな。あるいは自分がこの家、この空間を欲した理由とか。
小林:
それはとても重要なことですね。
芦沢:
部屋のカタログをもってきて「これ、つくってください」ではなく、もっと自分の大事な部分を教えてもらわないと、僕らは力を発揮しきれないというか。部分的に、例えば「こんな螺旋階段で」とか言われても困ってしまいます。ありがたい話で、今まではそういうことは一切言われなかったですね。もちろんそういうことを具体的に言ってもらっても構わなかったんですが、それを言うことで可能性が狭くなるということも分っていただいていたんだと思いますよ。
二人:
なるほど。
芦沢:
最近、ある“ビューティーディレクター”にテーブルの製作を頼まれたんです。「あなたの作品は全部見た。気に入った。どうつくってもいい。任せます。ただし、曲線のテーブルがいい」って(笑)。そう言われると深く考えざるを得ません。曲線?ってね。で、さらに彼は、「もし過去の作品に曲線が多かったら、直線で、って頼んだかも知れない」って。さすが、ディレクターだな、面白いな、って思いました。「いつか、そのテーブルをあなたが展覧会に使いたいって言い出すくらいの、それくらい素晴らしいものをつくってほしい」とも言われました。
小林:
作り手の闘志をかき立てますね。解き放っておいて、重要な部分でグッと締める…。
芦沢:
そうです。そういうことが家づくりにもいえるんです。つまり、大事なことだけ伝えてほしいということですね。それは、雑誌の部屋の写真を持ってきて「これで」というのとは違います。もしそういう人が来て会っても、それは正しいお見合いにはなっていないと思います。だとしたら、正しいお見合いができる状況をつくって、そういうものを望んでいる人は、そういうものがきちんと手に入るようにしなきゃいけないですよね。「○○メーカーの家が気に入ったんだけど、高かったから来てみました」っていうのは、またちょっと違う。○○メーカーの家がいいならそれを是非購入してほしいわけです。
でも実際、ある建築家の人が言うには「建築家に残された道の一つは、合理的なコストダウンだ」と。それはある面本当で、僕らは流通に関われる立場にいる、だから「規格」から外れたことも可能です。そういうことができるんですよと、僕らは声高に叫んでもいいはずです。
小林:
他が高かったから、建築家の所に来ました、という人も?
芦沢:
そこでしか僕らが生き残れないのであれば仕方がないのかもしれませんね。ただし「安い住宅」=「建築家」だけでは辛いですが。メディアの影響も多分にあるでしょう。
鄭:
そういうのは、いつごろから始まったんですかね。狭小住宅が盛んに取り上げられた頃からでしょうか。
芦沢:
狭小はメディアに出過ぎましたよね。
小林:
一時、どの雑誌にも同じ住宅が載っていたこともありました。
鄭:
それは情報の偏在ですね。あるメディアが扱ったものは、他のメディアも扱いやすいのでしょうけど…。
芦沢:
僕らは作品を載せるだけではなくて、そういったメディアに対して発言する必要があります。そういう意味では、建築家は物ばかり作っていてもだめだなと。業界全体のことを考えて行動していかないと…。もやろうかなって。やらないと変わらない、やるべきだ、って思うんです。
建築家としての姿勢●
鄭:
自分たちの姿とメディアが乖離したことに気づいたら、何かしなきゃいけないんでしょう。そのためには、こっちが一般に姿を垣間見せないと、一般の人も何処を見ていいのかわからないですよね。
芦沢:
そうなんです。例えば、載った雑誌に連載を頼んでみるとか、こういうテーマで書いてみたいとか、メディアに売り込んでいくしかないと。
世界の状況をよく知っているわけではありませんが、日本の建築レベルは高いと言われつつも一般にあまり知られていないし…。
昨年ベルリンに行ったら、工事現場の仮囲いに建築のコンセプトを説明した模型写真がどーんとかかっていて、一般の人がしげしげとそれを眺めて談笑していました。その状況は本当にうらやましいなと。自分たちの出来ること、その意味をどんどん外に広げていく活動の必然性は大いにあると思います。
鄭:
それも、火急に。
芦沢:
ちょっと話をローカルに戻しますが、建築家のWEBで顔写真を探したらみんなソッポを向いている。設計というのは客商売なのにどうしてなんだ、って思いますよね。僕も言われるんですけど(笑)。そんなことしてたら、仕事を他に持って行かれるぞ、ってね。
家を買いたい人は常にいます。でも、そのほとんどの人たちが直接は建築事務所の扉をたたきません。僕たちは扉すら用意していないんですね。
そこで僕らは、一体どういう戦略をとればいいかということなんですけどね。
小林:
そこは大切ですね。建築家は何をすべきでしょうか。
芦沢:
例えば、家づくりはデザインよりもはるかに土地やローンの話が大きい。そこにコミットできることが必要だと思います。せせこましい話かもしれませんがそれが現実です。
小林:
家を建てようとする側としては、気になる点ですね。
芦沢:
そうです。例えば、つなぎ融資がどうなるとか、ローンアドバイザーみたいですが、でもローンを引っ張れるかどうかは大事で、結局家づくりは事業を立ち上げるのと同じですから。もし建築家が今までのように一番上に立ちたいならそれはやらないと。
鄭:
通常誰かが銀行に相談すれば、担当者が一人ついてくれますね。設計も、住宅ローンが必要だからって、ついてもらえばいいんですよ。
芦沢:
なるほど、そうか。
鄭:
不動産屋はその辺を知っています。
芦沢:
それがわからないから仕事をとれないでは寂しいですね。建築家の講演会もいいが、そういう勉強会なんかにも行かなくては。
小林:
「そこだけはわからない」って言われると、そのほかも不安にさせてしまいますよね。
芦沢:
「いい家をデザインします。」だけでは通用しなくなるでしょうね。なぜなら、デザインもプロデュースも出来る人たちがどんどん出てくると思われるからです。それは個人にせよ、建築プロデュース会社にせよ同じことです。あとはどう扉をつくるかです。すぐに叩きたくなるような。
鄭:
純粋建築の世界でずっとくると、そういうエリアに足を踏み入れたくないって拒否反応を示す場合も…。でも、それを排除して線を引くだけをやれるかというと、それは無理です。
芦沢:
きれいごとだけでは飢え死にしますよ…。
鄭:
それから、自分のお金がいくらってはっきり言えない設計者は多いですね。そこをはっきりと言うことは、お客の安心につながるのに。「私はこれだけの仕事をやります」ということになりますからね。
芦沢:
プロとしてやるなら、そこは当然必要ですね。
今後向かう、その先とは…●
芦沢:
間口を広げているという意味では、トラフなんかは建築にこだわらないし、熱意はあるし、勇気を与えてくれます。
修行時代の設計事務所でズタボロになるというのが最悪のパターンですね(笑)。そこで生きる力を身につけて羽ばたいていくべきなんですけど。
鄭:
建築だけでは弱いかもしれませんね。それだけだと苦しいし…。
芦沢:
僕は「建築家です」ということに気恥ずかしさを感じています。まだまだ勉強することが多いというのと、「先生」と呼ばれて祭り上げられたくないというのもあります。家のつく商売で「政治家」「画家」がありますが、自分で名乗るにはそれなりのことをしてもらいたいと思っているからというのもあります。

小林:

何をもって「建築家」になるんでしょうね。芦沢さんが向かう先は「建築家」なんですか。
芦沢:
今までいろんなことに手を出してきて、それぞれがとても楽しいんですね。家具作りも照明も、もちろん建築もインテリアも文章を書くことも。何かの肩書きが自分の行動や職能を狭めることのないようにとは思っています。建築家という職業は本来そのような幅広い職能を統括するイメージを持ってる名前だとは思いますが、自分がそのイメージになれるまでは封印しておこうかなと。あるいはジャン・プルーヴェのように「建設家」というのもかっこいいですけど。
小林:
確かに、特化すると不自由になります。
芦沢:
そうです。例えば、他の設計者から「キッチンをつくってほしい」と言われて製作図を書いたりしますが、それはそれで楽しかったりします。「へえ、こんな材料つかうんだ」とか思ったり…。

小林:

そこは分かれ目かもしれませんね。そういう依頼があっても、キッチンだけなんてつまんないと言って事務的に終わらせる人と、それでもプラスを得ようとする人と、そこは決定的に違いますね。
芦沢:
何でも学べると思った方がいいです。辛いと思ったら、全部が辛いですから。
鄭:
外から入ってくるのは自分にとっては異質なものですから、それに触れられるのは面白いし刺激があります。つまらないものは「つまらない」っていう刺激があります。なんにでも、我々が気づかない何かがあると思います。
芦沢:
「つまらない」「自分の仕事ではない!」といって心を閉ざしてしまっては何も始まりません。物事をポジティブに見るというのかな。

小林:

それを見られる人が、面白いことができるようになるのかなと…。
芦沢:
それから面白そうだったらとりあえず何でもやってみることです。僕なんか施工もずいぶんしました。面白いのと生きていくための両方ですけどね。
小林:
施工?
芦沢:
スーパーロボット時代です。現場でつくりながら「ここは、こういうふうに設計しておけばよかった…」と思うわけです。そういう思いは、次に生かされます。

小林:

芦沢さんは現場主義ですか。頻繁に現場に行きますか。
芦沢:
現場主義かどうかはわかりませんが、正しい決定をするために現場には行かざるをえませんね。
鄭:
現場に行っちゃった方がはやいし、コストもかからないことがありますね。
小林:
結果もよかったりします。
ギリギリでも取付前なら「ちょっと待って」って言えますからね。だから現場に行くんですよね。
芦沢:
この前も、階段を取付けの直前に直してもらいました。ラッキーだったなーと思いました。

鄭:

そういうことは、本当に多いですよね。意図というのは、伝わらないものです。

小林:

こんなに人に伝わらないのかって思います。
芦沢:
コミュニケーションって難しいですね。設計の仕事の半分はコミュニケーション。そのスキルは大事だと思います。
小林:
建築を知らない人は、施工現場に間違いがあるということを理解できないみたいですね。「つくるために図面があって、そのとおりにつくるんだから、間違うわけはないんじゃない?」って。そこにギャップを感じました。
芦沢:
だから、誤差をどれだけ吸収できるようなやり方なのか、ということが重要ですね。

鄭:

もし「誤差1mm以内」とかいったら、莫大なコストがかかる。現実はそうではないので、今のコストバランスが成り立っているのかもしれませんね。
芦沢:
だから、誤差をどう読むかが建築の一つのテーマに成り得ます。
小林:
逆に、現場で「やった!これは快心の出来事!」というようなことはありましたか。
芦沢:
うーん…、現場ではジタバタしていることが多いですね。思い描いたようにはなかなかいかないですからね。その辺のジレンマと闘ってますよ。だから、現場から帰ったときは腹が立ってしょうがないです(笑)。もちろん自分に対してもですけどね。逆にうまくいったときはものすごくご機嫌になります。単純ですね。
というように、僕はもともと、どちらかというとモノづくりの話が好きです。でも最近は、知らず知らずのうちにさっきのような「建築家のやるべきこと」のような話になってしまうんですね。それはなぜかというと…、自分の中のどこかに危機感があるんです。

鄭:

それは他の人も持っているようです。能力を社会につなげられないで喘いでいる。で、喘いでいるうちに他の人が持っていってしまう。
芦沢:
言っても声が届かない、あるいは言えない状況があります。
鄭:
直接的に言える環境をつくっていく必要がありますね。
芦沢:
デザイナーから金融業界に進んだ人が言っていましたが、ゴールドラッシュで一番儲けたのは、そこでツルハシと軍手を売っていた人だ、とか(笑)。
僕らは金も掘るし軍手も売る。広く能力を発揮するべきです。そうすることで、きちんとした報酬をもらって、きちんとした仕事ができて、みんな幸せになれるんじゃないかと思います。今の設計事務所の状態を否定はしませんが、スタッフや学生が夢を持てない状況では、アトリエ事務所に未来はないと思います。学生が今の状況の中で、事務所を開きたいと思うようになるか、です。テレビなどでは偶像化されて取り上げられて、ある意味夢を見られるのかも知れませんが、ちょっとでも現実を知っている人は引きますね。給料とか労働時間、労働環境…。

小林:

大学で助手をしていた人が「今の学生はギラギラしていない」と言っていました。
芦沢:
先生も、何を教えていけばいいのかを見直してもいいんじゃないかと思います。いかに夢を持てるか、「夢をもてるんだからガンバレ」とエールを送れるような教え方ですね。
全体を見れば、インターナショナルアーキテクトと呼ばれる人たちが引っ張っていくはずなんです。でも、その人達とはあまりにギャップを感じてしまうので、身近にヒーローがいるべきなんです。ひとまずアトリエ事務所を開いた僕らがアピールするべきだと思います。「僕らは、こうやって生きているんだよ」「建築っていろんなこと出来るんだよ」「アトリエ事務所も悪くない!」(笑)
芦沢さんの事務所には、鉄でできた家具が至る所にありました。躯体むきだしの内装といい、非常にクールなイメージをつくりだしていましたが、それでいてあたたかな雰囲気もありました。
芦沢さんが描く“次の建築家像”は、とても興味ひかれるお話でした。今後の活用を期待しています。
聞き手:鄭、小林(生活普段議 www.cabbage-net.com/seikatsu/

クレジットのない写真はすべてキャベッジ・ネット撮影
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